第5話 二人のお買い物①
「はぁ、最近疲れるなぁ……」
とぼとぼと肩を降ろしながらあたしは学校から下校していた。本当にこの頃、しんどくて参ってしまう。
というのは先日、あたしが学校で余計なことを口走ったせいだ。それはあのメイドさんとキスをしてしまったという事。勿論、名前なんか出さなかったし、そこまで大事には至らなかった。
けど『キス』という単語は女子高の女の子たちにはあまりにの刺激的な言葉だ。今日もあたしから色々と聞きだそうと、クラスメイトに詰め寄ら続けてしまった。
「全く、あのメイドさんがあんなことをしなければこんなことに……」
その光景を頭に浮かべて顔が赤くなる。
「も、もう何度目なのこれ!! なんかすっごく恥ずかしくなる、あぁ、もう」
あの時の事を思い出すたびに、ずっと気持ちがおかしくなる。不思議と心臓の鼓動が速くなるし、本当に不愉快だ。頭を掴んでつい髪をくしゃくしゃにしてしまう。セットしたのに勿体ない
「あ、そうだ。忘れてた。買い物行かないと」
そんな時だった。あたしは家の食材が切れていたことに気が付いた。ママは遅くに帰ってくる関係上、買い物も基本あたしが行っている。
「この近く、コンビにあったかな?」
あたしはそう言いながら、鞄から財布を取り出して中に入っている銀行のキャッシュカードを取り出す。そしてスマホのアプリを起動してコンビニの場所を検索した。
「これっていいのかなっていつも思うよ。娘に気軽に銀行カード渡すなんて」
カードを取り出しながらいつもそう思う。ママはあたしが好きなタイミングで買い物が出来るようにこれを預けてくれている。普通の家庭なら危なっかしくてやらないと思う。だって好き勝手に使い放題なんだから。
「まぁ、そんな悪用なんてしないけど、友達の前だとうっかり取り出しそうになって気を使うんだよね」
ママは有紗ちゃんなら大丈夫だからと言ってくれるが、警戒心が無いのはちょっと怖い。
「とやかく言ってられないなぁ。取り敢えずお金降ろして、いつもの商店街に寄るかな?」
そう言うとあたしはさっきよりかは足取りを軽くして地図に知らされたコンビニ、そしてそのまま商店街に向かうのであった。
メイドさんと会うことになるとは知らずに。
★★★★★★★★★★
「お、お嬢様!? なぜここに!?」
「そ、それはこっちのセリフ!!」
商店街の門をくぐった矢先の事であった。なんとあたしが悩みの種として考えていたメイドの『九条朱音(くじょうあかね)』さんとばったり会ってしまったのだ。家にいると思ったのになぜここにいるんだろか。
「あ、あんた、家にいるんじゃないの? なんでこんなところに!?」
「いや実はこれからお世話になりますので、買い物の予備知識を入れるためにここに来てみたんです」
「そ、そう。なんかメイド服じゃないあんたって初めて見た気がする……」
「さ、流石にあの格好は目立ちますし……」
「まぁそりゃそうね」
そして驚くことにメイドさんはママのコスプレの時とは違い、普段着を身に着けていた。青の透き通るようなシャツに長い白のロングスカートの身に着けている。何というか爽やかで清楚な見た目をしていて、それなのにスタイルの良さからすごく色気を感じる。それだからか通り過ぎる人がちらちらと横目で見ている気がする。
「それはそうとお嬢様はなぜここに?」
「え、あぁ。家の食材を切らしてたから買い物に来ただけ」
「そうだったですか!? 気が付かなくて。でしたら私が代わりに行きましたのに!!」
「元々、買い物の場所を調べるためにここに来たんでしょ? それにお金はどうすんの? 流石に全部全部の仕事をやってもらいたくはないよ」
「すいません!! 色々と気を使わせちゃって」
「ちょ、ちょっと!!」
二人で話しているとメイドさんはその場で頭を下げてぺこぺこと謝り出してしまったのだ。そんな様子を見ていた周りの人々にはどう映るだろうか。異様光景な事には変わりない。あたしはすぐに止めさせた。
「もう、やめてよ!! 頭を上げて」
「は、はい」
この人、この前の積極的な感じとは嘘みたいに違うなぁ。少しおどおどしているというか。なんかほっとけない。そんな感じがした。だからあたしはこう言う事にした。
「取り敢えずずっと立ち尽くしてるのもなんだし、一緒に買い物する?」
「え! は、はい!! 喜んで!!」
その言葉を言った瞬間、メイドさんはすぐに嬉しそうな笑顔を見せて来た。
(う、かわいい!!)
またしても不覚を取られて、あたしは何故か負けた気分になった。
「ずるい!!」
「え、何か言いましたか?」
「なんでもない!!」
あたしは少しむすっとした表情で、メイドの九条朱音(くじょうあかね)を少し引き離すように早歩きするのであった。
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