第4話 これは好きじゃないから

「はぁあぁああああ~~~~~!!!!!!!!」


 あたしは学校の昼休み、机に突っ伏しながら変な声を上げていた。


「どったの有紗ちゃん? いつも以上におかしな声を出して」


「有紗、なんか変なものでも食べた?」


 そしてその声に引き寄せられていつもの友達連中があたしに声をかけて来る。この声と馴れ馴れしさからして、前田梓(まえだあずさ)と秋山楓(あきやまかえで)だろう。


 おそらく心配してくれてるのだろうが、なんか声のかけ方がおかしくないか?


 まぁいつものノリなんだけどね。とりあえずその真意を直々に話してやることにする。


「キスされた」


 その一言を言った瞬間だった。


「な、なんですと!!」


「今、とんでもない事を言ったよ、この子!!」


 大声で反応していた。


「楓ちゃん!! こいつとんでもないビッチだぞ!!」


「うん、キスをするなんて何という所業!! この男っ気のない女子高でどうやって男を捕まえたの!?」


 こいつら、盛ってやがる。女子高はその名の通り、男はいない。まぁ先生は除くけど。とにかく男はいないのだ。


 だから自然と異性を嫌でも意識するし、そのため同性をも異性と認識し始めてカッコイイ女子、いわゆる王子様系の女の子に恋する子もいる。空想かもと思えるけど、意外と事実なのだ。


 話はそれたけど、つまりこの子たちは異性の恋の話に敏感なのである。だけどあたしが経験したのはそんな王子様ではない。すごくきれいな女性とのキスだ。


 そう、ただのきれいな女性。


 それなのに。


「うぅぅ!!」


 なぜか、あの時の唇の感覚を思い出してしまい、恥ずかしくなってパたパタパタと足をばたつかせる。


「楓ちゃん、これどうおもわれますかな?」


「うぅん、梓。これは完全なる恋ね。そう、『九条朱音(くじょうあかね)』は今、恋に落ちているのよ!!」


「ち、違うわ!! あれは事故で、キスしちゃっただけなんだから!!!」


 群がる友人どもにあられもないことを言われて、とうとうその場から立ち上がり、あたしは叫んだ。この気持ちは何かの勘違い、事故でキスしちゃったんだと。


「って、あ……」


 ただ叫び終わってから、不意に冷静を取り戻すと、何やらあたしはクラスのみんなから注目を浴びてしまっていた。


「あ、あぁ、ああああ!!!」


 その瞬間、自分がやったことの重大さに気が付き、顔が一気に真っ赤になっていく。


 そして


「うわああああああああ~~~~~~~!!!!!!」


 すぐさまバックを持ち去ると、すぐさま教室から逃走した。


「逃がすな!! みんな、あいつを捕まえて、恋バナを吐かせるぞ!!」


 すると誰かが、そんな馬鹿な事を言った声が聞こえた。


「「おおぉおおおお!!!!」」


 そして鳴り響く、みんなの掛け声。次の瞬間、クラスの何人かがあたしを追いかけてきたのである。


「もう、最悪なんだけど!!!」


 あたしは、顔を真っ赤にしながら、全力で学校を後にするのであった。



★★★★★★★★★★



「あ、おかえりなさいませ!! お嬢様!!」


「う!?」


 家の中に入ると、案の定メイドの九条朱音(くじょうあかね)がいた。あたしの顔を見ると嬉しそうに笑い、思わずドキリと胸が高鳴る。


「いやいや、そんなことない!!」


 しかしあたしはそう感じたことを頑なに否定した。だって女の子を好きになるとかありえない。


「何がそんなことないのですか?」


「な、何でもないから」


 思っていたことを口に出していたらしい。あたしは適当に彼女をあしらった。しかしながら本当に都合のいい人である。


 あんな感じにキスまで迫られたのに、この人はなんと昨日の事をすっかりと忘れていたのである。お酒って飲みすぎたり、悪酔いすると本当に記憶を失うんだと実感した。


 だってあんなことまでしたのに、本当にまるで何も無かったかのようにふるまっているんだもん。あたしだけなんであんな事を思い出して悶々しなくてはいけないんだ。


(あんなキスなんかで……)


 このメイドさんを見ると、触れたあの唇の感触を思い出してしまう。とても甘くて軟らかいあの熱い感触。思わず自分の指が口元に触れていた。


 それに気が付いてはっと我に返る。しかし、その瞬間、目の前のメイドさんの横顔に異変があった。というよりか、少し顔が赤いような。


 変に思っていた矢先、さらにあたしに聞こえないような声でボソッと何かを呟いていた。


(やっぱり……だよね、あたし、昨日、キ……を)


「なんか言った?」


「い、いえ何もありません!!? 早くご飯を作っちゃいますね!!」


「??」


 なんかさっきのあたしみたいに慌てるけど何なんだろうか。あたしはよく分からないまま、九条朱音(くじょうあかね)さんの後姿を料理が出来るまで見つめていた。

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