第3話〈こころじょうのふしぎ〉

 僕は先日、こころに告白して振られたわけだが…。

その日の昼休みに会話をして以降、

普通に会話をできるくらいの関係にまでなっていた。

一歩一歩、前進している。確かな手応えがあって、僕はとても嬉しい。

「ねえ、聞いてるの?」

「え、あ、ご、ごめん…。」

「さっきからずっと喋ってるのに、応答がなかった…。」

「そんなに私の話、つまらない…?」

こころは表情こそ変わらないが、
いつもより少し声は弱かった。

僕はそれを感じて、慌てて弁明する。

「あわわ、ち、違うよ…。」

「じゃあ、なんで…?」

「ちょっと、ぼーっとしてた…。」

「会話中にぼーっとするってことは、
つまらないってことじゃないの?」

「違うよ、ちょっと、考え事してたんだ…。」

「……そうだったんだ。」

「それで、何を考えてたの?」

「えっと、それは……。」

君のことを考えていただなんて、言えるはずがない。

「………………。」

「なんで黙ってるの?」

こころは少し不機嫌になってしまった。

ような気がする……。

「いや、その……、恥ずかしくて。」

「何を恥ずかしがることがあるの……。」

ため息をつかれてしまった。

「いや、そ、その、こころのこと考えてたから……。」

「……ふーん。そうなんだ。」

そう言ってこころは僕のことをじっと見つめてくる。

まるで何かを品定めでもするかのようにこころは僕のことを見ていた。

彼女はぐいっと顔を近付けて、僕の顔を覗き込んでくる。

とても距離が近くて、ドキドキする。

「………………っ。」

こころの髪の毛が少しだけ僕の鼻に触れてしまった。

その髪の毛から放たれる香りはとても心地よくて、いい匂いだった。

こころとの距離がとても近いので、僕はものすごく恥ずかしかった。

だが、こころは顔色一つ変えず、いつもと同じように無表情であった。

こんなことがあっても、動じないのか……。

僕には興味がないからなのだろうか。

「……よくわかんないね、君。」

「……え?」

「何考えてるのか、全然わからない。

とても、不思議な人……。」

「そ、そうなんだ。」

「うん。って、もうすぐ授業だ……。」

「あ、本当だ。それじゃあ、またね…。」

「………………。」

彼女は何も言わず、ただ首肯するだけだった。

不思議な人って言われてもなぁ……。

君の方が、よっぽど不思議ちゃんだよ……。


僕はそう思わずにはいられないのであった。


 帰り道、僕はこころと一緒に帰っていた。

どうやら、僕と家は近くはないが方向は同じようで、

最近はよく一緒に帰っている。

どうやら彼女は従者が迎えに来てくれる。

にもかかわらず、自分の足で来ていた。

そういったところも、本当に真面目だし、

自分のためになることならなんでもしている。

そんな印象を受けた。

とてもストイックだなと思う。

だからこそ、多才なのだと、

僕は彼女と関わるようになってから知ることになった。

まあ僕としては会話できる機会も

増えて、万々歳である。

「ねぇ……。」

「ん?どうしたの……?」

「あなたは、私と一緒にいて楽しいの?」

「う、うん。楽しい、けど……。」

急にそんなことを聞かれたため、

ぎこちない返事になってしまった。

「ふーん。そうなんだ。」

僕の返事に対して、彼女は

ややどうでもよさそうに答えた。

ああ、やはり、まだ距離は

完全には縮まってないんだ……。

こころは僕に全然興味がない

ということがわかった。

まだ、心を開いてはくれないんだな。

こころとの壁のようなものを、

少なからず感じてしまっていた。

でも、壁はきっと、壊せるものだ。

だから、その壁を壊すために、僕は

小さくても、叩き続けていこうと思う。

そういえば……。

こころって、今まで誰とも付き合ったことないのかな。

気になったので聞いてみることにした。

「こころってさ、今まで誰とも付き合ったことないの?」

「うん。ないよ……。」

「どうして……?かなり、モテてるでしょ?」

「……まあ確かに、私に告白してくる人は何人もいた。」

「だけど、みんな下心とか丸見えだもの。」

「私の顔だとか、地位だとか、お金だとか……。」

「それしか見ていないような人ばかり。私自身を、

全然見てくれてない……。」

「そんな人たちと、付き合いたくなんてない。」

なるほど。そういうことなのか。

まあ確かに、興味ない人からの好意なんて

気持ち悪いだけで、嬉しくもなんともないよな。

告白されたら嬉しい。だなんて、

淡い幻想である。

「だから私は告白してきた人とは、それ以降

絶対に関わることはない。」

「まあお陰で、あんまり友達はいないし、

女子の一部からは嫌われるけど……。」

それでもこころは無表情であった。

そこまで気にしていないのだろうか。

でも、それに関しては仕方ないよな。

こころみたいに可愛いくて、多才でモテる

人に、嫉妬が集まらないはずがない。

「それはまあ、仕方ない部分ではあるよね……。」

「まあね。嫉妬とか、気にしてたらきりがない……。」

「でも、なんで僕とは関わってくれるの……?」

「え?」

「他の人は喋ることだってしないのに、

どうして僕とだけはこうして会話したり、

一緒に帰ったりと関わってくれるの?」

「それは…………。」

こころは口を開いたが、途中で止めてしまった。

「やっぱいいや。教えない。」

「え、ちょっと。なんでよ!」

「さあ。自分で考えたら?」

「自分で考えて、答えが見つかったら、

答え合わせしてあげる。」

「どうしてわざわざそんなことを……。」

「すぐ答えを言ったらつまらないもの。」

「えぇ……。なんだよそれ。」

「まぁ、でも……。君は他とは違う。」

「それがヒントかなっ。」

表情は相変わらずだが、こころは少しだけ

楽しそうに見えたのは、気のせいだろうか。

それにしても、こころはいつもこうだ。

僕の家の方が先に着いてしまうのだが、

そのあたりになるとこうして僕を

悩ませるようなことを言ってくる。

そのお陰で、僕は家に帰ってからも

こころのことばかりを考えてしまう。

まあ、好きだからいいんだけどさ。

なんだか最近は、こころに振り回されて

ばかりであるような気がする。

でも、そんな日々もいいよな……。

僕はこのささやかな幸せを噛み締めつつ、

こころから出された問題について、真剣に、

考えていくことにしたのであった……。

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