第2話〈どうしてここにいるの!?〉

「え、ええええええええええええ!?」

なんでこころさんがここにいるの。なんで!?

僕は驚きを隠せなかった。あまりに驚いてしまったので、



箸でつまんでいた玉子焼きを落としてしまった。

「あっ…。」

しまった…。一番楽しみにしていたおかずが……。

もったいないことをしたなと、僕が残念に思っていると

「………ふんっ。」

「ええ!?」

なんと、こころさんがダイブして、玉子焼きを床に落ちる前にキャッチした。

「食べ物を粗末にしないで。もったいない…。」

「ああ、はい…。すいません…。」

「深く反省して。」

「す、すいませんでした…。」

こころさんはもったいないことは許してくれないみたいだ。

「これ、私が掴んじゃったから、食べていい?」

「ええ、構いませんよ…。どうぞ。」

「じゃあ、いただきます。」

そうしてこころさんはその玉子焼きをもぐもぐと食べていた。

「……美味しい。これ、君が作ったの?」

「え、は、はい…。そうです。」

「へえ…。なかなかやるじゃん。」

「あ、ありがとうございます。」

やった、こころさんに褒められた…。とても嬉しい。

そして、玉子焼きを食べ終えたこころさんは少し

汚れてしまった服を手で払っていた。

その何気ない仕草さえカッコよく見えて、凛としていて、

僕はこころさんに見惚れてしまっていた。

「ずっと思ってたんだけどさ…。」

「……なんでそんなによそよそしいの?」

「え…?」

「私たち、同い年じゃん。なんでそんなに


私の時だけ固いの。」

「他の人の時はそんなことないのに…。」

「そ、それは……。」

自分とは全然住む世界が違うんだ。


こうなってしまっても、仕方ないんじゃないかな…。

「私、そういう風にされるの、嫌いだから…。」

「私が社長令嬢だからとか、そういう風にして


持ち上げられたりするの、本当に嫌い…。」

「だから、そういう風に接してくるなら、君も嫌いになる。」

「…………っ」

嫌い。その二文字が、僕の心に突き刺さる。

だが、嫌いになるってことは、今は嫌いじゃないってことだ。

それに、僕と全然関わったことがないのに、

僕のことを結構理解してくれている気がする。

人のことをよく見ているのかもしれない。

だけど僕はどこか彼女のことを金持ちだとか、

高嶺の花だとか、そういう目で見てしまっている。

僕は彼女の気持ちを理解できていなかったことを知った。

そして、お金持ちなのに、玉子焼き一つであそこまでする。

決して無駄にしたりしないような、そんな精神が見られた。

その姿を見て、僕はますますこころさんが好きになってしまった。

僕が想像している以上に、こころさんは優しくて、


誠実で、謙虚で、いい人なのかもしれないと思った。

「だから、敬語、外して…。」

「とても距離感を感じるから…。」

「わかり……った。」

「うん…。まあ、しばらくはそんな感じだろうけど、


改善する気があるなら許してあげる。」

「あ、ありがとう…。」

僕はこころさんに振られたばっかりだというのに、

なぜかこころさんがこの教室にいて、そして僕に話しかけてきてくれた。

そのお陰で少しずつ距離が縮まっている気がする。

それに、こころさんについて少し知れた気がするし、

僕の作った玉子焼きをおいしいと言ってくれた。

それらは僕にとってとても嬉しいことだった。

でも、どうしてこころさんが僕に話しかけてきてくれたのか。

そのことを、僕は理解できなかったのである。


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