What are you doing?
《何をしているの?》
アトラクションを五つ巡り終え、園内のレストランで昼食を取った。
今回、参加者が使用する厨房などは存在していない。食事は園内のレストランやカフェ、屋台などで手に入るものが全てだ。
料金等はなく、無料で注文し放題らしい。
ちなみに店員は人やスウィーツではなく、どうやら魔物のようだった。
透意曰く、もともとはスウィーツが店員をしていたらしく、ルナティックランドによって入れ替えられたみたいだ。
とまあ、そんな昼食が終わり。
私たちは全員一塊になってアーケードエリアへと向かった。
ここはエントランスエリアとの接続部から始まり、城の手前辺りまで続いているショップ通りだ。この世界に雨が降るのかどうかは知らないけれど、アーケード通りというのはなんだか特別な場所のようで面白い。
とはいえ、そんな無邪気な理由でここに来たわけではない。
私たちはここに、役に立つ何かを求めてやって来た。
脱出に役立つもの、生活に役立つもの、あるいは安全確保に役立つもの。
ルール説明により、凶器ショップなるものがここにあることはみんな知っている。だから事前に、たとえ自己防衛のためだろうと凶器の携帯は厳禁という取り決めが交わされた。ルールのせいでその取り決めが順守されているかは確認のしようがないけれど、少なくとも全員が凶器を持ち歩いているような異常状態に陥るよりは、精神衛生上よほどいいだろう。
昨日は今後についての話し合いに終始し、残りの時間で適当にアトラクションノルマを達成した形になったため、ここに来るような時間はなかった。しかし放っておけるような場所でもないため、今日は午前はアトラクションノルマの消化、午後はショップ巡りという流れになったわけだ。
『あ、ちなみに凶器ショップ自体の監視を規制してるだけで、凶器ショップ内部の人の監視は制限してないから、みんなで一緒に入っても問題はないよ』
「……っ! 出たね、魔王の手先」
突然割り込んできたビタースイートに対して、玉手さんは警戒を隠しもせずに接する。万木さんもその隣でビタースイートに鋭い目を向けていた。
ちなみに他の面々は、怯えるか傍観するかの二択だった。傍観勢は私と透意、包さん。他は多かれ少なかれ怯えを覗かせていた。
『手先なんてそんな、過大評価しすぎだよ! 僕は魔王様の忠実なる犬だよ! 前回の犬の代わりだからね!』
「わんちゃんにしては可愛くないなぁ。うちの近所のレオくんでも紹介してあげようか? いっつも尻尾振って寄ってきて、超可愛いんだから」
『あ、遠慮しておくよ! 大事な魔力はちゃんと殺し合いに使ってね! それじゃ!』
ビタースイートは現れたときと同じような唐突さで、そのまま去っていった。
……ともあれ、凶器ショップのルールに関しては私も案じていたから助かった。
「ふぅ、どっか行ったね。それじゃあみんな、一度凶器ショップとやらに行ってみるけど……置いてある物には絶対触らないでね。絶対危ないから。何か役に立ちそうなものがあったら、あたしか光花を呼んでね」
「わ、わかったのです!」「い、いいとも」「それが天命と言うのならば」
それぞれが了承の言葉を返して、私たちは凶器ショップとやらに踏み込んでいった。
凶器ショップはアーケード通りの一番端、城に一番近い場所にあった。
アンティーク調のレトロな内装の店で、店内は焦げ茶の木製棚で仕切られている。
ただし棚の配置は迷路の壁のようで、その上高さもそれなりにあるからかなり視線が通りづらい。どうにも狭苦しい感じがあり、店の内装としては失格と言わざるを得ないけれど、これもルナティックランドの計算の内だろう。
わざわざ内部での相互監視を制限しなかったのは、これが理由か。これじゃあ、どうやっても店の内部全体を一度に監視することは不可能だ。今この場で凶器を持ち去ろうとすれば身体検査なりですぐにわかるけれど、夜間に凶器ショップを内部で警備するなんて真似はできそうもない。どうやら、入り口も複数あるようだし。
肝心の凶器ショップの中身は、まあその名の通り物騒なものが置かれていた。
至極一般的なナイフ類に始まり、包丁、斧、棍棒、メイス、ハンマー、草刈り鎌、アイスピック。
それらの品が所狭しと並んでいる。変わり種では、棘鉄球付きのフレイルなど、華奢な少女にはどうやっても振り回せないような武器まで飾られていた。
ただラインナップを眺めていて、あることに気が付く。
この店、射撃系の武器や長物の武器がない。
でも確かに、納得はできる。
銃の類で狙撃されようものなら、素人に狙撃ポイントを特定する術などない。トリックなど用いる必要もなく、完全犯罪の達成だ。それを抑止しようという目論見なのだろう。
長物の武器、つまり槍の類が存在しないのは、一方的な攻撃を嫌ったためだろうか。よくよく店内を巡ってみれば、置いてある刃物もせいぜいリーチが五十センチ前後のものしかなかった。
襲われたから返り討ちにした、というシナリオが発生可能にするためだろうか。確かに槍などの長物で一方的に攻撃したなら、相手がよほどの手練れかこちらが相当の不器用でない限り、反撃を許さず殺すことができる。もちろんここにいるのは魔法少女なのだから、魔法の相性も絡むだろうけれど。
前回の三つ目の事件は、襲撃を返り討ちにして起こった事件だった。ルナティックランドはあの事件を気に入っていたようだし、それの再現を望むというのなら納得はできる。
そんなことを思いながら店内を巡っていると、同じく店内を巡っていた透意に出くわした。
「透意、何か見つけた?」
「いえ。……やっぱり、脱出の役に立つ物は何もないみたいです」
「そう。まあ、相手は魔王だものね」
周囲に魔法少女たちもいるので、話せることは少ない。
ルナティックランドがそうそうミスをするはずもない、という予測すら話すこともできない。
……私と透意の関係性も相まって、雑談すら芽生えず、得るものが本当に何もない会話だ。透意とは、夜の密会以外で会話をしない方がいいかもしれない。
「……ん?」
ふと、透意の奥の人物に気が付く。
霧島さんだ。彼女は何故か人目を気にするようにキョロキョロとしながら棚に近付き、私たちがいることに気が付いた途端に首を振るのをやめた。
……怪しい。怪しすぎる。
「透意。ちょっと、こっちに」
「え? な、なんですか、いきなり」
「見せたいものがあるのよ」
嘘をついて、一旦透意を棚の影に連れ出す。霧島さんはチラチラとこちらの行動を窺っていた。
私も棚の影に入ると、そこで足を止める。
「なんですか? ここに何か……」
「しっ」
唇に手を当てて、耳を澄ませてしばらく待つ。
……。…………。何も起きない……。
――コト。
「……っ。透意、戻って」
聞こえた。今の音。私の想像が間違っていないのなら……。
透意は視線はとても訝しげだったけれど、一応は私に従って元の場所に戻ってくれる。
そして……。
「あっ、栗栖さん……」
「霧島さん、何をしているのかしら?」
「わ、わっ」
棚に置いてあった仕込みナイフを手に取り、懐に忍ばせようとしている霧島さんと鉢合わせた。
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