What do this rules mean?
《このルールは何を意味する?》
「はぁ……」
夜。与えられた個室で、私はムーンライトとかいう腕時計型機械を弄っていた。
今やっているのは、ルールの考察だ。全体で確認したけれど、やはり気になる点がいくつか……いや、いくつもあった。
・以下のルールに違反した者は即刻処刑される。なお、命が惜しくないからと意図的にルールに違反した場合、追加で相応しい罰則が与えられる。
ルールの一番先頭に書かれていたことだ。意味はわかるけれど、意図がわからない。ルール違反は即刻処刑? たった九人しかいない殺し合いで?
いくらなんでも滅茶苦茶だ。第二文でルール違反を思いとどまらせようとしているのはわかるけれど、それにしたって思い切りがよすぎる。前回の殺し合いではせいぜい、罰則なんて嫌がらせ程度に留めていたというのに。
ルール違反での処刑なんて、何の面白みもない。一時の刺激は得られても、その後の展開に生かされることは基本的にない。ルナティックランドとて、それは知っているだろうに。
・一日に最低五つの種類の異なるアトラクションに入場しなければならない。
これはまあ、多様な舞台を活かすためのルールということだろう。
個室に引き籠もってばかりいられても面白くない。意図自体は理解できる。
・各個人に与えられた当人の個室以外での睡眠を禁ずる。
これは、いつまでも団体行動をして殺人を犯せなくする行為への予防策に違いない。人は眠らないわけにはいかない。そこで個室以外での睡眠を禁じれば、夜はどうしても別行動になる。隠れて行動したい人間にとっては絶好の機会だ。
・鍵のかかる場所等、安全のある程度確保できる場所に立てこもる行為を禁ずる。
これは、前回にもあったルールだ。ただし先ほどのルールにより、罰は鍵の破壊ではなく即刻の処刑へと変更されている。そこだけは気をつけておかなければならない。
・参加者が参加者を殺した場合、殺害方法、あるいは故意/過失/無自覚を問わず、実行者を【犯人】と認定する。
・如何なる場合においても、共犯者を作る/共犯者として働く事を禁ずる。
・殺人の証拠品を各アトラクション外に持ち出す行為を禁ずる。ただし衣服に付着した返り血等、持ち出しがやむを得ない証拠品に関してはその限りではない。
・誰かに罪を擦り付けるという目的がある場合を除き、犯行に一切無関係な物体を証拠品と偽って設置することを禁ずる。
これは基礎ルールと、難易度調整のためのルールだろう。
共犯者が一人いるだけで謎の難易度は跳ね上がる。また、これだけ広い場所なら証拠品は適当な場所に捨てておけばほぼ発見が不可能となる。あるいは、ダミーの証拠に混ぜればいくらでも証拠を隠せる。
それを抑制し、素人でも推理が可能にするためのルールだ。ただし罪の擦り付けは可能となっている辺り、単純に【犯人】の無力化を目的としたルールではないと窺わせる。
・襲撃された場合の自己防衛行動を除き、何の隠蔽計画にも基づかない殺人の一切を禁ずる。
・事件解決前の自白を禁ずる。
・ゲームフィールド内に爆発性あるいは発火性を持つ物質は存在しない。毒殺用に設置された毒物も同様に存在しない。毒殺に流用可能と思われる材料は存在するが、それを用いた毒物の作成及び使用は禁じられる。
・アーケードエリアに存在する凶器ショップの監視/封鎖/商品の独占を禁ずる。
この辺りは、ゲーム的な面白さを加味して作られたルールか。
この広い遊園地。適当な場所で適当な誰かを殺せば、おそらく【犯人】は特定できない。アリバイを誤魔化す魔法がいくらでも存在する、ということもある。だから、雑な殺人は禁じられている。
自白禁止は……命が惜しくない【犯人】に対する警告か。
爆発物や毒物の不在の明確化。これは確かに必要な措置だろう。食事に毒が混ぜられていた可能性なんて追っていたら、もう推理も成り立たない。
凶器ショップについてはまだ行っていないから詳細がわからないけれど、名前からして【犯人】以外は用がないような場所だ。ここを監視されたら【犯人】は行動できない。それを阻止するルールだろう。
・固有魔法以外の一切の超常的能力は剥奪され、参加者の肉体的防御力は通常の人間と同レベルに固定される。また、魔法に対する耐性も機能停止される。
これは……今日確認した。
本当に、私にもこのルールが適用されている。固有魔法は[幻想書架]以外に使えず、身体能力強化もないから針が刺さっただけで血が出るし、魔法に対する耐性は……これだけは試せていないけれど、おそらくここに書かれている通り。
もうこれでは、魔王などと名乗る事すらできないレベルだ。
・各アトラクションには【通報】ボタンが設置され、事件の痕跡を発見した場合に誰かがそのボタンを押せば、ゲームフィールド全域にアナウンスが流れる。なお事件発生アナウンス以外の目的でこのボタンを利用することは禁じられる。
・決定的な証拠を見つけながら、【犯人】以外の者が意図的に【通報】を遅らせることを禁ずる。
・【通報】により事件が発覚した場合、事件解決まで如何なる殺人行為も禁止される。ただし過失/無自覚な殺人/既に停止不能な仕掛けによる殺人はその限りではない。
この辺りで、ようやく殺人絡みのルールに入る。
【通報】というのは新しい要素だ。確かに前回は死体発見時の処理が曖昧だったし、この辺の明確化は納得がいく。
その【通報】に並んで書かれているのは、これも共犯の禁止と似たような内容。それと皆殺しでの強引な【真相】の隠蔽の禁止だ。
・殺人が発生した場合、【通報】の一時間半後に【審判】が開始され、【真相】の究明が求められる。【審判】の制限時間は開始から一時間半後。
・【審判】において【真相】を言い当てられた場合、【犯人】は処刑される。証拠と明確に矛盾する推理を結論とした場合、【犯人】以外の全員が処刑される。
・殺人が複数回起こされた後に【通報】が発生した場合、【審判】ではその全ての事件について時間内に解答しなければならない。仮に一部の殺人に関して正解したとしても、一つでも【真相】を誤った殺人があれば、全ての殺人に対する解答は不正解と見做される。
この辺りのルールは前回とあまり変わらない。
ただし、議論に【審判】という名前が与えられたことと、捜査と【審判】の時間が明確に定められたこと。これが前回との相違点だろうか。
また、一度に同時に事件が起きた場合の処理も書かれている。……これは、推理する側にはかなり厳しい。制限時間はそのままに、複数の事件の謎を全て解けと言う。ただし一度に複数のトリックを用意するというのも、相当に難しい事だろう。このルールは、それを成し遂げるだけの価値があると思わせるためのものか。
……さて、ここまではいい。ルール違反で即処刑というのは納得できないけれど、邪魔者の排除という点では意味があることだ。
しかしこれ以降は、どうしても意図がわからない部分が二つある。
・【真相】を【審判】終了時まで隠し通した【犯人】は、絶対的安全の保障された別の場所に移送され、ゲーム終了後に解放される。更にゲーム終了後、魔王ルナティックランド本人を害する以外のあらゆる願いを一つだけ、魔王ルナティックランドに願う権利が与えられる。当該魔王はこの願いに対し、原理的不可能性のある場合を除きその成就を可能な限り支援する義務を負う。なお、解放後の自由及び、その者が望まない限りのルナティックランド側からの不干渉は、狂気の魔王の名において保証される。
これも前回とさして変わらない……ように見える。けれど、わざわざ変更されている点がある。
【犯人】は別の場所に移送され、ゲーム終了後に解放される。つまり、即時的な解放ではなくなっている。前回の殺し合いでは動機の一つともなった重要な要素であるにもかかわらず、特に意味も見出せない形で変更されていた。
なぜ? 如何なる理由で、ルナティックランドはわざわざこの部分を書き換えた?
これが意味不明な点の一つ目。そしてもう一つ。
・【犯人】以外の参加者が残り二名以下となり一日が経過した時、あるいは参加者の中に紛れている特定の魔物を討伐し、それ以降殺人が起こらない状態で一日が経過した時を以て、ゲームは終了となる。ゲーム終了時点で生き残っている者は全員、安全を保障された上で元の場所に送還される。
特定の魔物、私か透意のどちらかを殺せばゲーム終了。これは積極的な殺しを促すためのルールだろう。それはいい。
意味がわからないのは、わざわざ『一日が経過』という条件をどちらのエンディングにも制定していることだ。条件を満たしたなら、さっさと終わりにしてもいいはずだ。
終了が確定してもなお【審判】をやらせたい、というのならわかる。それはゲームマスターとして自然な思考だ。しかしそれなら、三時間で済む。一日も猶予を取る必要はない。
……こういったデスゲームのルールには、主催者の思考が現れる。
わざわざ書かれているなら、何か意味があるはずだ。
今はまだ情報が足りなくて読み取れない、ルナティックランドの意図が。
それこそが、この状況を打開する鍵になるのだろうか。
「…………」
私はムーンライトの画面を消して、ベッドに転がった。
今日は遊園地各所の探索をして、なおかつルールに従っていくつかのアトラクションも体験し、かなり疲れた。
もう寝てしまおうか、と思い電灯のリモコンに手を掛ける。
――コンコン
ふと、硬質な音が響いた。音は……ドアから? ノック?
私は訝りながらも立ち上がり、ドアの前まで行った。
ドアには鍵が付いている。今回は内鍵のみという不用心な仕組みではなく、外からも鍵を掛けられる鍵となっている。前回で鍵を内鍵しか取り付けなかったのは、証拠の隠し場所として利用されることを嫌ったからだ。どんな証拠も自分の個室に鍵をかけて押し込めてしまえば、容易く推理不能の事件を作れる。それはよくない。
しかし今回は、ルールによって証拠品の持ち出しが禁止されている。だから鍵は普通に取り付けられているのだろう。
まあ、それはいい。
「誰?」
言うまでもなく、この状況下で他人の部屋を訪ねるのは危険だ。
前回、彼方さんと桃井さんは初日から一緒に寝ていたらしいけれど、あれは友人関係にあったからこそだろう。この場にいる七人の魔法少女と私は面識がないし、透意に至っては敵対関係だ。
この状況下、相手が何を企んでいるかわからないし、相手からしてもそれは同じだ。
にもかからわず、私を……よりにもよって魔王のもとを訪ねてきたのは、一体誰なのか。
「甘味 透意です。話があって来ました」
「え? スイー……透意?」
予想外の事態に、危うく彼女の本名を口に仕掛けた。
ドアの外は透意以外にもいる可能性がある。迂闊に口にはできない。
「……一人?」
「はい。私だけです」
「正気? 私が何を企んでいるかもわからないのよ?」
「それを見極めるために来たんです。入れてもらえませんか」
「…………」
もちろん、手出しするつもりはない。
しかしいくらなんでも不用心すぎるだろう。魔法少女たちの未来を背負った者の行動とは思えない。
もしかしたら、罠かもしれないと思った。変身魔法である[混沌変化]を持つ包さんが、透意に扮して私を殺しに来たのではないかと。
しかしすぐにその考えは打ち消した。私は他人に、透意と深く接する場面はまだ見せていない。この状況でも構わず招き入れるような相手であるなどと、見抜くことは不可能のはずだ。むしろ狙うなら、互いに見知った仲であることを隠してもいなかった玉手さんか万木さんを狙うはずだ。
だから、外にいるのは透意で間違いない。
では、透意が私を殺しに来た可能性は?
……その可能性は、あるだろう。けれどそれは、私が透意に申し出たことだ。
私を危険と判断するなら、私を殺せ。
それを実行に来ただけなら……。
「いいわよ」
私はドアの錠を回し、透意を中へと招き入れた。
透意は、その手に凶器を――
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