【解決編】This is the whole story of this case.

《これがこの事件の全て》

(作者注)

Chapter3の事件は不可解性に極振りしたもので、重要な点をどれだけ拾い、どれだけ矛盾のないシナリオを証拠から再生できるかを試す問題でした。

そのため、一部、客観的な推理が不可能になった点もあります。

その辺りを含めて解説するために、客観的な事件の推移を以下に記します。

ストーリー進行に支障はないため、興味のない方は読み飛ばしてくださって構いません。







「午前三時前後」

摩由美が自分の部屋から抜け出し、倉庫からノコギリを手に入れる。

その足で摩由美は双子の部屋へ。この時間帯を狙ったのは、ずっと気を張るのに疲れて双子の少なくとも片方は眠ってしまっているだろうと考えたから。仮に片方眠っていれば起きている方に[呪怨之縛]を使って、黙らせたまま殺害。その殺害により[呪怨之縛]のストックが一増えるので、それを残ったもう一人に使って、殺害。その後で諸々の偽装を施す予定だった。両方とも眠っていればなお良し、と摩由美は考えていたが、この計画は危険極まりない。両方起きていた場合の対処を摩由美はロクに考えていなかったし、そもそも、摩由美は自分の魔法の効力を勘違いしていた。摩由美は自分の魔法を最強と言い張っていたが、今まで全く使っていなかった魔法であるが故に、その仕様を正確には把握できていなかった。[呪怨之縛]は相手の魔法を封じることはできず、それの弱点を突かれて、摩由美は反撃に遭い死亡した。

そもそも摩由美が部屋に突入した当時、双子は両方とも起きていた。まず摩由美は佳奈に[呪怨之縛]を使って接近した。佳奈は為す術がないと思い途中まで接近を許したが、悪足掻きとして魔法を発動しようとしたところ、冷静さを失っていたことから暴発しそうになったが、魔法は無事に発動した。佳奈の[存在分離]は摩由美の四肢と首を切断し、その出血で摩由美を死に至らしめた。

摩由美が死んだ後も[呪怨之縛]の効果は残留したが、その効果も十五分後には自然に解除され、佳奈は自由になった。

思いがけず殺人の咎を負わされて二人は慌てたが、そこへワンダーが乱入。【真相】を隠しきったなら、願い事の権利で双子を二人とも脱出させてあげてもいい、と打診する。その言葉を信じ、双子は隠蔽を開始する。




「午前三時半~四時過ぎ」

佳奈と凛奈が必死になってトリックを考える。

双子の入れ替わりを提案したのは凛奈。しかしそれだけではきっとあの厄介な連中は看破してくると思い、更なるトリックを考えようと二人は知恵を絞った。

その中で佳奈が、被害者を不明にするトリックを作ってはどうか、と思いつく。自分の魔法なら、石像を落として被害者をその下に隠すことができる。早速それを提案しようとするが、石像の下を見られてしまえば即座にアウトだと思い至る。他のメンバーの厄介さを誰よりも重く想定していた佳奈は更に、石像の下の死体にも偽装を施すことを思いつく。

まず凛奈に依頼して、[存在融合]で髪を入れ替える。こうして摩由美は白髪に、佳奈は赤毛になった。この時に困ったのは、摩由美の服。摩由美が死んだことで変身が解け私服に戻ったのだが、その服は彼女の名前がデカデカと刻まれていた上に、コミカルな幽霊猫が描かれているというなんとも自己主張が強い服だった。これを着せたままだとバレてしまうかもと思った佳奈は、自分の服を摩由美に着せる。本当はこのとき、摩由美を裸に剝くだけで完璧になったのだが、佳奈は終ぞそれに気づくことはなかった。

石像で潰せば体格はわからなくなるだろうけれど、それも彼方の[外傷治癒]で修復されると考えた佳奈は、最初の事件を思い出し、彼方の[外傷治癒]を回避する方法を思いつく。本当にそれが可能か密かにワンダーに確認を取り、お墨付きをもらったことから今回の作戦を実行。




「午前四時過ぎ~六時」

凛奈をなんとか説き伏せ、佳奈は一人で双子の部屋を出て行く。

血やノコギリの偽装も考えたのだが、血だけはどうしようもないため隠しても無駄だと思い、摩由美が持ってきたノコギリ共々その場に放置。

倉庫を物色して長釘を発見。その後、浴場からバスタオルを大量に部屋に持って行き、五分割した死体を一つずつ包んで、浴場へと運ぶ。

苦労しながら、五分割した死体を一つずつ長釘で固定する。本当はこの時、浴場の水を抜いた方が作業が楽だったが、佳奈はそれに気づかずに、濡れながら下着姿で死体の固定を行った。これが佳奈の犯したミスその二。

時間がかかりつつも死体の固定を終え、佳奈は石像への細工に取り掛かる。このときワンダーが言っていたように、位置や削る量などワンダーからアドバイスをもらいながら、佳奈は石像への細工を完成させる。




「午前六時~」

細工を終えた佳奈は、既に魔力も尽きかけ、気絶寸前だった。なんとか意識を保って、血に汚れたバスタオルを持ち、空き部屋となった摩由美の部屋を目指す。途中で双子の部屋に入り、凛奈に細工を終えたことを告げ、倉庫で発掘してきたマジックペンを渡す。そして「二人で一緒に生き延びるために必要なことだから、このマジックペンで石像の頭に落書きをしてきてほしい」と頼む。凛奈は盲目的にそれに頷く。それを確認すると、佳奈は部屋を出た。

ここで佳奈は摩由美の部屋を目指すが、またしても誤算が一つ。摩由美の部屋を目指す後ろ姿を、彼方に目撃される。幸いにして赤毛以上の情報が彼方に渡ることはなかったが、あと少しで、『何故か佳奈、あるいは凛奈が赤毛に変わっている』という情報が掴まれるところだった。(いただいた推理ではこれをわざとだと考える方が多かったですが、普通に考えてあまりにも博打すぎます。ほぼ完璧に隠蔽を行ったのですから、こんな危うく自分の正体までバレてしまう綱渡りのミスリードを敢行する理由は薄いです)

ちなみに、双子の部屋の前に置かれた食事が若干移動していたのは、佳奈が通行の邪魔だからとどけたため。

またこれも本当にギリギリのところだったのだが、彼方と香狐が階段を下りた直後に、凛奈が行動開始。あわや鉢合わせするようなタイミングで階段を下り、佳奈の指示通りに儀式の間へ。

石像の頭にはどう考えてもよじ登らないと届かなかったため、凛奈はよじ登って落書きをしようと試みる。なおこのとき、凛奈が持っていたマジックペンは既にキャップが開いた状態だった。凛奈はジャンプして、石像の背中に手を伸ばす。すると佳奈が計画した通りに、石像は落下を始める。落下の衝撃で凛奈はバランスを崩し、転倒。その際、石像の背中から脇腹にかけて一本の線が引かれてしまい、また、自分の手にもマジックペンが擦ってしまった。またこのとき、切断された元・床の角に左腕を打ち付けた。衝撃と痛みに思わずマジックペンを離してしまったのも凛奈の失敗の一つ。

何が起きたのか理解できない凛奈だったが、石像の下の生々しい音、血、そして一人ぼっちの不安や混乱が多重に重なって、姉から任された仕事を放棄して浴場を飛び出してしまう。なおもちろん、佳奈は落書きなんて必要としていなかったため、この行動は結果的には何も問題ない行為。

そして廊下に出てすぐに、凛奈はこちらに向かってくる彼方と香狐に鉢合わせする。一瞬怯えを見せてしまうが、佳奈と取り決めた双子の入れ替わりのことを思いだし、また、この状況も姉が仕組んだものに違いないと考え、演技を始める。

このとき、彼方や狼花の名前を覚えたことを共有しなかったのは、佳奈の失敗。

姉を信じつつも、無理解による混乱や不安により、やや一貫性のない、情緒不安定な言動をしてしまったのは凛奈の失敗。






以後の流れは、本編で描写された通りです。

恐ろしく緻密に計算されつくした謎のように外からは見える今回の事件ですが、当事者たちはかなりミスを積み重ねていました。


僕が思いついた限りでは、これ以外の流れではほとんど何かの証拠に矛盾するのですが、一つだけ別解の可能性があります。

それは、石像を落とす件の発案者が凛奈というルートです。凛奈は風呂に死体を固定した後、佳奈に詳細を知らせないまま、死体の真上を切り取り線のように切断してほしいと依頼。その後、踏めば落ちるようになった石像を佳奈が踏み――というルートです。可能性の上でなら、これでも成立します。その場合、石像落下後に彼方たちが遭遇したのは佳奈ということになります。

証拠の上で矛盾はない方法ですが、これにしても疑問点は残ります。わざわざ切り取り線のように石像の床を切断する必要がないこと(フェイクというなら別ですが)、踏めばあからさまに落ちる石像を佳奈に踏ませる場合、どんな説得をすれば事情を知らせず実行させられるか、の二点です。そもそも、普通に落としてもいいなら佳奈が浴場に落ちる必要もないですし、割と高さがあるのでかなりの危険行為です。その上事件の最重要容疑者に躍り出ることが確定してしまうので、避けられるなら避けたいリスクのはずです。またこのルートだと、マジックペンの役割が完全に消滅してしまいます。

だからこのルートは別解としては成立しますが、自然な流れを考えるなら発案者は佳奈であると推理できます。


以上、事件の全容解説でした。

以後はアフターを、今回は特別に視点を一つ増やして四話投稿します。その後いつも通りお休みをいただいてから、Chapter4の開始です。

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