After the Third Tragedy ①
《第三の悲劇の後で①》
(※引き続き精神汚染度大。ご注意を。by作者)
◇◆◇【棺無月 空澄】◇◆◇
どうやら、カナタンが折れちゃったみたいだ。
まさかワンワンが言うように、あの双子に嫉妬してるなんてことないだろうけど。
――どうして死者の剣が折れてしまったのか。
そんなの、一つしかない。死者への想いが揺らいだからだ。
――やっぱり、単純にロウカスへの想いが足りなかったみたいだ。よくよく考えれば、カナタンはロウカスと出逢って五日かそこらだった。そんな中途半端な想いで死者の剣を作るなんて、もしかしたら無謀だったかもしれない。
カナタンは誰でも思いやれる聖女タイプっぽかったから、いけると思ったんだけどな……。
たった一本の剣を貫き通す意義を見失えば、脆く崩れ去ってしまうのが死者の剣だ。だからこれを握り続けていたいなら、大切な相手のものでないと。
そうでないと、全てを投げ出せる原動力なんて、生めるはずがない。
ロウカスへの想いだけを原動力に魔王をどうにかするなんて、やっぱり無理があったか。
まあ結局、あーしが教えた道は、進むも地獄退くも地獄の修羅の道だ。
死者の剣を握って、狂気的な想いで死者に身を捧げるか。
死者の剣を拒んで、死に対して悲嘆に暮れるか。
そのどちらかしかない。主観的に見て、自分の狂気に無自覚的になれる前者がマシというだけ。
――それを自覚しながら狂人であり続けるあーしも、まあ、完全にキてるけど。
それにしても驚いた。まさかあの双子が、あんなことになるなんて。
いよいよここは、狂気の花園になってきた。
カナタンは絶望に沈み。
ムックは献身に酔い痴れ。
セツリンは虚無に呑まれ。
アイたんは正義に固執し。
カナリン姉妹は愛に狂った。
唯一腹の底が見えないのは、カッコーだった。
まさかまだマトモでい続けてるなんて、そんなことないだろうけど……。
いやでも、どうだろ。近くにパニックになってる人がいると、自分は逆に落ち着くってよく言うし。カッコーはそのタイプかもしれない。
そんなことを考えながら、あーしは惨状を晒す浴場を抜けて、自分の部屋に戻った。
「……ったく」
それにしても、今回の事件はガッカリだった。
いや、謎としては素晴らしい。【犯人】が最大限努力して隠そうとしたことはありありと伝わる。だからこそ、あんな単純なミスは惜しいし、それに――。
「おーい、ワンワン?(。´・ω・)?」
『呼ばれた気がした!』
個室で小さくワンワンの名前を呼ぶと、すぐさまワンワンが飛んできた。
「ねぇ。ずっと疑問だったんだけどさ、双子のお姉ちゃん、どうして隠蔽しようとしたわけ?( ̄д ̄)」
『え? 普通でしょ? ここのルールに則れば』
「いや、あの双子ちゃんの場合は別でしょ。お姉ちゃんが生き残ったら、今度は妹ちゃんが絶望するんでしょ? それをあのお姉ちゃんが呑んだってわけ?(´Д`)」
『……ま、いっか。協力者の特権として、それくらいは教えてあげようじゃないの。どうせ、聞いても役に立たないしね』
「ふぅん。でも、折角だから聞いておくよ(*'▽')」
特権。いい響きだ。
『双子ちゃんが狙ったのは、姉妹揃っての脱出だよ。見捨てるなんて選択肢、考えてもないみたいだったね』
「ん? 【共犯者】は一緒に出られないんじゃないの? というか、妹ちゃんは殺害に何も貢献してないから、【共犯者】ですらないし(・ 。・)」
『ああ、そうじゃなくて。魔王様へのお願い事だよ。お願いです魔王様、どうか、妹と一緒にここから出る権利をください――って、お願いするつもりだったみたいね』
「……ああ、その手があったか(=_=)」
最初の事件でウイたんが言っていた、全員脱出の願い。あれは却下された。
クライアントがどうの、魔王の威厳がどうのと理由を付けていたけれど――。要するにこの魔王は、殺し合いを続けたいだけだ。
一人抜けたところで、殺し合いが終わるわけじゃない。だから、殺し合いが成立する範囲内なら、願い事で脱出させてもいいわけだ。あんまりにも大量に引き連れて脱出させようとするなら、この魔王は屁理屈を捏ねて却下するだろうけど。
――なるほど。そのやり方は思いつかなかった。単純に、考える意味もないから考えなかっただけだけど。
『……アバンギャルドちゃん、何か怒ってる?』
「んー? いやー、そんなこと全然ないよ?(^O^)」
マユミンもカナリン姉妹も、もう少し待てばよかったのに。
ようやく、あーしの計画の完成が見えてきたのに。
――くそっ。まったく、タイミングの悪い。
まあ、いい。計画が頓挫したわけじゃない。保険をかけておいて本当に良かった。綱渡りにはなるけど、まだいける。
――殺してやろう。完膚なきまでに。
「ところでワンワン。ものは相談なんだけどさーヾ(@⌒ー⌒@)ノ」
『ん? どうしたの?』
「協力者になって早速だけど。あーしもそろそろお祭りを開きたいから、手伝ってって言ったら――どうする?」
『……あはっ。いよいよ!? いよいよなんだね! いいよいいよ、派手に行こうよ!』
ワンワンが笑う。
あーしは絶対怪しまれる立場だから、まあ……苦しいだろうけど、やってやろう。
素人探偵諸君の誰にも、この胸の内がバレないようにね。
――あと少しだよ。待ってて。
◇◆◇【雪村 佳凛】◇◆◇
佳凛の、新しい命。
新しい幸福を全身に感じる。
もう離れる心配なんて要らない。お姉ちゃんとはぐれて泣くことはない。凛奈とはぐれて心臓が凍る心地を味わう必要はない。
どうしてずっと前から気づかなかったんだろう。
佳凛の幸せを実現する方法は、佳凛たちが魔法少女になったときから持っていたのに。
お姉ちゃんとずっと一緒にいるための、[存在融合]。
凛奈以外の全てを遠ざけるための、[存在分離]。
命なき物体に魔法を使うのなんて、ただのオモチャ遊びだった。
佳凛の魔法は、愛の究極形を生み出すものだった。
融け合って、一つになる。幸せすぎる。幸せが魂を包んでいる。
「あははっ」
昔、佳凛たちで話し合ったことがあった。
愛し合えば赤ちゃんができるって。
赤ちゃん。愛の結晶――って、お姉ちゃんは言ってた。二人の愛が一つになった結果だ、って。
でも、女の子同士じゃできないんだって。
だから、佳凛たちは愛し合う資格がないんじゃないかって、不安になった。
――そんなの、全く心配いらなかったのに。
二人の愛は、ここで一つになった。佳凛になった。これ以上望むものなんて、何もない。
佳凛はお姉ちゃんと一つになって。佳凛は凛奈と一つになって、生まれ変わった。
二人の愛の結晶になった。
――それじゃあ、今の凛奈は、赤ちゃんなのかな?
「んー……」
赤ちゃん。ちっちゃい子供。
それは何か、佳凛と違う気がするけど――。
そうだ。作ってみればわかるかもしれない。
今の佳凛の魔法なら、それができるかも。
今の佳凛は、[存在融合]と[存在分離]、どっちも使える。
これで二人の魂を分け合って、お姉ちゃんの身体を使って、新しい命として作り出して――。
材料は揃ってる。――でも、赤ちゃんって、生まないといけないんだっけ?
うーん……。
お姉ちゃんの身体は、佳凛のお腹には入りそうにない。これじゃあ、生めないよ……。
でも、ちゃんと生む方法なんてわからないし……。
まあ、いいや。赤ちゃんなんて必要ない。
佳凛は佳凛として、ここにいる。
それだけで幸せだって、この快楽が教えてくれている。
――これからは、永遠に一緒。
勝手に死んでいく人たちなんて関係ない。
佳凛はこの身体で愛を証明して、生きていく。
「あはっ」
快楽に、意識が飛んだ。
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