【解決編】I give me all ways to die.
《ありとあらゆる死に方をボクに》
『違う違う違う違う違う、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁー!』
床を転げまわって、死を拒絶するワンダー。
その姿に、初さんが処刑されたときの姿を思い出す。
処刑を必死に拒んで、生きようとした初さん。彼女が生きようとしたのは、大切な人のためだった。
対して、このワンダーは……。命を弄んで、悪逆非道な真似を平然と行ってきた魔王は、ただ自己保身のためだけに罪を拒んでいる。
到底、許せるものではない。
私は、その様子を憎しみを込めて睨む。
藍ちゃんは、ワンダーに徹底的に軽蔑し尽くした目を向ける。
接理ちゃんは、足掻くワンダーに怒りを放っている。
夢来ちゃんは、安心したような、それでいて不安なような、中途半端な表情を浮かべている。
そして、香狐さんは――。やっぱり、ただ何も言わずに、事態を静観していた。
そんな私たちを前にして、なおも叫ぶワンダー。
『間違ってる! 間違ってるよ! そんな推理間違ってる! 無効だ! 無効だ! 無効だ!』
「いいや、何も間違ってはいないとも。――棺無月 空澄に手を貸し、彼女の死を肯定するという大罪を犯した我自身が証拠だ。空鞠 彼方の推理は、何も間違っていない。よくぞ、辿り着いた」
『う、嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! ボクを殺したいから、中二病ちゃんは嘘をついてるんだ! 本当は、頭ピンクちゃんの推理は頭パッパラパーな嘘っぱちなんだ! みんなして、ボクを陥れようとしてるんだ! 魔王様はそんな卑怯な手に屈しなんてしないからね!』
「ふん、屑が」
藍ちゃんが吐き捨てる。
「だが、今の推理を肯定する証人は、確実にいるはずだぞ。貴様に決して嘘をつかない、忠実な証人がな」
『はぁ!? そんなのいるわけないでしょ!? そうやって、アバンギャルドちゃんみたいに嘘つくんだね、キミも!』
「……ふっ。自らの命を懸けてまで魔王を討たんとした勇者と同列に語られるならば、光栄だ。奴の今までの行動は、一部では許されざるものもあったが……ははっ。それも、我と同じか」
藍ちゃんが笑う。――勝利を確信した者の笑み。
私にもその意味がわかった。藍ちゃんの目線を受けて、後を引き継ぐ。
「証人なら、いるはずだよ。……この館自体。ワンダーの知らなかった会話を――三人が計画を相談し合ってたところを、この館そのものであるスライムは聞いていたはず。魔王の力は絶対なんでしょ? だったらそれで――確かめるといいよ」
『ぇ、ぁ、ああ――』
ワンダーが絶望に呻く。そして静かに、紫の宝石を取り出した。
『ね、ねぇ館スライムちゃん? 今の、全部嘘っぱちだよね!? みんなして、ボクを騙そうとしてるだけだよね!? ねぇってば! 嘘なら、ちゃんと嘘って教えてよ! ねぇ!』
叫ぶワンダーに、館スライムはただ沈黙だけを返す。
魔王の命令は絶対。魔物は、それに逆らうことはできない。
それはつまるところ、嘘と教えることはできないと――それが真実であると、語ったも同然だった。
「いい加減諦めろよ、クソ魔王。――お前の負けだ」
「その通り。我らの勝ちだ、魔王。潔く、負けを認めるがいい」
接理ちゃんが、烈火の如き怒りを宿して告げる。
藍ちゃんもまた、魔王に対して敗北を認めさせようとする。
『ああああああああああ!? こんなのおかしいよ! こんな、こんなこと、変だよ! ボクはデスゲームの主だよ!? どうしてボクが、ボクが寄ってたかって、こんな目に遭わなくちゃいけないのさ!?』
「――本気で言ってるの?」
私は、あまりにも傲慢なワンダーの言葉に絶句する。
『本気も本気、大真面目だよ! ボクは魔王で、支配者で、全部はボクに従うはずなのに! そういう力を得たはずなのに!』
「ふん。暴君はやがて、打ち倒される。それが世の理だ、魔王。貴様は我々を弄んだ。その報いを受ける時だ」
『ああああああああああああああああああああ!? 聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない聞こえないいいいいいいいいいいい!!』
ワンダーは耳を塞ぎ、絶叫する。
そして、不意に。
『いいいいいいいいいいいい――い』
絶叫が、止んだ。
床を転げ回っていたワンダーは、何の言葉も発さずに立ち上がる。
その静けさは、異様だった。今まであれだけ騒がしかった魔王が見せる、異様な静けさ。第四の事件をアナウンスした時とも違う、凪のような静止状態。
ワンダーは、機械的に周囲を見回す。そして、口を開いた。
無機的な印象から一転。嬉々として、その口を動かす。
『【犯人】が確定いたしましたー!!! 第四の事件、棺無月空澄を殺した【犯人】は!? なんとこのボク、ワンダーなのでしたー!!! 殺害方法は、頭ピンクちゃんが語った【真相】と全く同じでーす! これで同時に、ボクの処刑が確定いたしましたー! いえぇぇぇぇぇぇい! みんな、拍手拍手ー!!』
先ほどまで必死に罪から逃れようとしていた存在が、態度を百八十度変えて、自らの罪を認め、軽薄な口調でそれを宣言する。
間違いなく、その様は魔物のそれだった。薄気味悪く、理解不能の行動原理。
『ほらほら、拍手が足りないよー? 念願叶って、遂にボクが【犯人】になったんだよー? キミたちはもっと喜んでもいいんだよ! あははははははははははは!』
ワンダーは、喜色だけを宿して笑い続ける。
恐怖も、憤怒も、先ほどまで抱いていた感情の全てが喪失している。
『あはっ、あははっ! 死ぬ! ボク、死ぬ! あは、あははははははははは!』
ワンダーは純粋に、自らの死を受け入れて喜ぶ。
理解できない化け物が、そこにいた。
『ではでは、みなみなさまお待ちかね! ワンダーの、ワンダーによる、ワンダーのための処刑タイムでございます!! どうぞごゆるりと、楽しんでいってください! 一瞬たりとも、目を離さないでね? あははははははははははは!』
ワンダーは、笑う。
『あははははははは! あははっ、あはっ、あはははははははははははははは!!』
ワンダーが、大穴のあいた床を修復する。石の台は戻らずに平らな床になって、そこには正円の魔法陣が描かれている。
その中心に、ワンダーは立った。
――狂気の魔王の演目が、始まる。
デスゲームの幕引きにふさわしい、死の乱舞が、始まる。
◇◆◇◆◇
儀式の間の入り口に、新しいワンダーが現れる。そのワンダーは、爆弾を持っていた。
もともと儀式の間にいたワンダーに歩み寄って、告げる。
『お前は死刑!』
爆弾のワンダーは、もとのワンダーを爆弾で爆破した。
するとまた、儀式の間の入り口に、新しいワンダーが現れる。そのワンダーは、鋭い牙を持っていた。
儀式の間にいた爆弾のワンダーに歩み寄って、告げる。
『お前は死刑!』
牙のワンダーは、爆弾のワンダーをボロボロに噛み千切った。
するとまた、儀式の間の入り口に、新しいワンダーが現れる。そのワンダーは、黒光りする刀を持っていた。
儀式の間にいた牙のワンダーに歩み寄って、告げる。
『お前は死刑!』
刀のワンダーは、牙のワンダーを滅多切りにした。
するとまた、儀式の間の入り口に、新しいワンダーが現れる。そのワンダーは、注射器を持っていた。
儀式の間にいた刀のワンダーに歩み寄って、告げる。
『お前は死刑!』
注射器のワンダーは、刀のワンダーに何かを注射して破裂させた。
するとまた、儀式の間の入り口に、新しいワンダーが現れる。そのワンダーは、ハンマーを持っていた。
儀式の間にいた注射器のワンダーに歩み寄って、告げる。
『お前は死刑!』
ハンマーのワンダーは、注射器のワンダーに頭から凶器を振り下ろして潰した。
するとまた、儀式の間の入り口に、新しいワンダーが現れる。そのワンダーは、謎の液体と、一匹のワンダーを持っていた。
儀式の間にいたハンマーのワンダーに歩み寄って、告げる。
『お前は死刑!』
液体のワンダーは、ハンマーのワンダーにもう一匹のワンダーを押し付け、液体をかけた。液体の効果か、二体のワンダーがグズグズに溶け合う。
するとまた、儀式の間の入り口に、新しいワンダーが現れる。そのワンダーは、マッチを持っていた。
儀式の間にいた液体のワンダーに歩み寄って、告げる。
『お前は死刑!』
マッチのワンダーは、液体のワンダーに火をつけた。
『んー、処刑のスピードが遅いねぇ』
『『『『『『『『『スピードアップ!!!』』』』』』』』』
すると今度は、九体のワンダー――五体の処刑役と、四体の罪人役が同時に現れる。そのワンダーたちは、様々な武器を持っていた。
『『『『『お前は死刑!』』』』』
五体のワンダーが、思い思いにワンダーを一匹ずつ殺す。
するとまた、儀式の間の入り口に、五体のワンダーが現れる。そのワンダーたちは、様々な武器を持っていた。
『『『『『お前は死刑!』』』』』
五体のワンダーが、思い思いにワンダーを一匹ずつ殺す。
するとまた、儀式の間の入り口に、五体のワンダーが現れる。そのワンダーたちは、様々な武器を持っていた。
『『『『『お前は死刑!』』』』』
五体のワンダーが、思い思いにワンダーを一匹ずつ殺す。
するとまた、儀式の間の入り口に、五体のワンダーが現れる。そのワンダーたちは、様々な武器を持っていた。
『『『『『お前は死刑!』』』』』
五体のワンダーが、思い思いにワンダーを一匹ずつ殺す。
するとまた、儀式の間の入り口に、五体のワンダーが現れる。そのワンダーたちは、様々な武器を持っていた。
『『『『『お前は死刑!』』』』』
◇◆◇◆◇
無限の魔物が、無限に殺し合う。
五、十、二十、三十、五十、七十、百。
無限のワンダーが入ってきては、屍の山にその身を投じる。
邪魔になった屍が、部屋の奥へと押しやられる。
爆殺、噛殺、斬殺、毒殺、圧殺、溶殺、焼殺、刺殺、薬殺、絞殺、抉殺、格殺、扼殺、呪殺、殴殺、磔殺、溺殺、射殺、轢殺、撲殺。
殺し合う。何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも殺し合う。
ありとあらゆる死が、ワンダーに与えられる。
――その果てに。
無限の殺し合いを経て、最後に残ったワンダーが叫ぶ。
『ボクは死刑!』
ワンダーが館スライムに命じて天井に縄を吊るす。その縄は、先端部分が輪になっていて――。
迷わずワンダーは、その穴に首を突っ込んだ。
『あは、あははっ、あはははははははははははははははは! あはは! あはは! あーっはっはっはっはっはっはっはっはっは! あはは、あは、は……。は……』
――自殺。
自らが命を奪った相手に何の償いもしない、殺人鬼として最も醜悪な最期。
それが、魔王が選んだ自らの死因だった。
吊るされたぬいぐるみは、もう動かなかった。
ただ振り子のように、ゆらゆらと、揺れていた。
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