【解決編】Everything come down to this truth.
《全てがこの真実に帰結する。》
『は……? 無限に傷を巻き戻せる? いやいやいや、そんなチート魔法あるわけないじゃん! それとも、ボクが教えてあげた条件に嘘があったとでも言うわけ!? なかったよね!?』
「…………」
藍ちゃんは答えない。この【真相】解答の場において、解答役以外の発言は禁止されているから。『ルールを破ったからこの【真相】解答はおしまい』なんて、勝手なことをさせないために。
だから代わりに、私が明らかにする。
「二つ目の事件のとき、藍ちゃん、接理ちゃんに魔法を使ったよね。そのとき、確か――[刹那回帰]を魔法少女に使えば、魔力と、魔法の使用制限の時間を巻き戻せるって言ってたはず」
それがあったから、接理ちゃんは――あの処刑のときに、二回目の[確率操作]を使うことができた。死者を魂として呼び戻すなんて、確率論の究極特異点を引き寄せることができた。
「じゃあ、それ――自分に使ったらどうなるの?」
『え? ――あ、あ、ああああああああああああああ!?』
ワンダーが叫ぶ。でも気づいても、もう手遅れだ。
「当然、体は十秒前に巻き戻る。他には? 魔力が戻る。時間制限が戻る。それって――体だけ、十秒前の状態にするってことだよね? つまり、傷を無限に巻き戻すことができる」
それが、【無限回帰の黒き盾】が最高峰の魔法少女である理由。
傷を負っても、即死でなければ全て回復できる。身体能力強化にどれだけ魔力を使っても、十秒以内なら魔力消費をゼロにできる。
だからこその無限回帰。どれだけ戦おうと消耗せず、無限に戦闘を続けられる魔法少女。――強くないわけがない。
「[呪怨之縛]は、魔力を消費しない。空澄ちゃんが[刹那回帰]をコピーすれば、あとは無限に使い続けることができる。――ただし、包丁が抜けるようにしちゃいけない。完全に傷を治しちゃったら、ワンダーに気づかれる。だから、十秒ごとに魔法を使った。包丁が抜けないように、ずっと、刺されたままでいた。[刹那回帰]を使っても、[呪怨之縛]を受けてから十秒を過ぎれば効果は切れない。――これなら、死体のフリをしたまま、ずっと生きてられる」
10秒ごとに魔法を使う。それが二時間半。150分。――9000秒。
巻き戻した回数は、9000÷10=900回。それが、私が処刑前に藍ちゃんに尋ねたことの真意だ。
[呪怨之縛]を[刹那回帰]で解除する条件は、ワンダーが言ったことだ。否定はできないだろう。
「最後、空澄ちゃんの背中から包丁が抜けてたけど……。あれは、計画が成功してワンダーがトラップを作動させた時点で、[刹那回帰]を何回も自分に施して、無限回帰させたんだと思う。これで藍ちゃんから受けた傷は完璧になくなって、藍ちゃんが【犯人】にされる可能性はなくなる。その時点で、どちらかがワンダーの処刑で……殺されたら、それでワンダーは【犯人】になる」
『あ、あ、あ――――』
ワンダーはもう、何も反論をしない。
最後に傷を完全に治したのは、『炎のせいじゃなく藍ちゃんの刺突の出血で死んだから、【犯人】は藍ちゃん』なんて下らない言い訳をさせないためだろう。そこまでして、ワンダーがゴネる可能性すら完全に潰した。もう、言い訳はできないはずだ。
――あとは、細かい部分を詰めるだけ。
「ワンダーが言ってたよね。空澄ちゃんは、協力者としての特権で、ワンダーに聞かれない密談を望んでたって。たぶんそのとき、空澄ちゃんは藍ちゃんをこの計画の協力者にした」
いや、さっきの接理ちゃんの動き――そして、急に立ち直った接理ちゃんの様子や、今日の行動を考えるとおそらく。
「……ううん。たぶんそのとき、接理ちゃんも一緒だった。となるとタイミングは、三つ目の事件の翌日に、空澄ちゃんが二人を呼び出したとき。あのときに、この事件の計画を立てたんだと思う。藍ちゃんがゲームを作る時間を考えても、その辺りじゃなきゃ昨日に間に合わないはずだから」
それが密談のタイミング。
そして、この密談に接理ちゃんが加わることは、大きな意味がある。
「接理ちゃんも二人に協力していたなら、少し疑問だったことも解消される。午前中、接理ちゃんは佳凛ちゃんと約束をして、自分と佳凛ちゃんのアリバイを作ろうとしてた。結局佳凛ちゃんは遊戯室に来なかったけど、代わりに接理ちゃんは、ゲーム機のスクリーンショット機能を使って自分のアリバイを確保した。――これは、予め事件のことを知ってないとできない行動だよね」
他にも、接理ちゃんの行動が不自然だったところはある。
「それと、わざわざ藍ちゃんと一緒に早めの時間にお風呂に入ったり、藍ちゃんの言うことを律儀に守って玄関ホールにいたのも、二人に協力してたなら納得できる」
これが、接理ちゃんが事件の最中で怪しく見えてしまった原因だ。
これで、あの偽の事件において、【犯人】はあからさますぎるのにどうしても別の人を疑いたくなってしまった理由が判明した。
「そして最後に、さっき言った四つ目の違和感――生贄の儀式に用いるものに、不必要と思えるものが多いこと。この儀式に必要とされていたのは、生贄を守る糸と、生贄を殺す包丁。清めの水と杯。赤い布。――それと、生贄を裸にすること」
この五つが、生贄の儀式に必要な条件として、藍ちゃんが設定したもの。
「糸はもちろん、トラップを作って、ワンダーを【犯人】に仕立て上げるためのもの。包丁は、凶器に使うためのもの。清めの水と杯は、逆に事件に置かないことで、偽の事件の【犯人】をわかりやすくするためのもの」
ここまでは、今までに話した通りだ。
偽物の事件だけなら、生贄の要素として『それっぽく』するための要らない仕込みだったと思う二つ。だけど【真相】のその先に辿り着けば、話は変わる。これらも、本当に重要な仕込みだった。
「赤い布は、ワンダーに傷を見られないようにするためのもの。万が一にも、再生しているのに気づかれないように。……赤を指定したのは、血が戻るのがバレないようにだと思う。白い布なんかで覆ったら、流した大量の血が戻っていくのが外から見えちゃうから」
これが、赤い絨毯を――血色の絨毯を、誰かに見られるリスクを冒してまで廊下から回収した理由。
「生贄を裸にするのは、第三の事件と同じ理由。魔法少女衣装が消えなければ、その人が生きているとわかってしまうから。――ワンダー、言ってたよね。空澄ちゃんは服がガソリンで汚れたら嫌だからって、裸で出歩いてたって。でも魔法少女の衣装は、時間が経てば勝手に綺麗になる。そんな対策、する必要がない。だとしたら……空澄ちゃんが準備のときに裸でいたのは、本当は、自分が死んでいないことを隠すため。全部、この計画を成功させるためのものだよ」
『――、ゎ、――』
「……それとたぶん、生贄の儀式っていうテーマそのものも、壮大な引っ掛けだったんだと思う。まさか『生贄の儀式』で、生贄が死んでないなんて考えもしないだろうから」
『ぁ――、ぁぁ――』
ワンダーは、口を開いては閉じて、また開いては閉じる。
何か、反論しようと必死になっている。でもおそらく、無駄だ。
先ほどワンダーが喚いていた、藍ちゃんは自殺願望があって魔王に殺されることを望んでいた、なんてふざけた説も、これだけピタリと嵌まる推理があれば否定できる。藍ちゃんは間違いなく、空澄ちゃんと共謀してワンダーを殺す策を遂行していた。
もう、ワンダーに逃げ場はない。確実に、【犯人】を追い詰めた。
私が犯した二つの罪が、その確かさを知っている。
――終わらせよう。
「これでもう、はっきりしたはずだよ。藍ちゃんと空澄ちゃん、そして接理ちゃんは、こうやって事件を作った。偽の事件を演出して、ワンダーに処刑を実行させた。――実際には、誰も殺されてなかったのに。それどころか最後には、空澄ちゃんの傷すらなかったことになった。それなのにワンダーは、【犯人】と目されていた藍ちゃんの殺害を企てて、結果的に、空澄ちゃんを死なせた」
これは明らかに、【犯人】の認定条件を満たしている。
息を吸い込む。興奮を抑えて、それでも抑えきれなかった興奮が――遂にこの狂ったゲームが終わるという開放感が、自然と語気を強くする。
私は満を持して、魔王の破滅を宣言する。
「この事件――空澄ちゃんを殺した【犯人】は、ワンダーだよ! 藍ちゃんが仕掛けた炎の罠を使って、ワンダーは空澄ちゃんを殺した。それが【真相】! ――何か、反論できるところはある?」
『ぁ、ああ、あああああああああああああああああああああああ!?』
ワンダーは、その場でジタバタと暴れる。叫ぶ。
でも、事実は変わらない。どれだけ喚いてもどれだけ狂っても、罪は消えない。
私はそれを知っている。
魔王は――【犯人】となった。
参加者が【真相】を突き止め殺人者が露見した場合、【犯人】は魔法少女としての資格を剥奪され、魔王の名において、この世で最も芳醇なる死を与えられる。
魔王は魔法少女ではないけれど――死は確実に、与えられるだろう。
これで終焉だ。
……これでよかったんだよね、空澄ちゃん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます