a Game within a Game
《ゲーム内ゲーム》
「え? 遊戯室でゲーム?(。´・ω・)?」
「ええ。さっき、ワンダーがそんなことを言いに来たのだけれど」
「んー、まあ、映画の時みたいなやつかなー。単純なワンワンの暴走でしょ。今度は何させる気か知らないけどさぁ( ̄д ̄)」
夕食時。
私は完全に忘れていたけれど、そういえばワンダーがそんなようなことを言っていた。遊戯室で何かをする、って。
全員が集まると、香狐さんがその件について伝えた。
「ま、行った方がいいんじゃない? どうせまた、映画のときみたいに、何か脅しかけたりしてきてるんでしょ?(o゜ー゜o)?」
「ええ。触手の魔物がどうの、って言っていたけれど」
「えっ、謎触手ちゃんリターンズ? あいつ、キモいからほんとやめてほしいんだけど……。思い出しただけでも寒気がするし((+_+))」
映像記憶持ちの空澄ちゃんは、本当にあの気味の悪い触手を前にしているかのように身を震わせた。
それを理由に、空澄ちゃんは遊戯室行きに賛成を示す。
「ワンワンが呼び出すってことは、どうせなんか意地の悪い仕掛けはあるだろうけどさぁ。映画の時と同じなら、ちょっとこっちのことビビらせようってだけでしょ? だいじょぶ、いけるいけるヾ(@⌒ー⌒@)ノ」
空澄ちゃんはあくまでも、事態を楽観視している。
「空澄ちゃんは……あの檻みたいな、ワンダーへの罠は用意してないの?」
「持ってたとしても、ここで大っぴらに言っちゃダメでしょ。ワンワンはあーしらのこと、たぶんずっと監視してるんだから。それに、ハッタリはもう通じづらくなってるだろうからね。それを通用させるのが、あーしの詐欺師としての腕の見せ所なわけだけど……( ̄ー ̄)」
空澄ちゃんは不敵に笑った。その所作は、自身に満ち溢れているように見える。
……空澄ちゃんのことだ。意味深なことを言っておきながら、何も用意していないというのも十分に考えられる。
だけど結局、食事を終えるまで、空澄ちゃんの賛成意見を覆すような人は現れず。
『うんうん、魔王に逆らったら、何があるかわからないもんね。ちょうどご飯も終わったことだし、早く魔王様に靴ペロしに行かなくちゃ』
「いや、自然に会話に混じってなーにを言ってくれちゃってんだか、このワンワンは( ̄д ̄)」
『はっ、バレた!?』
ワンダーが驚いているが、当たり前だ。声が違いすぎる。
突然のワンダーの乱入に、私はまた香狐さんに縋る。
「まだ、夕食の片づけをしていないのだけれど」
『えー、そんなの後でいいじゃん! 食器は逃げない、ゲームは逃げる!』
「ゲームも逃げないわよ」
『シャラップ! さー、みなみなさま、行きますよ! 遊戯室にレッツゴーですよ!』
ワンダーが先陣を切って食堂から出て行く。
「ま、しょうがない。行きますか( ´_ゝ`)」
次に、空澄ちゃんが続いた。
一度形成された流れは覆しがたい。
私たちはまたワンダーに乗せられる形で、遊戯室への移動を余儀なくされた。
そうしてやって来た遊戯室は、普段と――といっても私は、初日の探索以降ここに来ていないのだけれど――少し違っていた。
普段のこの場所は、色々なゲームで溢れている。ビリヤードやダーツ、エアホッケーなどの古典的な遊びから、最新のテレビゲームまで。……テレビゲームの方は、ワンダーが用意したというだけあって、ラインナップが最悪だけれど。
しかし、今日のこの場所は様子が違った。
普通のゲームがほとんど撤去されて、シンプルな机と椅子と、あとはパソコンが七台設置されている。
『えー、みなみなさまにはこれより、このパソコンでゲームをしていただきます! 製作者の徹夜が効いた良作なんだからなー!』
映画の時と同じなら、どうせワンダーが作ったに決まっているのに。
くだらない自画自賛を挟んで、ワンダーは準備を進める。
だけど……私には、困ったことがあった。
一つ一つの机は、かなり距離が離されている。まるでテストのカンニング防止のように。これじゃあ……香狐さんと、手を繋いでいられない。
『はーい、各自、指定の席に座ってー! あ、机を移動させるのはダメだからね! ネタバレ防止の観点から、プレイ中の他の人との接触は禁止です! もし破ったら、謎触手ちゃんコース直行だからなー!』
「ことあるごとにアレの影チラつかせるのやめてくれないかなぁ……。思い出して吐き気がするから。第二の事件の後には撤去したんだから、もう話題には出さない方針で行こうよー(´Д`)」
『そんな思い出し笑いの亜種みたいな概念知りません! ほら、席に着いた席に着いた! さっさと始めまーすよー!』
ワンダーがポンポンと手を叩く。
私は、手を放しづらくて、香狐さんの顔を見た。
「……安心して。どうやら、指定の席とやらは隣同士みたいだから」
「あっ……。ラッキー、ですね」
「ええ。最低限、ね。離れるのは残念だけれど……ワンダーがうるさいでしょうし、早く座りましょうか」
「……はい」
香狐さんと、手を放す。それで、隣り合った席に座った。
……最低限、香狐さんの顔を見ることはできる。それだけでも、不幸中の幸いだ。
席に着いて、パソコンの画面を見る。
右下のインジケーターは、ネット未接続を示している。繋がるネットワークもない。当たり前か。
中のデータを漁ってみても、ほとんど何も入っていない。入っているのは、ただ、『蜘蛛神への生贄』という謎のファイルだけ。
……そうして、最初から画面にでかでかと表示されていたそれを見る。
『蜘蛛神への生贄』と大きな文字で書かれたタイトルと、『ニューゲーム』『コンティニュー』『オプション』の文字。どう見ても、ゲームのスタート画面だった。
『はい、みんな席に着いたね。というわけで、今回はこちら! 推理ゲームっぽい謎のゲーム、蜘蛛神への生贄をプレイしていただきます!』
「……ああ、このゲームなんだ( ̄д ̄)」
空澄ちゃんが、ぽつりと呟く。まるで、このゲームを知っているかのような口ぶりだった。
……ワンダーが作ったなら、私たちの誰もこのゲームを知らないはず。なのに、なんで?
『どうせなら推理ゲームっぽく、タイムアタックでいこうか! 一番遅かった人が、罰ゲームってことで! 罰ゲームはやっぱり、謎触――』
「は?(#^ω^)」
『しゅ――しゅしゅしゅ、しゅ、シューティングゲーム! 推理ゲームに引き続いて、シューティングゲームもプレイしていただくということで! 決定!』
ワンダーが空澄ちゃんにやり込められて、罰ゲームが変更される。
まあ……触手に好き放題されるよりは、大幅にマシな条件だろう。
『ゲームは触ってみればわかると思うから、操作方法とかルール説明とかは一切いたしません! てきとーにボタンポチポチしてれば、クリアできるんじゃない? 知らんけど』
ワンダーが投げやりな態度で言う。
……正直、このゲームに熱を入れる必要性はあるのだろうか。罰ゲームから深刻さが一切合切取り除かれた以上、必死になる意味はない。
……いや、でも、第二回に参加させられるのは嫌だ。そこそこ程度に、できる限り早く終わらせよう。
沈んだ気分で、『ニューゲーム』のボタンにマウスカーソルを乗せる。
『それでは、みなみなさま――どうぞ、始めちゃってください! 蜘蛛神への生贄、タイムアタック大会、スタートです!』
合図で、ボタンを押下した。
瞬間、画面が暗転して――陰惨な物語が、幕を開けた。
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