Where have the victim gone?
《被害者はどこへ?》
「そういえば、さ('ω')」
三階に移動している最中、不意に空澄ちゃんが言った。
「あれ、本当にお姉ちゃんの方だと思う?(。´・ω・)?」
「……どういうこと?」
首を傾げる。そんな私とは対照的に、香狐さんは「ああ」と頷いた。
「双子の入れ替わりというのは、ミステリーとしては定番だものね。まあ、トリックというほどでもない、ズルみたいなものだけれど」
「そ。特に、瓜二つの双子がいるって情報が伏せられてたら、もう駄作も駄作……。って、話が逸れた。カナリン姉妹って超似てるし、演技が上手ければ入れ替わってもバレないと思うんだよね。髪がほどけてるっていうのも、偶然って言い張るには怪しいし。カナタンはなんで、アレがお姉ちゃんの方だって思ったの?(o゜ー゜o)?」
「それは……」
……そうだ。
「自分のことを『佳奈』って呼んでたからそう思ったけど、そうじゃないなら……」
「アレは【犯人】だけど、あそこにいるのは妹ちゃんの方、っていうのも全然あり得る話になるね。でもなぁ……そうなると見分け方がわかんないから、詰むんだけど(´Д`)」
「見分け方……」
私たちがあの双子を見分けていたのは、主に態度、次に髪の特徴だった。
態度を誤魔化せるなら、簡単に入れ替わることができる。
そして私たちに、それを見分ける術はない。私たちはみんな、あの二人と個人的な付き合いなんてなかったのだから。
「厄介だね。もしかしたら、あの双子はこれを見越してあーしらと関らないようにしてたのかもね(-ω-)/」
「…………」
それに同意することはできなかった。
あの二人が――。いや、二人のうちどちらかが、最初から殺人を計画していたなんて……。
私たちは魔法少女だ。最初から殺人を視野に入れるなんて、そんな魔法少女がいるとは思えない。
そんなことを話しているうちに、あっけなく三階に到着する。
「――さて。着いたね。いきなり本命行ってみる?」
空澄ちゃんは、佳奈ちゃんと凛奈ちゃんの部屋を指さす。
私はそれに首を振った。
「……ううん。先に、接理ちゃんと摩由美ちゃんを呼ぼう」
「ん。じゃ、お楽しみは最後ってことで。まずはセツリンから行こっか」
私たちは、佳奈ちゃんと凛奈ちゃんの部屋とは反対側の廊下へ進む。
そして、私の部屋と隣室である接理ちゃんの前に立つ。
私たちは、そのドアをノックした。
……返事は、ない。
「おーい、セツリン、いない? ワンワンのアナウンス、聞いたよね? 今割と大変な状況だから、出てきてもらえないー?(^O^)」
「…………」
返事がない。これはダメかと思ったところで、ドアが開いた。
ほんの少しだけ隙間を作って外を覗く接理ちゃんは、酷い顔をしていた。
忍くんがワンダーに殺されて以降、接理ちゃんはずっとこんな調子だった。
酷い顔色をして、部屋に籠り、たまに奇声を上げたり譫言を呟く。
……絶食していない分だけ、昨夜の佳奈ちゃんよりはマシだと思うのだけれど。
生きた屍。そんな言葉が浮かぶほどに、悲惨な状態だった。
「……何か、用かな」
「セツリンが傷心中なのはわかってるけど、事件だよ。ワンワンによると【真相】の究明は全員参加らしいから、引き籠もってるとワンワンに噛まれるよ?( ̄д ̄)」
「……そうか」
接理ちゃんはかすれた声で呟くと、ふらついた足取りで部屋の外に出てきた。
「……はっ、ははっ。今度は、誰が、殺されたのかな?」
接理ちゃんは、不気味な笑い声を発しながら尋ねる。
……本当に、どうかしてしまったかのようだ。
「さぁ。わかんないから、今調べてる。もしかしたらムックが何か掴んでるかもしれないから、知りたいなら浴場まで行ってくれる?(´Д`)」
「…………」
接理ちゃんは何も返事をせずに、ゆらりとした足取りで階段へと向かっていった。
その様子に、しばらく何も言えなくなる。
「……ま、とりあえず生存は確認できたということで。次はマユミンだよね(*'▽')」
「……うん」
私たちは逆側の廊下へと取って返し、摩由美ちゃんの部屋をノックする。
……こちらも、返事はない。
「おーい、マユミン? おーい、ってばー( `ー´)ノ」
空澄ちゃんがドアを強く叩いたり、大きな声で呼びかけたりするけれど、一向に返事はなかった。
業を煮やした空澄ちゃんが、ドアを勝手に開けようとする。
しかし、鍵がかかっているようで、ドアは開かなかった。
「んー? ……おかしいな?(〟-_・)?」
「そう、だよね……」
私もそれに同意する。
確かにこのドアには鍵がかかるけれど、このドアには内鍵しかない。
持ち歩くようなタイプのキーはなく、外から鍵は閉められない。
だから、鍵が閉まっているというなら、中に誰かいるということだ。
それなのに出てこない、というのはおかしい。もちろん、警戒して出てこないだけというなら別だけれど……。
「まさか、お風呂の殺人と当時に、密室殺人も起こってた……なんてことはないよね?(。´・ω・)?」
空澄ちゃんが、最悪の予想を呟く。
ただでさえわからないことだらけの殺人事件があるのに、もう一件、同時に起こされた事件?
……確かに、効果的な手ではある。
私たちに与えられた【真相】究明の時間は三時間。
【真相】を探している最中の殺人は禁止されているけれど、その前ならば禁止されていない。
だから、事件を二つ以上起こしてしまえば、私たちは三時間で二つの【真相】に迫らなければならないことになる。
――そうなったらもう、今回の事件は対処できるものではなくなる。
「んー……これは困ったね。ちょっと、ゲームマスター呼ぼっか。おーい、ワンワン、いるー?(^O^)」
『ワン、ワーン!』
呼ばれて飛び出て、とでも言えばいいのか。
天井からいきなり、ワンダーが降ってきた。
『館スライムちゃんによる高速移動! バラしちゃった今、こんなこともできるのだ!』
ワンダーが得意げに言う。
おそらく、館を形作るスライムに命令して、天井裏だか体内だかを移動させたのだろう。そうして、天井に穴をあけて排出させた。
……本当に、演出好きな魔王だ。
『それで、何か用かな? 【真相】究明中なんて重要な時間に、わざわざ呼びつけるなんて』
「うん。まあね。……【真相】究明が始まるのって、誰かが死体を見つけたタイミングだよね?」
『そうだね! 発見者が現れた時点で、わざわざ他の人を呼ぶっていう手間を省くために、ボクが優しくアナウンスをしてあげているんです。――感謝しろ!』
「全く優しくない態度だね……。(;´・ω・) それより、聞きたいんだけどさ。仮に密室殺人が起こった場合、どうなるの? 死体を発見できない場合は、【真相】の究明をしなくていいとか?(´Д`)」
『えっ!? あ、そっか……。外から中が見えない部屋で密室殺人とかされちゃうと、死体が見つかんないね……』
「今気づいたんだね……(゚∀゚)」
『いやぁ、恥ずかしながら』
ワンダーがモジモジと恥じらうような仕草をする。
正直、気持ち悪かった。
「そして今気づいたということは、これは密室殺人じゃないわけだ( ̄д ̄)」
『ギクギクッ!?』
今度こそ、ワンダーは本気で驚いたように飛び退く。
その反応を見て、空澄ちゃんは笑みを深めた。
「それなら、マユミンはただ引き籠もってるだけだね。……ねぇ。【真相】の究明は強制参加だよね? それなら、引き籠もってるマユミン、引っ張り出してくれない? それはゲームマスターの義務だよね?( ꒪⌓꒪)」
『ぐぬぬ……』
ワンダーは悔しそうに唸る。
しかし……すぐに態度は一転する。
『あはは、なんちゃって! 今回に限っては、そんなことしてあげないよ!』
「……何? 今までの意趣返し? ゲームマスターが、ルールに反するようなことをしていいの?(=_=)」
『あはぁ、勘違いしてるね! ボクはあくまで、ルールに則って言ってるだけだよ!』
「……ルールに則って?」
『うん。例えば――そこに隠れてる人は、【真相】を全て知ってたりして! あははははははは!』
……そうか。
【真相】の究明が絶対条件なら、既に事件の全貌を知っていれば条件はクリアされる。その人が明らかにすべき点は、もう何一つないのだから。
でも、事件の全貌を知っているとしたら、そんなの――。
「なるほどね。マユミンは、【犯人】かそれとも【共犯者】か、あるいは目撃者ってとこ?(-ω-)/」
「……目撃者は、違うんじゃない? だって、【真相】を探ってる間の殺人は禁止なんだから、【犯人】に怯えてるにしても、今なら出てきて問題ないはずだし……」
「ああ、それもそうだね。それなら――なぁんだ。被害者を探しに来たと思ったら、案外つまんないことになっちゃったね(*´з`)」
「…………」
私はそれに、何も答えなかった。
今朝、香狐さんと一緒に朝食を作りに行く直前で、あの赤毛を目撃したことを思い出す。
あれは、殺人の帰りだった? ――いや、違う。それだと、私たちが石像が落下したと思しき音を聞いたタイミングと矛盾する。
だったら、私が何気なく見逃したあの姿は、邪悪な企みの真っ最中の姿だった? 殺人計画の準備が完了し、まさに命を刈り取らんとする直前の姿だった?
『ま、そういうことで。ボクはそこの子を引っ張り出すのを手伝ったりはしないから! バイちゃ!』
ワンダーは私たちに背を向けて、階段の方へと歩き去っていった。
それを私たちは、黙って見送る。
決定的情報を手に入れてしまった。
不透明だった事件が、一気に色彩を帯びてくるような情報。
――そこに、【犯人】がいる。
「……とりあえず、カナリン姉妹の部屋も見てくよね?」
「……うん。そう、だね」
私は頷いた。
おそらくは、その部屋はもぬけの殻なのだろうと予測しながら。
案の定、ノックをしても、そこに反応はなかった。
空澄ちゃんがドアノブに手をかける。
「こっちは開いてるはずだよね。昨日、ワンワンが鍵壊しちゃったんだから(=_=)」
空澄ちゃんが得意げに言う。
もちろん鍵は開いていて、私たちは簡単に中に入ることができた。
予想通りに進んだことに、安堵のようなものを覚え――。
「……ぇ?」
次の瞬間、その安堵は凍り付いた。
部屋に充満する、血の匂い。
慌てて部屋に駆け込む。
――そこは、惨劇の中心地点としか思えない場所だった。
部屋の中央に血が盛大にぶちまけられ、辺りにも飛散している。
傍らには、血の付いたノコギリ。
ただし――そこには、死体だけがなかった。
惨劇の残滓は、血と凶器だけ。
被害者が、またしても消失していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます