My magic is the divine force, but...

《私の魔法は神の力、なのに……》




「まあ、証拠の話も途中でしちゃったし、伝えるべきことはこれで全部だね((+_+))」

「これで……全部」


 わかったのは、各々のアリバイだけ。

 現状、誰が【犯人】なのか、怪しむことすらできない。

 まさか本当に、佳奈ちゃんと凛奈ちゃんが共犯関係だなんてことがあるとは思えない。もしそうなら、仮に【真相】が露見しなかったとしても、ここを出られるのは一人だけ。

 仲の深さ故に共犯関係を疑うけれど、むしろ仲が深いからこそ、ここのルールでは共犯関係を結びづらくなる。

 ――一応、候補として残してはおきつつも、この線は薄いと思っておいていい。


 けれどその場合、謎は更に深くなる。

 唐突に起こった心霊殺人。それを引き起こせるのは、一体誰?


「はぁ……。まあ、今回、悩む必要はないよ」


 悩んでいると、ふと、そんな声が聞こえた。

 そうして、接理ちゃんが一歩前に出る。


「捜査は既に終わってるんだ。僕の魔法があれば、すぐに【真相】とやらは明らかになる」

「――ん? ああ、そういうこと?(。´・ω・)?」

「君が何を想像したかは知らないけれど、おそらくはその通りだろうね」


 接理ちゃんと空澄ちゃんが視線を交わす。


「成程。貴様の固有魔法により、運命的な閃きを享受するということか」

「まあ、そういうことだね」


 藍さんが接理ちゃんの考えを看破する。それでようやく、私にも接理ちゃんが何をしようとしているのかわかった。

 接理ちゃんの魔法――[確率操作]。一分以内に起こるものであれば、ありとあらゆる事象を引き起こすことができる。それを使い瞬間的な閃きを得て、【真相】を看破する。

 ――気づかなかった。そんな使い道があったなんて。


「――それなら、我も力を貸そう」


 藍さんが前に進み出る。


「我が固有魔法、[刹那回帰]は対象のありとあらゆる状態を元に戻す力を持つ。魔力消費が激しい故、人間相手に使えるのは一度が限度だが――貴様が贄として捧げる魔力や、使用後の時の制約は我が巻き戻すことができる」

「……つまり、どういうことかな?」

「要するに、セツリンが消費した魔力とクールタイムをゼロにしてやれるってこと?(〟-_・)?」

「然り」


 藍さんが頷く。


「へぇ。それはありがたいけど……でもそれ、セツリンの記憶とかも一緒に巻き戻しちゃったりしない? それだと意味ないよね?(。´・ω・)?」

「それは大丈夫だろう。魔王のメモにもそう書いてあった」


 接理ちゃんが即答する。

 そうだ。確かに書いてあった。時間を持て余して、私も全員分の固有魔法を暗記しているからわかる。[刹那回帰]を生物に使った場合、その記憶は巻き戻らない。


「わお。ますます便利だね。あーしもその魔法持っておこうかな?(*'▽')」

「……そもそも、貴様の固有魔法で我が力を模倣できるのか? 我が力、[刹那回帰]を模倣するというのなら、そのとき貴様の時間は巻き戻るのだぞ?」

「ん? ああいや、それについては心配ないよ。あーしも昔、似たような魔法コピーしてたからね。たぶん、問題なくコピーできるよ(*'ω'*)」

「……そうか。どちらにせよ、今は貴様の戯言にかかずらっている暇はないのだ。言ったであろう。我が魔力で人間の時を巻き戻すことが能うのは、一度きりだ。魔力の回復を待たねば、それ以上は使えん」

「なぁんだ(´・ω・`)」


 空澄ちゃんが肩を落とす。

 藍さんは空澄ちゃんから視線を切って、接理ちゃんと向き合う。


「そういうわけだ。どうだ、我が助力は必要か?」

「――そうだね。念のためだ。力を借りよう」

「承知した」


 藍さんが、スッと腕を接理ちゃんに向ける。

 その雰囲気に呑まれ、誰もが成り行きを見守る。


「――いつでもいいぞ。やれ」

「わかった。僕が魔法を使ってから――そうだね。念のため、三秒待ってから魔法を使ってくれ。……いくよ」


 二人が頷き合う。――そして。


「――[確率操作]。僕はこの事件の【真相】を偶然、一瞬にして閃く」

「――三、二、一。いくぞ。[刹那回帰]!」


 二人が魔法の発動を宣言し、藍さんは接理ちゃんに向けていた手を下ろす。

 変化は見えない。しかし、何かが変わったはずだ。

 ――接理ちゃんが、手で顔を押さえる。そして、天を仰ぐ。


「――魔なる魔法少女の正体、貴様には届いたか?」


 藍さんが問う。それに、接理ちゃんは――、

 首を振った。横に。


「……っ。いや……。わからないんだ。何か、何かが欠けているっ。今のままじゃ……足りない」


 接理ちゃんはそれを口にすると、サッと身を翻した。

 顔を押さえる手を下ろし、シアタールームを飛び出していく。


「あれ、セツリン?(。´・ω・)?」


 咄嗟のことに、その勢いを誰も止めることができなかった。


 ――シアタールームを出て行く前の接理ちゃんの顔は、酷く歪んでいた。

 まるで何かに怒るような。何かを恐れるような。――一体、どうしたというのだろう。

 自分の魔法に相当自信を持っていたようだったから、上手くいかなかったことがショックだったのだろうか。

 でも、それにしては、大袈裟な表情変化だったような……。


 ――ガタガタ。


「……ま、どっか行っちゃった人のことは仕方ないとして( ̄д ̄)」

 ――ガタガタ。


「セツリンが言うには、まだ証拠が足りてないようだし。また一時間くらい証拠を探して、もう一度集まるしかないかな?(〟-_・)?」

 ――ガタガタ。


「ああもう、ワンワンうるさい! なんなの?(o゜ー゜o)?」

 ――ガタガタ。


 空澄ちゃんが、ずっと檻を揺らして音を立てていたワンダーに怒鳴る。


『いや、ボクのこと忘れられてるんじゃないかと思って。事件が起こったって知らせてあげたときにも、誰かさんは気絶してて聞いてなかったみたいだし?』

「…………」


 私のことだろう。確かに、最初の事件であったような事件の宣言を、この事件では聞いていない。


『それに、そろそろこの檻、出てもいいでしょー? みんなもう、わかってるくせに。ボクを閉じ込めたって何の意味もないって。現に、こうして不良ちゃんがぶっ殺されちゃったんだからね! あははははははははは!』

「さぁ、どうだろうね? ワンワンが殺したって可能性も残ってるんじゃない? 昨日の悪趣味な映画みたいに、ご自慢の魔物を使ってさヾ(@⌒ー⌒@)ノ」

『……ん? 悪趣味? 今、悪趣味って言った? アバンギャルドちゃんだけはボクの作品の良さをわかってくれてると思ってたのに!』

「あはは、ごめんねー? あれウソだから(*'ω'*)」

『んなぁ!? もう怒ったぞー! こんな檻出てやる! スライムちゃん、カモーン! ボクをこの檻から出すんだ!』


 ワンダーが、手に紫の宝石を持って叫ぶ。

 すると、シアタールームの扉から、スライムが一匹ヌルヌルと這いずってくる。

 そのスライムは、一直線にワンダーが捕まった檻を目指して――そして、光る魔法陣に不用意に接近する。


『あっ』


 その瞬間、一条の銀閃が走る。

 忍ちゃんの石化罠と連動罠が同時に発動し、スライムの核を的確に一閃。

 その軌跡は可視化されて、私たちにも明瞭に見えた。

 直線的な斬撃は、スライムの核を一撃で両断する。

 スライムの核というのは、ただの色のついた細胞の塊だ。カッターナイフ程度の威力の斬撃といえど、破壊するには十分。そしてスライムは、核を破壊されると死ぬ。目の前のスライムもその法則を違えず、ジェルの体をべしゃりと床に広げた。


『……えっと』


 そういえば、ワンダーの警備のために、忍ちゃんの[忍式之罠]を仕掛けておいたんだった。それを忘れてワンダーがスライムを呼び寄せたものだから、スライムは無残にも核を壊されて命を落とした。

 スライムを構成したジェルは、完璧に動かなくなっている。――しかし。


「うわっ、また動いた?(。´・ω・)?」


 十秒後、ジェルは力なく、ワンダーの閉じ込められた檻まで這い進んだ。

 そして――もともと歪んでいた檻を腐食させ、ワンダーを中から取り出す。

 命を落としているはずなのに、忠実に魔王からの命令を遂行する。

 そうして今度こそ、スライムは完璧にその動きを停止させた。


『は、ははっ、す、すごいだろー! 魔王の力を以てすれば、魔物はたとえ命を落とした後でも、条理を覆してボクの命令を絶対に遂行するんだ!』


 ワンダーの声は若干引き攣っていた。


「なにそのドブラックな職場。あーし将来、こんな上司の下じゃ働きたくないなー(´・ω・`)」

『こ、これも忠誠心故だから……。生きているうちに出した命令なら、死んでも果たしてくれる都合のい――げふんげふん。一生懸命な子たちの職場なんだよ!』

「ふぅん。ちなみに、魔王の配下って給料とかあるの?( ̄д ̄)」

『い、いや、お気持ちだけ……』


 最低の上司だった。


「ところでさー。【犯人】の認定条件って、『殺人を企て、手段を問わずその人によって命を奪われた者が発生した場合』、だったよね? で、なおかつ、ワンダーも【犯人】候補には挙がるっていうのも三日前だかに確認したけど。――命を奪われるのが人じゃなきゃいけないとは明言してないし、今の、アウトじゃない?(´Д`)」

『……えっ?』

「だーかーら。今のスライムって、ワンワンが殺しちゃったようなものだよね? ついでに、ワンワンはウイたんを殺してる。――つまりは、既に殺人を企ててる。この二つを合わせると、ワンワンは殺人を企て、なおかつスライムの命を奪った存在ってことになる。――今度こそ、ワンワンが【犯人】ってことでいい?( ̄д ̄)」


 空澄ちゃんが、ワンダーのミスを徹底的に糾弾する。

 ここで魔王を破滅させる、そんな意思すら垣間見せる空澄ちゃん。――しかし。


『あーもう、アバンギャルドちゃんはしつこいなー。じゃー、スライム殺しも対象外ってことで。それでいい?』


 ゲームマスターたるワンダーは、それを強引に躱す。


『まったくもう。重箱の隅をつつくのはミステリーの醍醐味だけど、そういうつつき方は望んでないんだよなぁ。いい? キミたちが今探すべきなのは、不良ちゃんを殺した【犯人】なの。魔王様に構ってるような場合じゃないでしょ?』

「いや、構えって言ったのワンワンだけど(-ω-)」

『シャラップ! ともかく、キミらは事件の【真相】をちゃんと探すこと! あと二時間しかないんだから!』


 ワンダーは怒ったようにそう言うと、シアタールームを出て行こうとする。


「あ、待った(=_=)」


 それを、空澄ちゃんは引き留める。


『ああもう、何!? まだ何かあるの!?』

「いや、あのさー。セツリンの魔法が失敗したの、たぶん、本当に幽霊がやったのかどうか確定させられなかったからだと思うんだよね。ぶっちゃけ、そこに関してはフェアじゃなさすぎると思わない? 幽霊がやったかもなんて可能性をチラつかされたら、推理もなにもないでしょ┐('д')┌」

『……はぁ。もう、アバンギャルドちゃんは交渉が上手なんだから。なら、一つだけ教えてあげるよ』


 ワンダーは足を止め、振り返って答えた。


『ボクが作った映画は、ボクの配下の魔物――ゴーストとドッペルゲンガーを使って撮ったものだよ。この館にゴーストがいるのは事実だけど、その種族は全一種類。みんな、習性も全く同じやつね。行動原理、人間の襲い方、飛び方。霊感のない人には見えないとか、そういう特徴もあったっけかな。――以上! あとはボクの映画を見てくれれば、何か掴めるんじゃない?』


 ワンダーは、シアタールームの再生機を指す。


『必要になると思って、ボクの映画は何回でも見れるようにしておきました! ファンになったつもりで、めいっぱい楽しんでね! あははははははは!』


 ワンダーは笑う。その笑いが鼻についたのか、空澄ちゃんがチクリと言った。


「一つだけって言いつつ、色々教えてくれたね?(。´・ω・)?」

『えっ? ――あっ。このお喋りさんめ! ボクの馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!』


 ワンダーは自分の頭をポカポカと叩きながら、シアタールームを出て行った。

 どうやら、意趣返しには成功したようだった。

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