Was she killed by a curse?
《彼女は呪い殺された?》
私がシアタールームへ向かうと、他の人は既に全員揃っていた。
「あ、カナタン、来たね?('◇')」
「……うん」
「んじゃ、話し始めるとしようか?(-ω-)/」
空澄ちゃんが進行をコントロールする。
……空澄ちゃんは、議論の誘導が得意だ。それは今までの行動でよく示されている。
そこに不安を感じるけれど、でも、みんなの先頭に立って何かをするような人は、もう空澄ちゃん以外にいなくなってしまった。
初さんは処刑され、狼花さんは今回の【犯人】に殺された。
……それを、実感させられる。
「あーでも、その前に、カナタンにも情報をあげたいんだけど。ずっと気絶してて、まともな捜査できなかったみたいだし。いいかな?(。´・ω・)?」
「ええ。その方が、いいでしょうね」
空澄ちゃんの呼びかけに、香狐さんが頷いた。
「よし、それじゃカナタン。あーしらが集めた情報を、今からキミに渡すからね(*'▽')」
「……うん」
それは、願ったり叶ったりだ。
「とりあえず、ロウカスが殺されたときのことを教えておこうか(´Д`)」
「……誰か、見てたの?」
「うん。カナリン姉妹がバッチリ見てたって(*´з`)」
「…………」
佳奈ちゃんと凛奈ちゃん。その二人に同行して、狼花さんは旧個室に向かった。そこで事件が起こったのなら、確かに、目撃していてもおかしくはない。
そうして――空澄ちゃんは、佳奈ちゃん凛奈ちゃんから教えられたのであろう、事件当時のことについて話し始めた。
◇◆◇◆◇
◇ 事件直前:午後六時五十五分 ◇
彼方と分かれた佳奈、凛奈、狼花の三人が、浴場からまっすぐに旧個室前までやって来る。
「ゆーれい、ゆーれいっ」
「お前、ほんとに幽霊好きなんだな……。どこがいいんだか」
凛奈が旧個室の中に入ると、すぐに部屋のドアがバタンと閉まった。
「あっ、凛奈!」
佳奈がその後を追って、旧個室の中に入る。またもドアが勢いよく閉まる。
「ひゃっ!?」
その音に驚いて、佳奈が声を発する。
「ゆーれい、ゆーれいどこー?」
「い、いないんじゃない?」
「……ったく」
二人の話し声を聞きながら、狼花もまた旧個室の中に入った。
「暗いな……って、電気つかねぇんだったか」
狼花が部屋の入り口のスイッチを押すも、電灯はつかない。
「おい、せめてスタンドの電気くらいつけろよ。暗くて危ない」
「えー、でも、ゆーれい……」
「スタンドの電気くらいなら、幽霊とやらも逃げないだろ。そこまで明るくなるわけじゃないしな」
個室トイレの壁際で固まる姉妹を押しのけ、狼花は机の上のスタンドライトを使おうとする。
部屋は薄暗くて歩きづらく、狼花は壁伝いに机まで移動しようとした。
「むしろ、雰囲気も出るんじゃ――」
何かを喋っていた狼花の言葉が、ふと止まる。
それと同時に、狼花が足を止めた。
なんだろう、と姉妹は思う。
――そうして、次の瞬間。
「あっ、ゆーれい!」
狼花の体に纏わりつく、直線的な銀光。それが、一本、二本、三本、四本、五本。ほとんど同時に、それらが狼花の体をなぞり、なぞっては消える。
――まるで、小型の幽霊。暗闇にパッと浮かんで消えたそれは、そんな印象を抱かせる。白ではなく、くすんだ銀色というのもまた不気味だった。
「ねぇ、おねぇちゃん、ゆーれい!」
「えっ、ちょ、ちょっと――ほんとに出るの!? というか、幽霊って白いやつじゃないわけ!? なんか濁ってるけど!?」
凛奈ははしゃぎ、佳奈が怯える。しかし、幽霊に纏わりつかれた狼花は、ただ立ち尽くすだけだった。
声も上げないその様子に、疑問を覚える佳奈。
突然の心霊現象に反応が分かれる中、先に動きを見せたのは狼花だった。
「が、ぐ……」
狼花が床に膝をつく。
きっと幽霊の仕業に違いない。二人がそう思った瞬間に、その匂いが鼻に届いた。
――濃厚な、血の匂い。
狼花は膝立ちできる力すらも失い、完全に床に倒れ伏す。
「……えっ?」
佳奈が、呆然とした声を漏らした。
「あ、あんた……ねぇ?」
佳奈がしゃがんで、狼花の体を揺する。
その揺すった手に、液体が付着する。床についた膝も、何かの液体に触れる。
――その瞬間に、佳奈は事態を察した。
そして――どうしようもない、恐怖の叫びを上げた。
何分も、その場でうずくまったままで。
◇◆◇◆◇
「――ってわけ。あってたよね?ヾ(@⌒ー⌒@)ノ」
空澄ちゃんの確認に、佳奈ちゃんは頷いた。
でも……馬鹿げた話だった。
狼花さんは幽霊に殺された、なんて。
「にゃ、にゃあ…………間違いないにゃ! きっとこれは、初の仕業にゃ! やっぱりあの映画に呪われたんだにゃ!」
摩由美ちゃんが叫ぶ。
それは、彼女の霊媒師としての意見なのだろうか。
でも――魔法少女が言っても説得力がないだろうけれど、幽霊による殺人なんて非現実的すぎる話だった。
人が幽霊になるような怪異譚はいくらでも存在する。なら、そういう魔物もまた存在するのかもしれない。でも――魔物を操る王、魔王の膝元で行われるこの狂った殺し合いで、ワンダーがそんなことを許すだろうか。
幽霊による殺人だなんて、秩序も何もない殺人を。
「ま、その可能性は一旦脇に置いといて。他の情報も共有しちゃおっか。とりあえず、事件当時のアリバイについても全員分調べておいたよ(*^^*)」
空澄ちゃんは淡々と、集めた情報を語った。
「カッコーとムックは、ワンワンとあーしの監視ね。あーしも監視されてたわけだから、当然三人でシアタールームにいたってことになるね。あーしらは、慌てたカナリン姉妹が呼びに来るまでずっとここにいたよ(´Д`)」
……つまり、事件当時に何かできたりはしなかった、と。
「シノっちとマユミンは遊戯室ね。別々のもので遊んでたらしいけど、互いの姿は確認できる位置にいたって('ω')」
……この二人もまた、事件当時は何もできない。
「それからもちろん、カナリン姉妹はロウカスと一緒に旧個室ね。――事件当時の話自体、カナリン姉妹からの情報だから、もしかしたらカナリン姉妹が普通に殺しちゃったっていう可能性もあるけどね( ̄д ̄)」
「か、佳奈はそんなことしてない! 凛奈も、そんなことするはずない!」
佳奈ちゃんが叫ぶ。
当然ながら、その衣服には返り血の一滴もついていない。
――いや。返り血は、コスチュームの自浄作用で既に消えているはずだ。現に、私の服がそうなんだから。
「うん。まあ、二人が嘘ついてるなら【犯人】バレバレだし。カナリン姉妹がそこに気づけないほどの馬鹿か、あるいはあーしらの裏をかこうとしてるんじゃないのなら、その線は違うと思うよ。――第一、凶器も見つかってないしね(´・ω・`)」
――ん?
それに、引っかかりを覚えた。
「えっと……凶器、見つかってないの?」
「うん。というか、旧個室からは何も持ち出してないよ。そもそも、証拠になりそうなものが何一つ出てこなかったんだから(´Д`)」
「……え?」
私はてっきり、現場に証拠らしきものがほとんど残されていないのは、みんなが見つけて持ち出したからだと思っていた。
ミステリーでは現場保存が大切だとか、書庫にあった本には書いてあったけれど、私たちは素人だ。だから誰かが持ち出したんじゃないかと、そう考えていた。
だけど――凶器すら見つからなかった? あれだけの血が出たのなら、殺害に使ったものには相当の血が付いたはずなのに?
「誰かがまだ、持ってるとか……?」
「それはないよ。カナタンが気絶してからすぐに、みんなで身体検査したからね。妙なものを隠し持ってた人は、やっぱりいなかったよ。どこかに投げ捨てたって線も考えて、みんなであちこち探したけど、どこにもそれらしきものは見つからなかった――よね?(〟-_・)?」
空澄ちゃんが全員の顔を見回す。
誰も口を挟まない。ということは、それらしきものは誰も見つけていないということだ。
「うん。まあ、そういうことだよ。――アリバイの話に戻っていい?(。´・ω・)?」
「あ、うん……」
私は頭を切り替える。
「セツリンとアイたんは、自分の部屋にいたって言ってたよ。本当かどうかハッキリしないのは、この二人だけだね。――あ、それとカナタンもか(~_~)」
「えっ?」
「いやさ、カナタンが一階にいたのはなんとなくわかってるんだけど。そこで見つけたわけだし。でも一応、事件が起きたとき――要するにあーしが呼びに行く前、どこで何してたか教えてくれる?(;´・ω・)」
「……私は、洗濯室で洗濯してたよ。まだ洗濯機に、洗濯物が残ってると思う」
「なるほど。まあ、そこにいたっていう証拠としては十分かな? ――というかそれ、放置しとくのマズくない? カビとか生えない?((+_+))」
「…………」
空澄ちゃんの軽口に、今は付き合わない。
洗濯物なんて、今は問題にならない。今の問題はたった一つ。
【犯人】を暴くこと。――それが、死者の剣を握った、今の私の役割。
――とりあえず、みんなの居場所を纏めるとこんな感じになる。
――――――――――――――――――――
私:洗濯室
香狐さん:シアタールーム(監視)
夢来ちゃん:シアタールーム(監視)
接理ちゃん:自分の部屋
忍ちゃん:遊戯室
佳奈ちゃん:旧個室
凛奈ちゃん:旧個室
空澄ちゃん:シアタールーム(被監視)
摩由美ちゃん:遊戯室
藍さん:自分の部屋
――――――――――――――――――――
この十人の中に――【犯人】がいる?
それとも、【犯人】は既に死んでしまった人? これは、幽霊の仕業?
わからない。けれど、突き止めなくてはならない。
もう、事件は起こってしまったのだから。
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