The moment my fate changed
《私の運命が変わった瞬間》
『それじゃあ、最後は忍者ちゃんの番だね! そうだなぁ。んー……。忍者ちゃんには、怪談っぽい冒険譚でも話してもらおうかな! 魔法少女なんだし、そういう経験の一つや二つはあるよね?』
「う、うん……」
忍ちゃんが頷く。
『それじゃあ、とっておきのを頼むよ! どうせなら、ここにいるみんなが眠れなくなって、トイレにも行けず、おねしょしちゃうようになるくらいに怖いやつをお願いね! あははははは!』
「それだと、君もその末路を辿ることになるけれど」
『うえっ!? ……まあいいでしょう! どうぞ忍者ちゃん、やっちゃって!』
……またワンダーが、変態じみたことを言う。
忍ちゃんもこれには嫌な顔をしたが、文句を言わず、その過去話を開示した。
◇◆◇◆◇
◇◆◇【神子田 忍】◇◆◇
その日ボクに与えられた任務は、学校の怪談として少しずつ有名になっている魔物の討伐だった。
怪談級の魔物なら、多少の危険はあっても、素人魔法少女で対処できる。
しかし多少の用心のためか、その任務は三人体制で当たることとなった。
その学校では、二種類の怪談が流行っていたらしい。
怪談級の魔物の同時発生。確かに、一人で対処するには骨だった。
発生した魔物は二種類。西階段の一段増える階段と、トイレの花子さん。
これらの二種類を討伐の対象として、ボクらは三人で作戦を決めた。
まずはボクが、トイレの花子さんを探す。二人は西階段の精査。
ボクの花子さん捜索は、ほとんどダメ元で行われたものだった。
案の定、普通にトイレに入っても、僕は花子さんを見つけられず。
他の二人の魔法少女は、一段増えている階段を見つけたものの、魔物の構造がどういう風になっているのか理解できていないようだった。迂闊に攻撃して、普通の階段を傷つけてもまずい。
そこで二人は、ボクと役割を交代した。
ボクが階段を調べる役を担当し、二人が花子さんを探す。
実際、ボクの固有魔法は階段を調べるのに有効だった。
石化罠で相手の動きを封じ、連動罠でダメージを与える。姿の見えない敵にも、位置さえわかればこの作戦は有効だった。
ボクはまず、階段の壁に連動罠を設置した。ボクの[忍式之罠]は、手元でしか設置できない。だから壁に手をついて、魔法をそこに定着させる。
十秒ほどして、設置を完了させる。暗闇の中で光る数十センチサイズの魔法陣は、それだけで神秘的な美しさを見せる。しかし見惚れている暇はない。
続けて、石化罠を設置する。
二つの罠がしっかり定着していることを確認して、ボクは距離を取った。
設置した罠は、一分ほど経ってから有効化される。そうじゃないと、設置したボクが真っ先に罠にかかってしまう。
階段から下りて、じっと罠の有効化を待った。
そして――。
石化罠が有効化されると同時に、両方の罠が消滅した。
つまり、罠が発動し、その効果が魔物に対して叩き込まれた。
ボクは、階段を観察して違和感を探る。そして――見つけた。
一段増えた階段の最上段。それにピンポイントで、連動罠による銀閃が走る。
間違いない。あれが魔物だ。
そう思って、苦無を手に飛び掛かろうとした――その瞬間。
「きゃあああああああ!?」
悲鳴が響いた。下から――おそらく、花子さんを探しに行った二人のうち、どちらかの悲鳴だ。
ここは階段の魔物を無視して、花子さんを探しに行くべきか――。
逡巡する。そうして――ひとまず、階段の魔物の排除を優先した。
ボクは苦無で一閃。相手の防御が柔らかいことを確認。
ここぞとばかりに、苦無を二、三本突き立てる。
『くきゅうううう~』
徹底的に攻撃しているうちに、石化罠による拘束が解けた。けれど、もう遅い。
情けない声を上げる階段の魔物に、トドメの一撃を叩き込む。
この程度の戦い、以前経験した激戦に比べたら軽いものだった。
あっけなく階段の魔物は消滅する。
それを見届けてから、ボクは花子さんに行き会ったと思しき魔法少女を探しに行った。
その子はすぐに見つかった。
既にトイレから出て、廊下で震えていたからだ。
話を聞くと、花子さんはトイレに踏み入った彼女に話しかけて驚かせた後、突如として消えてしまったらしい。
彼女はすっかり恐怖に陥った様子。どうしようかと困っていると、
「きゃあああああああ!?」
突如、もう一つの悲鳴が響いた。
ボクは、近くで震えている彼女の手を引いて、その悲鳴の方へ向かった。
もちろんそこにいたのは、もう一人の魔法少女。
彼女もまた、一人目と同じ状況を語った。
ボクらは少し落ち着くための時間を取ってから、再び花子さんを探した。
そして――同じことを繰り返す。
ボクだけが花子さんと遭遇せず、他の二人は恐怖だけを植え付けられて逃げられる。再チャレンジの後は、二人とも恐慌状態に陥った。とても討伐がどうのと言っていられる状態じゃなかった。
度重なる失敗を経て、その日の花子さんの討伐は中止となった。
一段増える階段の討伐という成果も上がっていたので、スウィーツにもその撤退は許された。
ボクらは少し落ち込みながら、帰途に就いた。
その最中、同行した魔法少女の一人から、こんなことを言われた。
「あの、ごめん。その……花子さんから、あなたに伝言。言わないと呪うって、そう言われちゃったから……。あの、話してもいい?」
「あ、う、うん……。いいよ。それで、君が呪われなくて済むなら……」
「そう……。ありがとう。あのね?」
その子は、まだ少し怯えた様子を見せながら、言った。
「『今度はちゃんと、礼儀を守って遊びに来てね』、って……」
「……ぇ」
もしかして……ボクも、花子さんに見られていた?
どこからか、見張られていた?
そう考えると、無性に背筋が寒くなった。
◇◆◇◆◇
……思ったより、本格的なホラー話だった。
こちらも、想像しただけで少し悪寒がする。
『あー、花子ちゃんね。来客があれば
「そ、そうだったんだ……」
忍ちゃんが、たった今トイレの花子さんの特殊能力を知ったかのように呟く。
というか実際、今知ったのだろう。そういう反応だった。普通に驚いているように見える。
『うん、まあ、なかなか面白いお話だったかな? でも、ボクを満足させるにはまだまだだぞ! もっともっと、面白い話を持ってくるのだー! あははははははは!』
ワンダーが叫ぶ。どうやら……この冒険譚披露の場は、しばらく長引くようだった。
◇◆◇◆◇
◇◆◇【神子田 忍】◇◆◇
時刻は、そろそろ十一時を迎えるかという頃。
もう監視も終わりそうな時間だけれど……そろそろ、我慢の限界だった。
「ご、ごめん……ちょっと、トイレ行ってきてもいい?」
『ん? どうしたの忍者ちゃん。謎触手ちゃんに会ってくるって?』
「そ、そうじゃなくて……。普通に、トイレに」
『ふぅん。まあ、勝手に行けば?』
何故か真っ先に、ワンダーが許可を出す。
ボクは他の二人にも確認を取り、了承をもらった。
ボクは救われたような気分で、シアタールームを出る。
この館は、消灯という概念がない。廊下は常に照らされているため、暗いのが怖くてトイレに行けないとか、そういうことはない。――そもそも、トイレは各自の個室に用意されているのだから、夜中にトイレに行きたくなっても、わざわざ廊下に出る必要はない。
……そう。わざわざ部屋を出る必要はないはずなのに。
ボクは、それを見てしまった。
シアタールームと遊戯室の間にあるトイレ。そこから出てくる人影。
棺無月 空澄さん。奇矯な行動を繰り返す、危険人物と目しても問題ないような人。その人が、何故かトイレから出てきた。
あり得ない、と咄嗟に思う。
だって、今はワンダーの嫌がらせによって、謎触手ちゃんとやらがトイレを占拠しているはずだった。だからこそボクも、自分の個室のトイレを目指そうとしていたのに。
トイレから出てきた棺無月さんには、多少の違和感があった。
ただトイレに入っただけのはずなのに息を切らしている。普通じゃないことがあったのは確かだ。
一方で――その表情は、ただ苦々しさを孕んだものだった。何かを悔しがるような、そんな表情。着衣も乱れておらず、とても謎触手ちゃんとやらに酷い目に遭わされた後とは思えない。
ボクは何か、見てはいけないものを見てしまった気がする。
それは例えば、巨大企業の陰謀について記した文書とか、歴史の裏に潜む影とか、連続殺人鬼の殺人現場とか――。
知ってしまったら戻れないような、そんな――。
「……あれ、シノっちじゃん。どしたの?(;´・ω・)」
「え、あ……」
気づかれた。棺無月さんがボクに迫る。
逃げるなら、このタイミングしかなかった。
「ご、ごめん……。な、なんでもないから!」
「えっ? あ、ちょっとー(´Д`)」
ボクは一直線に、自分の部屋に向かった。
棺無月さんに追いつかれないように。そればかりを気にしながら。
そうして、鍵をかけ、簡単なバリケードを形成し、ようやく安心するに至る。
……これはもう、部屋から出られる気がしなかった。
ボクは見てしまった。これが棺無月さんを追い詰める情報だったとしたら……。
例えば明日の朝、死体が見つかったとして。僕が証言すれば、棺無月さんはどうしようもなくなる。【真相】を暴いている最中の殺人は禁止。ワンダーもそう言っていた。だったら――それまで待てばいい。
そうだ。それがいい。誰かが死体を見つけて、【真相】の究明が始まるまで、ボクはここに隠れていればいい。
ボクはガタガタと震えながら、一睡もせずに朝を待った。
途中で接理ちゃんがボクの部屋を訪れたけれど、無視した。
開けちゃいけない。もしかしたら、棺無月さんの声真似かもしれない。そう思ってしまうと、怖くて何もできなかった。
ボクはとても惨めな気分で、朝を待って、待って、待って、そして――。
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