Are you a betrayer?
《あなたは裏切り者?》
『じゃ、謎触手ちゃんたちは各自持ち場につくように! 解散!』
ワンダーが号令をかけると、シアタールームの扉前に集った触手たちはどこかへ――おそらくはトイレへと去っていった。
私たちはそれぞれに安堵の息を吐いた後、檻の中のワンダーに視線を注いだ。
「さて。目的は達成したし、あーしももう行くかな(^◇^)」
空澄ちゃんがそう言って、檻を拾い上げてシアタールームを出て行く。
みんな、その背をただ見送る。
――正直に言うと、展開についていけなかった。
死んだ仲間を無理矢理登場させた悪趣味な映画を見せられたと思ったら、何故かワンダーが捕らえられて、ワンダーは大人しく檻に入って、代わりに気味の悪い触手にトイレを塞がれて……。
目が回るような展開に、私たちは置いていかれた。
でも……。
胸の中に、何かがつかえているような感覚がある。
私の中に、不明な感情が蟠っている。
その感情は、空澄ちゃんに向けられていた。
この展開を作り出した――違う。ずっと前から、私たちのことを邪魔しようとしているとしか思えない空澄ちゃん。
……そう。私が抱くこの感情は、不信感や猜疑心と呼ばれるものだ。
「……っ」
それに突き動かされて、私は空澄ちゃんの後を追った。
空澄ちゃんの姿は、シアタールームを出てすぐの廊下にあった。
「ん? どうかした?(o゜ー゜o)?」
私の足音に気づいてか、空澄ちゃんが振り返る。
――これ以上、我慢できなかった。
空澄ちゃんが繰り返すおかしな行動は、私の不信感を煽る。
そんな状態をずっと維持していくなんて、私にはできない。
仲間を疑い続けて過ごすなんて、私には耐えがたい。
だから、質問をぶつける。空澄ちゃんの意思を問いただす。
「空澄ちゃん……。空澄ちゃんは、何がしたいの?」
「んー、どういう意味?(〟-_・)?」
「空澄ちゃんが狼花さんの魔法を暴発させたのは、わざとだったんだよね?」
「まあ、そうだけど。それがどうかした?(・ 。・)」
「なら……どうして、狼花さんを恨んでるフリなんてしたの?」
どうして――私たち魔法少女同士の対立を煽るようなことをしたの?
「ま、第一には怪しまれないようにだけど。だって、おかしいでしょ? 傷を負わされて何の恨みもないなんて。だから、自然な事故に見えるように演技したってわけ。それくらいは考えればわかるよね?(´Д`)」
「……うん」
それは、もうわかってる。
暴発によってわざと魔法を掠め取ったことを、私たちに隠し通すための演技。
あのギスギスした空気で冷静じゃなくなった私たちは、空澄ちゃんが魔法をわざと入れ替えたということに気が付けなかった。
暴発でも魔法を入れ替えることができると知らなかった、というのもあるけれど、大きな原因は明らかにその演技のせいだった。
「でも……それだけじゃないよね?」
「ふぅん。どうしてそう思うの?(。´・ω・)?」
「……空澄ちゃんは、一昨日の事件、途中で【真相】に気づいてた。それなのに、狼花さんを攻撃し続けるっていうのは――演技の延長線上って考えても、明らかにおかしいから」
「んー、ま、そうだね。ちょっと攻撃が露骨かなー、とは思ったんだけど。そうした方があーしにとって都合がよかったからね(-ω-)」
空澄ちゃんは意地悪く笑う。
そして――空澄ちゃんは一瞬で笑みを消した。
「それで? あーしの口から理由を聞いて、カナタンは納得するの? しないよね? たぶんあーし、ワンダーの内通者か何かだと思われてるだろうし」
「……っ」
動揺が顔に出る。
そこまでわかっていて……その上であんな風に振る舞った?
それなら、内通者とは思い難いけれど……。
でも逆に、バレかけた内通者が開き直っているとも受け取れる。
「ふぅ……。ま、そんな疑念塗れになったカナタンに、言えることは一つだよ」
「……なに?」
「あーしは魔法少女。由緒正しい、正義の味方だよ。――もしかしたら、ダークヒロインの方かもしれないけどね」
空澄ちゃんが、常とは異なる凛とした表情で言う。
それは真剣な答えのようで、演技のようでもあり――。
本心なのかどうか、まるで読めなかった。
――正義の、味方。
正義の形にも色々ある。
一体それは、誰にとっての正義なんだろう。
「ああ、あと、そうだ。これヾ(@⌒ー⌒@)ノ」
「……えっ?」
『えっ?』
……最悪なことに、ワンダーと驚きの声が被る。
でも、驚かずにはいられなかった。
空澄ちゃんが、ワンダーを捕まえた檻を、私に押し付けたんだから。
「これ――どういうこと?」
「どうもこうも、そのまんまだけど。あーしだけで世話するの大変そうだから、みんなに面倒見てもらおうかなー、って(^◇^)」
「…………」
魔王の世話なんて、するつもりはない。
だってこの魔王は、米子ちゃんと初さんを――。
「あっ、気が進まないって顔だね? だったらこう言い換えようか? ――魔王が余計なことしないように、監視、お願いできる?('ω')」
「……監視?」
「うん。あーしが魔王を閉じ込めたのは、まあ一応、牽制の意味合いもあるからね。最初は自分で監視しようかと思ってたけど……。ちょっと、やることができちゃったからね(>_<)」
「……やること?」
私は疑問符を浮かべたけれど、空澄ちゃんはそれに取り合わなかった。
代わりに、別の質問をされる。
「ねぇカナタン。今、何時だっけ?(。´・ω・)?」
「えっ? えっと、たぶん、そろそろ十時半くらい……」
「そっか。じゃあ、そういうことで!ヾ(@⌒ー⌒@)ノ」
「あっ……」
どうやら今の質問はフェイントだったようで、空澄ちゃんは質問の答えを聞くと、何の脈絡もなしに踵を返して階段を上がっていく。個室に籠られたら、鍵を開ける術を持たない私にはどうすることもできない。
「えっと……」
これは、どうすればいいんだろう。
硬直した私に、檻の中の魔王が言った。
『つまり、美少女の群れに養ってもらえるってことでおk?』
「…………」
この檻、今すぐにでも放り投げたい。
そんな衝動を我慢しながら、檻を抱え、私はシアタールームへと引き返した。
◇◆◇◆◇
◇◆◇【棺無月 空澄】◇◆◇
そっと、トイレの扉を押してみる。
するとその瞬間、ほんの少しの扉の隙間から、猛烈な勢いで触手が飛び出そうとしてきた。慌てて、トイレのドアを閉める。
どうやら隔離してしまえば襲ってはこないようで、触手がドアを突き破ってくるようなことはない。
……さて。普通に入るのは難しい――というか今の触手の速度を見た限り、不可能だ。これは、普通に侵入するのは諦めるしかないようだね。
仕方ない。――うん、仕方ないよね。
できないものは仕方ない。諦める他ない。
そうだよね?
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