【解決編】The sound of starting is like a firework.
《号砲の音は花火のようで》
【犯人】は確定した。
これで議論は終わり。誰もがそう思っていた。
しかし、初さんはまだ食い下がった。
「み、みなさん! ま、待ってください!」
初さんは叫ぶ。
「んー、張り合いがあるのは結構だけど、流石にそろそろ鬱陶しいかなー。もう認めちゃったらどう?(〟-_・)?」
空澄ちゃんが小馬鹿にしたように言う。
初さんはそれに――震えながら、頷いた。
「わ、わかっています……。み、認めます。わたくしが、ま、米子さんを……殺しました」
「おろ、認めた(。´・ω・)」
空澄ちゃんが意外そうな顔をする。
それを他所に、みんなが騒めく。
「みゃぁぁぁ、や、やっぱりおみゃーが【犯人】だったのかにゃ……」
「ひ、人殺し!」
「貴様、よくもそう厚かましくしていられるものだな」
「……最低だね」
糾弾する。罵声を浴びせる。
夢来ちゃんも、不安を覚えたように、私の手を握る力を強くする。
「ち、違うんです! わたくしは、み、みなさんを助けようと思って……。そ、それで!」
「は? 助ける?」
白々しい言い訳をする初さんを、佳奈ちゃんが睨みつける。
「そ、そうです! わ、私が【犯人】になって願おうとしていたのは、みなさんの脱出です! ま、魔王ならそれができるはずです! 私たちを解放することが! だ、だから……」
「それで、殺したってのか?」
狼花さんが、信じられないモノを見る目で言う。
「そ、そうです……。わ、わたくしは、米子さんに取り返しのつかないことをしてしまいました……。で、ですが、わたくしは! それ以外の全員を救うことができるならと……」
その言葉は、説得力を持って響いた。
皆が、もしかしたら、と思い始める。そういう方法なら、脱出もできるのではないかと。
殺人鬼の言うことなんかに耳を傾けたくはない。
しかし、もし本当なら――。
そんな希望を抱いた人たちを、そんな希望を持たせた人を、ワンダーは思い切り笑い飛ばす。
『あははははははははははは! あははははははは! あっはははは、あは、あはははは! 面白いこと言うね、プリーストちゃん!』
ワンダーは、意地の悪い笑いを浮かべる。
邪悪さに満ちた笑い声。その後に告げるのは、もちろん、誰かを貶めるための言葉。
『昨日の夜、わざわざボクを呼び出してまで確認したくせに! ――【犯人】としての願い事で、一生困らないようなお金を要求することはできるか、ってさ! あははははははは!』
場が騒然とする。
「か、金なんかのために殺したの……?」
「とんだ大嘘つきにゃー!」
初さんが捻りだした、自分が助かるための理由を、ワンダーは容赦なく踏みにじる。
「ち、違うんです! それは、あの、わたくしは――」
「最低! クズ! 人殺し! あんたなんて――とっとと死ね!」
佳奈ちゃんが叫ぶ。
――誰もが、その言葉にハッとする。
犯行が暴かれた【犯人】に待つ、その末路を思い出す。
『はーい、双子のお姉ちゃんいいこと言った! そうだよ! ここでは、殺人犯には例外なく死刑が与えられるんだ! キミたちは殺人犯と一緒に過ごすようなことはしなくていいんだよ! よかったねぇ。あははははははは!』
ニタニタと、ワンダーは笑う。
『ちなみにだけど、ボクに全員の脱出なんてお願いされても、どうにもできないんだよね』
「……えっ?」
初さんが、呆然としてワンダーを見る。
『ボクにもクライアントがいるんだ。勝手に放り出したら、ボクが怒られちゃうよ。それに、一度始めたことを放り出すなんて、魔王の名に傷がつくからね。そんなことできっこないんだよ! あはははは!』
初さんが捻りだした醜い言い訳すら、ワンダーは許さない。
『まだ三時間は迎えてないけど、待つのも面倒だからね。完璧に【真相】を暴けたと思うなら、時間をスキップして、【真相】の解答に入っちゃってもいいよ!』
ワンダーが言い放つ。
誰もが、どうしようと顔を見合わせる中、空澄ちゃんが勝手に答えた。
「あはぁ。ウイたん、もう自分の犯行認めちゃったしね。わざわざ待つ意味もないよね?(。´・ω・)? じゃ、スキップしようってことでヾ(@⌒ー⌒@)ノ」
『はーい! 了解いたしました!』
ワンダーが、テーブルの上で跳ねる。
『ではこれより、第一の事件の【真相】の解答! 釜瀬米子ちゃんを爆死せしめた【犯人】、及びその犯行方法を当てていただきます! 解答は参加者のうち、誰か一人のみに許されます。さあ、誰がやる?』
「もちろん、カナタンで(*'ω'*)」
空澄ちゃんが、私を指名する。
「えっ……。な、なんで、私が」
「だからぁ、さっきも言ったじゃん。名探偵は舞台から下りることを許されないんだよ。事件を終わらせるのは、名探偵の役目なの。( ̄д ̄) それとも……できない? お米ちゃんを派手にぶっ殺したそいつを追い詰めるなんて、かわいそうでできない? 魔物同然の――いや、魔物よりヒドいそいつを赦しちゃう? 天国のお米ちゃんは、それを見てなんて言うかな?"(-""-)"」
「…………」
私は、初さんを見る。
顔は蒼白。体調不良と恐怖で身を震わせている。
人を殺して。それを隠そうとして。露見してもなお、浅ましい嘘で誤魔化そうとして。徹底的に、罪から逃れようとして。
そんな、魔物より酷いことをやってのけたこの人を、私は許すことができるか。
罪を償おうとすらしないこの人を、私は許せるか。
「……わかりました。私が、やります」
『はーい! じゃあ、頭ピンクちゃんが解答役ってことで!』
ワンダーが、ぽふぽふと手を打ち鳴らして拍手する。
『見事正解すれば、殺人鬼は正義の名のもとに裁かれます! 残念なことに不正解だったなら、【犯人】は大歓喜! それ以外のみなみなさまは楽しい楽しい絶望タイムがお待ちしています! ボクにとってはどっちもご褒美だから、そんなに力まなくてもいいよ! 気楽に答えてくれていいからね!』
そうして――ワンダーが、最後の儀式の開始を宣言する。
『【真相】は、誰に微笑むのか――! あは、あはははは、あはははははははは! どうぞ存分に、辿り着いた結論を語ってくださいませ!』
……さあ、事件の幕を引こう。
これで、終わらせる。
◇◆◇◆◇
【犯人】が考えた殺人計画は、自分の魔法を使って相手に魔力を押し付け、暴発による魔法で爆死させることです。
きっとこの方法は、ここですぐに思いついたようなものではないと思います。暴発の条件を知らないとできない方法ですから、おそらくはここに閉じ込められる前から、【犯人】はこういうことができると知っていたはずです。
けれど、外では大したことにはならなかったはずです。魔法少女は、身体能力強化のおかげで防御力も高まっていますから、死ぬようなことにはなりません。
……それが殺人に有効な手段だと、【犯人】が理解してしまったのは、一昨日の暴発騒ぎのときだと思います。あの時、ごく小さな暴発で、空澄ちゃんはやけどを負いました。それで、魔法少女の防御力もここでは無力と知られてしまった。
たぶん、そこからです。【犯人】がこの計画を立てたのは。
だけど、ただ単純に暴発させて、誰かを殺すだけじゃダメでした。
適当に魔力を押し付けても――狼花さんが目の前にいない状況で爆発してしまえば、誰もが怪しみます。狼花さんの[爆炎花火]以外に、爆発を起こす方法があったんじゃないかと。
それを避けるために、【犯人】は計画を練りました。
誰かが魔法を使うタイミングを操って、かつ、狼花さんが実行可能なように見せかけるための計画を。
【犯人】が標的にしたのは、米子ちゃんでした。米子ちゃんの魔法、[暗号捕食]は、【犯人】の思い通りに操りやすかったからだと思います。暗号さえあれば、魔法を使う場所を操ることができますし、私たちのまとめ役として行動していた人なら、タイミングを操ることもできたはずです。
だから暗号を用意するだけで、計画は実行可能でした。
けれど、【犯人】は狼花さんが実行犯だということをより明瞭に見せかけるため、仕掛けを組みました。ベルトコンベアの奥に鏡を置いて――狼花さんが厨房の様子を確認できるように細工し、壁を隔てた向こう側を爆破したというシナリオを敷いた。
たぶん――【犯人】の行動は、こうです。
今日の夜中に、【犯人】は準備のために自分の部屋を抜け出しました。必要なものを調達して、仕掛けとしてセットするために。
タコ糸や、暗号を書くのに必要な道具は全て、倉庫のものを使ったんだと思います。【犯人】は、昨日の午前中に倉庫を調べて、そういうものがあることを知っていたから。
更に【犯人】は、狼花さんに罪を着せるために必要な鏡を調達しようとしました。どうして【犯人】が、そこに鏡があると知っていたかはわかりませんが――。空澄ちゃんと同じように、衣装室という名前から、鏡の一つくらいは置いてあるんじゃないかと推測したのかもしれません。
【犯人】は鏡を割り、大きな破片を一枚、食堂に運びました。そうしてそれを、ベルトコンベアの奥に押し込んだ。穴の狭さを考えれば、たぶん、長い棒で押し込んだか……ベルトコンベアを動かして運び入れたんだと思います。本当に厨房が映るようにする必要はなかったわけですから、狼花さんが見た通り、鏡の破片は調整もされずに横にして放置された。
そして今度は、暗号を自分の手で書いた。中身はなんでもよかったはずです。もしかしたらあれは、何の意味もない適当な文章だったのかもしれません。ただ、それが暗号だとみんなに認識さえされればよかったはずですから。
完成した暗号を、【犯人】は水道に――厨房側のベルトコンベアの先に括りつけました。【犯人】の計画には暗号のある場所が重要だったから、万が一にも動かされることのないように。
――これで、事前準備は完了です。
あとは自分の部屋に戻って、朝を待つだけ。
【犯人】は料理を担当するメンバーの一人でしたから、暗号の第一発見者となることができたはずです。そこであたかも、暗号のメモを初めて見たもののように振る舞ってみせ、そして、全員を集めた。
全員に暗号のようなものが置いてあったと説明して、米子ちゃんに魔法の使用を促す。厨房にメモを置いてきたのは、わざとだと思います。そうでないと、計画が破綻してしまいますから。
【犯人】は厨房でメモの解読をするように頼み、米子ちゃんはそれに従いました。だけど、ここで【犯人】にとっては誤算が生じました。空澄ちゃんと摩由美ちゃんが、米子ちゃんに同伴したいと言い出したことによって。きっと【犯人】にとって、その不測の事態は避けたいものだったんだと思いますが――米子ちゃんが許したこともあってか、【犯人】には断りづらくなって、【犯人】はそれを許したんだと思います。
その許しが最大の誤算を生むことになるとも知らずに、【犯人】は予定通り、みんなの目の前で堂々と魔法を使いました。米子ちゃんを死に至らしめるための魔法を。
――そうして、殺人計画は後戻りができなくなってしまった。
厨房に向かった米子ちゃんは、暗号のメモを手に取りました。けれど、米子ちゃんはそれを取り落として、メモは空澄ちゃんの手に渡りました。空澄ちゃんは気まぐれにそれを取り上げて、米子ちゃんと追いかけっこをして――。
……そのせいで、【犯人】の計画に致命的な欠陥が生まれてしまった。
米子ちゃんは【犯人】が望んだ水道の前ではなく、部屋の真ん中で魔法を使いました。【犯人】は計画通りに魔法を使っていましたから、米子ちゃんは魔法の制御を失いました。そして、暴発が起きて――。
……それが致命傷になって、米子ちゃんは命を落としました。
けれど、全てが【犯人】の思い通りにはならなかった。【犯人】が組み立てた、狼花さんに罪を押し付けるための計画は既に、致命的な破綻をきたしていた。
空澄ちゃんが、鬼ごっこをしたから。ただ、それだけの理由で。
◇◆◇◆◇
「……その矛盾点のおかげで、私たちは【真相】に辿り着くことができました」
思い出す、あの爆発の轟音を。
厨房から、食堂までを揺らす衝撃。
あの音が、事件の始まりだった。あの音が、悲劇の始まりだった。
あの音は、狼花さんの[爆炎花火]に偽装され――けれど、ただの花火には収まらない威力を持って、米子ちゃんを殺した。
「米子ちゃんに魔力を押し付け、魔法を暴発させることができる魔法、[魔法増幅]を持っている人物。それでいて、今もなお魔力が枯渇している人物。それは、一人しかいません」
震える声で、私は、この儀式を終わらせるためのキーワードを口にした。
「――古枝 初さん。米子ちゃんを殺した【犯人】は、あなたしかいません」
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