【解決編】That is your magic, right?
《それはあなたの魔法、だよね?》
私は語る。この事件の紐解き方を。
「……この事件を解く鍵は、米子ちゃんの死因です」
「死因?
藍さんが問いかける。それに私は首を振る。
「いえ。米子ちゃんの死因は、爆発で間違いありません。それは……米子ちゃんの傷を治した私が、一番よくわかってるつもりです」
あの酷い肌の焼け跡は、爆発にでも巻き込まれなければあり得ないものだ。
だから、死因はそれで間違いない。
「米子ちゃんの死因が爆発だったから、狼花さんが疑われることになりました。狼花さんの魔法は、爆発の魔法だったから」
それが【犯人】の策略とも知らず、大多数の人が狼花さんを疑った。
私だって、確たる証拠がなかったら、今どんな立場に立っていたかわからない。
「でも、米子ちゃんの死因になった爆発は、狼花さんの魔法が生み出したものではありません。それは、さっき確認した通りです。狼花さんの魔法の仕様に――ワンダーの説明に嘘がないのなら、これは覆りません」
『大丈夫です! その魔法の説明に嘘がないことは、このボクが保証します!』
テーブルの上で、ワンダーが声を上げる。
「でも、それじゃあ――この爆発は、どうして起こったものなのか」
ずっと、それを考えずにいた。
何か知らない爆発物がこの館に存在していたとか、そんな目に見えない可能性ばかり追っていた。
けれど、違った。
そんなものがなくても、あの爆発を作り出すことはできた。
「この館で爆発を起こすとしたら、それは二種類の方法しかありません。一つは、狼花さんの魔法。そして、もう一つが――」
ずっと盲点だったやり方。
奇想天外な、爆発の起こし方。
「――魔法が、暴発すること」
一度、見ていたはずなのに。
誰も、その可能性に思い至らなかった。
「なっ」
「暴発?」
「そんな、まさか……」
誰もが、私の推理に唖然とする。
そんな中で、夢来ちゃんだけは、私の推理を信じてじっと聞き入ってくれる。
「魔法が暴発すれば、当然爆発します。元がどんな魔法だったかにかかわらず」
それがルールだ。
「魔法に込められる魔力が多いほど、爆発の威力は高くなります。……一昨日、狼花さんの魔法が暴発したときは、ほとんど魔力がない状態でした。だから空澄ちゃんは、やけどだけで済んだ。でも――十全な魔力があったとしたら。十分、人が死ぬに足る威力になるはずです」
そうして起こった爆発により、米子ちゃんは命を落とした。
こんなことになるなんて、予想すらせずに。
ただ、みんなのために魔法を使おうとして――。
「そうだねー。じゃあ、お米ちゃんは事故死だったわけだー。みんなの前で恰好つけようして、力みすぎて魔法の発動に失敗。ドカン! いやぁ、お米ちゃん……。ひぐっ……。なんて悲しい最期だったんだ……( ;∀;)」
空澄ちゃんが、ウソ泣きをする。
「そ、それじゃあ――【犯人】はいないってことか?」
「それでは、わたくしたちは無意味に争っていただけ……?」
「ただ、
「みゃーは巻き込まれただけってことかにゃー」
みんなが口々に、その可能性に飛びつく。
【犯人】がいなかった。誰も悪意なんて持っておらず、これはただの不幸な事故だった。
――優しい終わり方だ。優しくて苦い、ビターな結末。
――そんなわけがない、結末。
――空澄ちゃんもわかっているはずだ。
それじゃあ、鏡の破片も暗号のメモも、存在意義を見失う。
優しい結末と、怪しい証拠は両立しない。
あるとしたら、それは――。
残酷な結末と、それを示唆する証拠だけ。その二つだけが、両立し得る。
空澄ちゃんはそれを口にしない。
だから――希望を手折るのは、私の役目となる。
「……いえ。違います。この事件には、絶対に【犯人】がいなくちゃおかしいんです。暗号のメモを用意する人が、絶対に必要だから」
「「「…………」」」
一瞬で奪われた希望に、誰もが落胆する。
「で、でもよ。それじゃおかしいだろ。意図的に暴発を起こすなんて――」
「できないわけじゃありません。……一昨日、空澄ちゃんがしたみたいに」
魔法を使おうとしている人の肩を揺らす。
それだけで、精緻さが求められる魔法は暴発する。
「な、なら……空澄か摩由美が【犯人】、ってことか?」
狼花さんが、声を震わせる。
私はそれに首を振った。
「空澄ちゃんと、摩由美ちゃん。二人とも、米子ちゃんが魔法を発動するときに邪魔をするようなことはしていません。……だよね、二人とも」
「うん、そだよー(*'ω'*)」
「そ、そうだにゃー」
二人とも、物理的接触はしていない。
「そ、それじゃあ……どういうことだよ」
狼花さんが、お手上げ状態を示す。
物理的な接触はない。しかし、意図的に暴発はさせられた。
――その謎が、【犯人】へと至る鍵だ。
「……狼花さん」
「あ? な、なんだ?」
私は、狼花さんの名を呼び、問いかける。
狼花さんから聞いたことを、思い出しながら。
「魔法が暴発しやすくなるケースを、狼花さんはよく知ってますよね?」
「あ、ああ。魔力の把握がうまくできなかった場合だよ。昨日そう言ったろ?」
そう。そう聞いた。
――そして、この時点で、幾人かが驚いた顔をする。
「……爆炎の破壊者、それは確かか」
「あ? オレのことか? ――オレの経験則だけど、間違いねーよ」
藍さんの問いに、狼花さんが頷く。
そうして――藍さんは【犯人】に辿り着く。
「ふっ。そうか、そういうことか……」
藍さんが失意に沈む。
それは、この中に【犯人】がいたことを、本当の意味で理解してしまったが故。
「は? ど、どういうことだ……?」
狼花さんが、ついていけずに戸惑っている。
……ここから私は、本格的に【犯人】を追い詰める。
魔に魂を売り渡した魔法少女を、白日の下に引き摺り出す。
「……一人だけ、いるんです。魔力の把握を狂わせるような魔法を持っている人が。……暴発の確率を、意図的に上げることができる人が」
その魔法は、本来ならば他人に恩恵をもたらす魔法。
しかし――悪意を持って運用すれば、他人を陥れることが可能な魔法。
「誰かに魔力を与えて――押し付けて、破裂させる魔法。[魔法増幅]」
その持ち主は――。
「――あなたの魔法ですよね、初さん」
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