Is this a proof?

《これは証拠なの?》




 廊下に出てみると、食堂がなんだか騒がしかった。

 夢来ちゃんと目を見合わせ、そちらへと向かう。

 扉を開けると、最初に気になったのはベルトコンベアの稼働音だった。

 ……食事ができたわけでもないのに、どうして動かしてるんだろう。

 しかもみんな、ベルトコンベアの前に集まっている。一体何をしているんだろう。

 気になって近づく。


「あー、出てきた出てきた(´Д`)」


 ベルトコンベアの真ん前で、空澄ちゃんが言った。慎重な手つきで、排出されたをつまみ上げる。


「ふぅん……鏡ねぇ(=_=)」


 空澄ちゃんの先ほどの迫力は鳴りを潜めて、今はつまらなそうな表情を浮かべている。


「――っと、ああ、カナタンとムックも来たんだ。もしかしてコレが気になった?(。´・ω・)?」


 空澄ちゃんが、やって来た私たちに気づく。

 その問いに、私は首を振った。


「ううん……。それ、何?」

「言った通りだよ? 鏡。正確には鏡の破片(´・ω・)」

「鏡の……破片?」


 空澄ちゃんが手に持ったそれを見せてくれる。

 空澄ちゃんが摘まんでいるそれは、板だった。表面は煤で汚れていたけれど、一応は光を反射してピカピカしている。私に向けられると、ちょうど私の顔が映り込んだ。

 なるほど、確かに鏡だ。

 だけどその形は歪で、菱形のような形状をしている。縁もギザギザしていて、簡単に指を切ってしまいそうだ。破片だとしたらそれも頷ける。


「空澄ちゃん……これ、どこで?」

「ベルコトンベアの奥。何か細工があるならここだと思ってベルトコンベア動かしたら、出てきた('ω')」

「ああ……」


 そういえば、爆発の前にそれが話題に上っていた気がする。

 初さんがそれを見つけて、狼花さんを招き寄せて――。


「ほら、ベルトコンベアって直角に曲がってるじゃん? ちょうどその角のとこにあったんだよね。こーやって横になってたけど(;´・ω・)」


 空澄ちゃんは鏡の破片を、ぺたんと倒してテーブルの上に置く。

 入れ替わるように、ベルトコンベアに群がっていた人たちがそれを手に取る。

 空澄ちゃんはその様子には目もくれず、こちらの会話に集中した。


「ま、立てかけてあったのが爆発の衝撃で倒れたって考えれば、一応筋は通るかな?(;´-ω-)?」

「筋って……何の?」

「いやー、こっちの話ぃ(*^^*)」


 空澄ちゃんは、それについて説明をしてくれなかった。


「ところでさー。あーしって事件当時、こっちにいなかったわけじゃん? 何かこっちで変なことってあったりした?(・_・?)」

「変なこと……?」

「あー、いいややっぱ。何があったか、思い出せる限り教えてもらえる?(-ω-)/」

「えっ? えっと……」


 私はところどころ夢来ちゃんに補足されながら、ここであったことを可能な限り話した。

 厨房に行った人たちの声がベルトコンベアの奥から聞こえたこと。

 初さんがそれに気が付いて近くに寄ったこと。

 その初さんが、ベルトコンベアの奥の異物に気が付き、狼花さんを呼び寄せたこと。

 厨房の方から、走り回るような音が聞こえたこと。

 その直後に爆発が起こったこと。

 そして、狼花さんと藍さんが様子を確認しに行って、初さんと香狐さんがそれに続き、最後に私が呼び寄せられ、夢来ちゃんと一緒に食堂に行ったこと。

 全部を話し終えたとき、空澄ちゃんが呟いたのは、


「ふぅん……。ロウカスの席、ベルトコンベアの直線上なんだ」


 そんな、話を聞いていたのか全くわからない一言だった。


・食堂 見取り図

https://kakuyomu.jp/users/aisu1415/news/16816452221409745325


「ま、ありがとね。参考になったかも(*'▽')」

「あ、うん……。あの、こっちも教えてもらえない? 厨房で何があったのか」

「んー、いいけど。その前に一つ頼めない?(・◇・;) 」

「え? な、何?」

「いやー、さっきはロウカスの手前強がっちゃったけどさー。あーしも爆発に巻き込まれてんだよね、これが┐(´д`)┌」


 空澄ちゃんは、煤だらけになった衣服をはたく。……いや。煤だらけという次元でなく、彼女の服はいくらか焦げていた。

 よく見ると、空澄ちゃんは平気そうな顔をしているのが不思議なくらいのやけどを負っていた。

 私自身気が動転していたし、空澄ちゃんが平然としているとはいえ、今まで全く気が付かなかったなんて。


「ぶっちゃけ超痛いんだけど。今回のは治せるよね?」

「た、たぶん……」


 私は空澄ちゃんに近づいて、[外傷治癒]の魔法を使った。

 ――だけど。


「……あれ?」


 手応えがない。どうして? 米子ちゃんには使えたのに?


「えっ、また治せないの?(。´・ω・)?」

「ご、ごめん……っ」

「何? カナタンの魔法って、悪い奴に直接刺されないと使えないとかそういう系? 遠距離攻撃はアウト?(・_・?)」

「い、いや、そうじゃないはずだけど……」

「なら、なんで発動しないの?(ー_ー?)」

「そ、それは……。わからない、けど」

「んー、ならしょうがないなぁ"(-""-)"」


 空澄ちゃんはどこか――誰もいない空間に向かって、その名前を呼んだ。


「おーい、ワンワン? 聞いてるよねー?(* ̄o ̄)ゝ」

『はーい、なんでしょーか!』


 呼びかけに即応して現れたのは、もちろんワンダーだった。

 またテンションの高い踊りを披露しながらの登場で、それが私の神経を逆撫でする。

 そんな気持ちの私を他所に、空澄ちゃんはワンダーとのやり取りを始める。


「カナタン、あーしに魔法使うの渋ったりしてないよね?(´Д`)」

『えっ!? 頭ピンクちゃん、そんな悪い子だったの!? ――って茶化したいところだけど、魔法に関してボクは誤魔化しちゃいけない立場だからね、うん。ボクがちゃんと教えてあげないと、みんな魔法に関していくらでも嘘がつき放題だからね。それじゃあ推理にならないし、ボクが親切に教えてあげるのだ。というわけで答えてあげるけど、そこの頭ピンクちゃんは、キミの傷を治したくても治せない、悲しい立場に置かれているんだ……っ。よよよ、報われないって、悲しいねぇ……』


 ワンダーが見せかけだけの悲しさを表現する。


「ふーん。ちなみに、なんで治せないのか、って聞いていいの?(?´・ω・`)」

『いやー、それはナシだねー。答えを教えてください、って言ってるようなものだからね。もっと具体的に絞り込んだら答えてあげるよ』

「具体的、ねぇ。それじゃあ聞くけど。悪意を持った人の行動で傷つけられたら、この魔法で治せるんだよね? じゃあ、直接悪意を向けられてない――例えば無差別攻撃とか、二次被害だったらどうなるの?(・・。)」

『むむっ、なかなか鋭い。けど、そういうのは全部治せるね。うん。結局、その人が悪意を持ってるのは確かだし、行動を起こしたのも確かだからね』


 ワンダーはあっさり答える。

 ――どうして、魔法の持ち主である私も知らないようなことさえ知っているんだろう。


『でも、二次被害っていうのはなかなかいいトコ突いてたよ、うん。やっぱキミは頭いいねぇ。このゲームの主人公は、キミだったりするのかな?』

「あー、そういうのいいから。うーん、二次被害ぃ? これ以上はわかりそうにないかな……(#-∀-)」

『そっか。じゃあ、また何かあったら呼んでね。それじゃ――』


 ワンダーが空澄ちゃんに背を向ける。

 それを、空澄ちゃんがひっ掴んだ。


「あ、待った。本題がまだなんだけど(~_~)」

『ん? 本題? 何?』

「いやー、ほら、これ見てよ。煤だらけじゃん?(´Д`)」

『うん。まあ、そうだね』

「あーしも爆発巻き込まれてさー、すっごい痛いんだよね、ぶっちゃけ(>_<)」

『……それがどうかしたの?』


 ワンダーが首を傾げる。

 表情の変化なんて見えないのに、その様子は何故か、これから起こることをなんとなく予見して恐れているように見えた。


「いやー、このままだとまともに頭働く気しないなー。このゲームの主人公(仮)が全く活躍しないまま事件が終わっちゃうなー。もしかしたら誰も【真相】に辿り着く糸口すら見つけられなくて、滅茶苦茶つまんないまま終わっちゃうかもなー( ;∀;)」

『ええっ!? そ、そんなぁ。こ、困るよ……。なんとか頑張ってもらえない?』

「ケガが治ればなんとかなるかもしれないんだけどなー。あー、どこかにケガを一瞬で治す薬でも持った素晴らしい魔王様がいらっしゃったりしないかなー|д゚)」

『ぬぐぐ……。ええい、もってけドロボー!』


 ワンダーが何か、小さい瓶のようなものを投げる。中には、赤い液体が少量入っていた。

 空澄ちゃんがそれを綺麗にキャッチする。


『人魚ちゃんの血だよ! それを飲めば傷くらい簡単に治るから! でも薄めてあるし、不老不死にはなれないからね!』

「はーい。ところで、マユミンもケガしてたんだけどさー(;'∀')」

『あっ、嫌な予感(察し)』

「いやー、マユミンも痛い思いしてると思うと、これ譲ってあげたくなっちゃうなー。そうなるとあーしの分がなくなっちゃうなー。でも、マユミンのためならしょうがないかなー(+o+)」

『ちきしょー! も一本もってけーっ!』


 ワンダーはもう一本投げた。

 空澄ちゃんはそれを、当たり前のように受け取った。


「はーい、ありがとねー(*'▽')」

『ふんっ、だ! もう用はないでしょ!? ボクはもう行くからね!』


 ワンダーは肩を怒らせながら、厨房から去っていった。

 それを見送ってから、空澄ちゃんは瓶の中身を一本分飲み干す。

 毒を警戒するとか、そんな様子は全くなかった。


「おー、ほんとに治った(*'ω'*)」


 傍目にはあまりわからないけれど、空澄ちゃんは自分の体をあちこち触って、傷が治ったことを確かめていた。


「いやー、とりあえずなんとかなったよーヾ(@⌒ー⌒@)ノ」


 空澄ちゃんは私に向き直って言った。


「で、何だっけ? 厨房の様子が知りたかったんだっけ?(。´・ω・)?」

「あ、うん……」

「いいよー、教えてあげる。傷は治してもらえなかったけど、まあ、あーしも食堂の様子教えてもらったしねー。これでおあいこってことで('ω') あ、マユミンに薬届けながら話してもいい?(o゜ー゜o)?」

「う、うん。もちろん」

「りょ('◇')ゞ」


 ――そうして、空澄ちゃんは事件直前の厨房の様子について、語り始めた。

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