第86話 スーパーマン
「な、なんでそれを私に?」
動揺しつつも彩は佐藤に聞いた。
「それ答えたら二人に意味バレるだろ。」
「…。」
「えー、知りたい知りたい♡もしかして先輩、愛の言葉を送ったんですか?」
「さぁなぁ?知りたきゃググれ♪」
ヴァイオレットフィズは、”私を覚えていて”という意味がある。このタイミングでこの言葉を選んだのは、一体なぜだろう。彩はアルコールが回りつつある頭で考えた。そして、納涼祭の時に佐藤に言われた言葉を思い出す。
”辛い時は辛いって言え”
(…困った時は頼れってことか。)
佐藤は優しい。誰に対しても。自分に対しても、皆と等しく優しくしてくれているのだろう。それが、彩には不満だった。
「…佐藤さんは、いつも誰にでも優しいですよね。八方美人。」
「お、なんだ?絡み酒か?」
「論点ずらさないでくださいよ。」
ピシャリと言ったその言葉で場が静まり返った。
「…坂並、今日は楽しく飲もうや?俺への不満なら個別で聞いてやるから。」
「今答えてください!!」
止めようとしても止まれなかった。
「いつもいつも誰かの人助けして。ずるいですよ、誰にでも良い顔するなんて。」
「あ、彩ちゃん…?」
「スーパーマンがしたいなら私になんか構わないでください!私は望んでない!」
気づけば目には涙が溜まっていた。自分が思っている以上に悪酔いしているようだった。
「なによ、ヴェイオレットフィズとか言って。気取ってんな!」
「お、お前がカクテル言葉なんか言えって言うからだろ?俺なりに考えて言ったんだからな。」
「他に言葉あったでしょうよ!」
「お前はシャーリーテンプル(用心深い)なんだよ!」
「五月蝿い、バカ!もうカクテル言葉使うな!」
カクテル言葉をきっかけに彩と佐藤は言い争いになってしまった。
「彩ちゃん、落ち着いて。先輩もどうどう…。」
美鈴は二人を宥めながら山下に助けを視線で求めた。
「要するに、彩さんはヤキモチ妬いてるんですね。」
山下はやや大きめに言った。三人の動きが止まった。
「…私が、先輩にヤキモチ?」
思ってもみなかった言葉が出てきたので彩は驚いた。今まで過去の恋人に囚われていた自分が、他人に好意を抱いているなんて考えもしなかった。
「…なんだ、ヤキモチ妬いてたのか?お前にしては可愛いとこあるじゃないの。」
「なっ、違うから!絶対違う!!」
「分かった分かった。俺が悪かった、すまん。」
「山下さんもバカなこと言わないでっ!」
「すみません。」
「まぁまぁ。とりあえず、楽しく飲み直そ?ご近所さんにも迷惑になるから、彩ちゃんはもう怒鳴るの禁止ね。」
「ぁ、ごめん…。」
気まずい雰囲気が流れたが、佐藤が新しく日本酒を取り出した。
「じゃ~ん!陽乃鳥 (ひのとり)!これうめーんだわ!皆で飲もうぜ。高田も、1杯くらいなら大丈夫だろ?」
「1杯だけですよ〜?」
「ふん、一口飲んだらきっともっと飲みたくなるぞ(笑)」
「酔っ払ったら結希くんに介抱してもらおうかな〜」
「え?もう酔ってるでしょ?」
「えへへぇ。」
まさしく日が射したように明るい空気に変わった。彩は、佐藤の能力に改めて感心しつつ、山下の言葉が胸に引っかかっていた。
(…ヤキモチ。)
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