第81話 打診

「…とまぁそんな感じで情報が入りましたのよ?」

 美鈴は彩の過去を詳しく話したことには触れずに、山下が彩の様子を見てヤキモチを妬いて家まで来たという話でまとめ、お昼のチキン南蛮を頬張りながら言った。

「惚気部分は要らなかったけど、目撃者が山下さんで良かったよ。」

「先輩だったらまずかった?」

「……。」

 彩は質問には応えずにボロネーゼを見つめた。美鈴はその様子を見て話題を変える。

「…それにしても、彼氏候補にしては随分彩ちゃんの好みから大きく外れてるんじゃないの?”マイルドなイケメン”って。」

「そんなことないよ、德永さんは彼氏候補にしてもいいくらいの器量を持ってる。…何様って話だけど。」

「德永さん?…って、前に仕事一緒にしたことある人だよね?」

「そう。彼、話も合うしいい人よ。」

「ふぅん…。」

 無理をして話している様子が見て取れないので、美鈴はひとまずそこで話を終えることにした。

「ま、あとは家で詳しく話してもらいます!彩ちゃんと宅飲み久々だから楽しみ〜♬」

「とか言って、ほんとはただ一緒に飲みたいだけじゃないの〜?」

「それもある♡」

 その後は他愛の無い話をしながら昼の休憩を楽しんだ。


***


 彩は食事の後に美鈴と別れ、化粧を直しにトイレに入った。

(…”先輩だったらまずかった?”か。)

 美鈴の言葉を思い出した。確かに、何故か佐藤にはバレて欲しくないと思っている自分が居る。そしてあの日德永が彩に覆いかぶさる瞬間、頭に浮かんだ人物も佐藤だった。だが彩自身それが何故か分かっていなかった。

 口紅を塗りながら、彩は自問自答を繰り返す。

(佐藤さんが好き?否そんな訳ない。そもそも、好きって感情がどんなだったか忘れちゃった。好きになったら、どうなるんだっけ。)

 鏡を見つめながら必死に思い出そうとするが、誠の事を思い出し辛くなるだけだった。

(誠。どうして死んじゃったの…。)

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