第77話 アキダクト
彩は德永がトイレに入ったのを確認してから、恐る恐るガラス張りの脱衣所に入った。シンクには豊富なアメニティがあった。普通のホテルにもあるような歯ブラシの他に化粧水、乳液。他には…、セクシャルなアメニティ。
「……。」
いくら酔っていたとはいえ、彩は自分が信じられなかった。
(なんで私、あんな事…。)
ヤケが回ったのかもしれない。とにかくまだ残っているアルコールを早く体から追い出さなければ。
彩はお湯の温度を熱めに設定し、頭からシャワーを被った。
(これからどう話を持っていこう…。頼むにしても、見返りを求められたら結局
考えても良い案が思い浮かばず、結局「
コンコン。
彩はトイレの扉をノックした。静かに扉が開き、德永が申し訳無さそうに顔を出した。
「えっと…すみません。その、この場所を選んだのは普通のホテルより安いからで、それで…えっと。」
しどろもどろになる德永を見たら、警戒していた自分が馬鹿らしくなった。
「そもそも私が酔っ払ってしまったのが悪いんです。…変なこと言ってすみませんでした。…お望みなら、お詫びとしてお相手します。」
「いやいやいやいやいや!!そ、そんな気使わなくて大丈夫だから!!…ていうか、敬語やめません?今更だけど。」
トイレの前で顔を見合わせ、二人は笑った。
「あはははっ!ほんと、酔っ払ってるときも律儀に敬語使って。私ったら馬鹿みたい。」
「ほんとだよ。酔っ払ってても”鉄の女”なんだから。」
「なにそれ。」
「そのまんまの意味。ずーっと強がってさ。酔わないと言えないんですぅって泣いてたのが本来丁度良いくらいだよ。」
彩はBARでのやり取りを思い出し、顔が熱くなった。
「あ、あれはちょっと弱ってたっていうか…!っていうか、ビトウィーン・ザ・シーツは本音でしょ?出会った頃からたらしだったんだから!」
「今は違う。」
德永は真面目な顔で彩を見つめた。そんな彼に、彩は面食らった。
「その、昔は確かに女ったらしだったよ。でも、彩さんと出会ってから変わったんだ。…少しだけね。」
今の状態を振り返り、申し訳無さそうに一言加えた。
「あの言葉は確かに本気だよ。彩さんの核心に触れないまま帰りたくなかったんだ。だから、そういう意味で、もう少しだけ夜を一緒に過ごしたかった。」
「……。」
彩は、德永に連絡をする前に考えていたことを思い出していた。
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