第72話 佐藤の決意

「ほ、本気で言ってます…?」

 美鈴は空いた口が塞がらなかった。

「俺はいつでも本気だぞ?」

 佐藤は不敵な笑みを浮かべながら顎をしゃくった。

「でも先輩、彩ちゃんの心を弄ぶような事だけは…。」

「大丈夫、そんな事はしない。付き合えたらちゃんとする。冗談抜きだ。」

 カラッと笑う佐藤を見て安心するも、美鈴はどうしても引っかかった。

「…でも、先輩の気持ちはどうなるんですか?」

「男ってのは追いかけるのが好きでね。俺も、好きにならないと告白はしないからそこは安心しろ。」

「て事は…?」

「今日から俺は本気で坂並を好きになる!んで、坂並を惚れさせる!付き合う!…て事!」

 両腰に手を当てて豪快に笑う姿は、まるでヒーローの様だった。


***


 彩は、先程の美鈴の言動で内心動揺していた。

(佐藤さんに?否いくら面倒見が良いからってこんなことまでは頼めない。)

 気を取り直して女子トイレに入る。個室に入り、スマホを開く。

(えぇと、スキャンしておいた連絡先…)

 仕事で頂いた名刺はすべてスマホに落とし込んである。その中で仕事にも支障をきたさず、かつお付き合いできる男性を探した。

 彩がスマホとにらめっこしていると、女性社員たち数人の話し声が聞こえた。


「この間の佐藤さん、いつにもましてカッコよかったよね!」

「うんうん、世話焼きっぷりもすごい頼れる感じだったし、益々憧れちゃうなぁ〜。」

「彼女とか居るのかな?」

「高田さんとか?」

「えー、でも高田さんは納涼祭の時彼氏っぽい人と居たよ?」

「そうなの!?…カッコよかった?」

「うん、高身長でスラッとした爽やかな感じの人だったよ!」

「美男は美女を、美女は美男を選ぶのかぁ…。」

「いやいや、例外もあるって!きっと!」

「じゃー私佐藤さんにアタックしてみよっかな?」

「えー、じゃあ私もアピールするぅ〜。」

「恨みっこなしね。」

「二人とも振られたら飲みに行こうね…。」


「……。」

 彼女たちの話を聞いていると、益々佐藤に頼むのは忍びなくなってしまった。彩は、引き続き連絡先を漁った。

(…あった。)

 暫く格闘した後、一人の男性の名前が見つかった。

(この人に頼もう。前に仕事で一緒になったとき親切な人だったし。)

 彩は意を決してトイレを跡にした。

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