第70話 今までの関係

 月曜日、美鈴は地に足が付かない自分を抑えながら出社していた。

「おはようごザマス!」

「(ござます…?)おはよう。今日も高田は元気だな。」

「そ、そんなことはのうごザンス!」

「美鈴。」

 相変わらず佐藤に変な日本語で返答していると、横から彩に話しかけられた。


バチィッ


「いっっっt…!?」

 声のする方に振り向いたと同時に強烈なデコピンを食らった。

「正気に戻った?」

「ありがとう…流石だね彩ちゃんは。」

 涙目になりつつも、痛みで現実に戻れたことに感謝する。

「ははは!坂並も相変わらずだなぁ。」

「…別に。」

 彩は佐藤と目線を合わせずに自分のデスクに戻ってしまった。佐藤と美鈴は顔を見合わせ、頭にクエスチョンマークを出した。

「俺なんか変なこと言ったか…?」

「イイエ…?」


 昼になり、いつも通り美鈴と彩は社員食堂で食券を買っていた。

「ねぇねぇ、彩ちゃん。今日はどうしたの?」

「何が?」

「佐藤先輩と目合わせようとしてなかったじゃん。先輩、自分が何かしたんじゃないかって気にしてたよ〜。」

「別に何も無いよ。意識的に避けてるわけじゃないし、たまたまそうなっただけじゃないの。」

「…ふ〜ん?」

 彩は自分の事を話したがらない。聞いても話をはぐらかす時は、これ以上聞いても無駄ということを美鈴は知っている。

「あんたの方こそ、今日はどうしたのさ。朝から浮ついちゃって。」

「えへへぇ〜?そぉ〜?」

「きも。」

「彩ちゃん辛辣過ぎるぅ…。」

「あの後お持ち帰りでもされた?」

「逆。」

「は!?」

 思わぬ返事に彩はフォークに挿していたサラダのパプリカを落としてしまった。

「てへ☆」

「…まぁ、彼氏いかにも草食って感じだから自然な流れっちゃそうなのか…。それにしてもついに一線超えたかぁ〜、おめでとう。」

「えへへ、ありがとう。でも結希くんは草食じゃないよ。」

「……なんか胸焼けしてきた。」

 げんなりしながら彩はフォークを置いた。

「まぁ…、あの夜から今までの関係じゃなくなったってことだね。前に進めて何よりだよ。」

「そだね、今までよりもーっと仲良くなった♡」

「も、もうその辺にして…私もうお腹いっぱい。」

 ニコニコしていた美鈴はふと冷静になり、疑問を投げかけた。

「…彩ちゃんは?」

「何が。」

「彼氏候補、見つかった?」

「…いいや。」

「うーん、でもそろそろヤバい・・・・・・・んじゃない?期限迫ってるでしょ?」

 美鈴の言葉に彩は頭を抱えた。

「そんな事言ったって、親が納得するだけのスペックの持ち主なんてそう簡単に居ないんだから仕方ないじゃん…。」

「いざとなったら結希くん貸そっか?事情話したら絶対協力してくれるよ!」

「ありがたいけど親友の彼氏巻き込みたくないし、失礼だけど彼の性格じゃうちの親は納得させられない。」

「性格まで!?」

「うちの親細かいんだよね…古臭いっていうか。ステータスだけじゃなくて、中身も男はこうじゃないと!みたいな理想像が強すぎて大抵の男は門前払い…。」

 頭を垂れ、深くため息をつく彩。美鈴は親友に何かしてあげられないか必死に考えていると、視線の先に丁度両親のお眼鏡にかなう相手が居た。

「先輩だ!!」

 美鈴はひと目もはばからず勢いよく立ち上がり、佐藤を指差した。

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