第68話 鼓動
「美鈴が初めての彼女だよ。」
彼女は彼の言葉に驚いた。
(嘘、そんな素振り全然…。)
「結希くんみたいなスマートなイケボ、女の子が放っておく訳無いじゃん!」
「出会った頃のことよく思い出してみてよ。俺、どんなだった?」
山下に促され、出会った頃の彼の姿を思い出す。まるで背が高いことを隠すように猫背で、無造作に降ろされた髪で俯き加減の彼は、常に自信が無さ気だった。
「…美鈴が、俺を変えてくれたんだよ。美鈴のお陰で、自分を好きになれた。」
「結希くん…。」
「初めてなんだ、恋をしたのも。」
「え!?」
「…重く捉えられるのも嫌だったし、今まで言わなかった。」
山下は美鈴を見つめたまま続ける。
「俺が知ってる女性は、美鈴だけだよ。」
美鈴は彼の真剣な言葉に顔が熱くなった。
「…っ、あ、ありがとう。初めての彼女にしてくれて…。」
「…嫌じゃない?」
「とんでもない!…すっごく、嬉しい。」
酔いはとっくに覚めているはずなのに、頬が赤く、潤んだ瞳で切なげにはにかむ彼女が愛おしく、山下は美鈴に覆い被さりキスをした。
「…好き。」
唇を離して呟くと、彼女は更に目を潤ませた。触れて分かったが、美鈴の身体は熱を持っていた。
「……。」
もう我慢できる自信が無い。山下は続けて唇を重ねた。ハーフパンツで露わになった互いの脚が絡むように触れる…。
「…っ、ダメダメダメ!!!!」
弾かれたようにベッドから飛び出す山下。
「ご、ごめんっ、美鈴はそんなつもり無いって言ってたのに俺…っ。」
折角受け入れてくれた彼女との関係を壊したくない、その気持が彼を思いとどまらせた。
「…結希くん。」
美鈴の言葉にギュッと目を瞑る山下。
「…確かに最初はそうだったけど、その…、今は……。」
恐る恐る振り返ると、先程よりも顔を赤く染めた彼女が胸の前で指を組んでいた。
「い、嫌じゃ、ない、…よ?」
恥ずかしいのを精一杯我慢して、美鈴はこの先を望んでいることをそれとなく伝えた。
「い、いいの…?」
彼女は小さく頷いた。山下はゆっくり美鈴の肌に触れた。
「…っ。」
「そ、その、嫌だったら遠慮なく言っていいからね?直ぐに辞めるから…。」
「〜、もうっ、良いって言ってるでしょ!」
美鈴は痺れを切らして山下の首の後ろに腕を回し、自分に力いっぱい引き寄せた。
「!?…み、美鈴?」
「あんまり遠慮しないでっ!逆に焦らされてるみたいで恥ずかしい…っ。」
確かに彼女の鼓動は先程より早い気がする。山下は、今日は滝行をせずに自分の欲望のまま動くことにした。
「…ごめん。美味しいものは取っとく派だからさ。」
耳元で不意に囁かれた美鈴は増々鼓動を早めた。
「…ほんと、結希くんはイケボの使い方をわきまえてるよね。」
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