第67話 初めて

 彼女のシャワーを待つ間、山下は全く休めずに居た。

(美鈴は何を思って俺を招いたんだろう。…やっぱりそういう・・・・事?いやそんな肉食な子にも思えないし…。)

 自分の願望と俯瞰的思考が渦巻く中、時間はあっという間に過ぎた。

「ふぅ〜、さっぱりしたぁ♪」

 いつの間にかシャワーから上がり、冷蔵庫から麦茶を取り出している美鈴が居た。

「結希くんもどうぞ。」

「ありがとう…。」

 差し出された麦茶を受け取りつつ、彼女を見る。同じシャンプーとボディーソープを使っているのに、どうして香りは彼女の方が甘く感じられるのか。自分の着ている物と揃えられたデザインのパジャマから、細いが柔らかそうな太ももが半分以上見えている。


ゴクリ。


 山下は、生唾を麦茶で流し込んだ。

(…余計なところは見るな。自分が抑えられなくなるぞ。)

 ギュッと目を瞑り、自分に強く言い聞かせる。

「結希くん…大丈夫?」

「えっ?何が?」

 思っても居ない声掛けにパッと目を開ける。そこには眉を寄せ、心配そうな美鈴の顔が間近にあった。

(!!)

「うちに来てから上の空っていうか、なんか元気ない気がして。…もしかして気分悪い?吐きそうなら我慢しなくていいからね?」

「だ、大丈夫だって!!俺全然酔ってないから!大丈夫!!!」

 元気を表すために座ったままブンブンを腕を振るが、逆にそれが心配にさせたようだった。

「…いつもと違う。やっぱり変だよ。」

 美鈴はシャワーで酔いが覚めたのか、素面しらふの顔で心配している。山下は申し訳なくて白状した。

「…その、まさか家に呼ばれると思って無くて。だって、この間俺のその…、変態な部分知っちゃったわけじゃん?だから、なんで呼んだのかなって。…お、俺も男だし、期待してしまうというか…。」

 なるべく美鈴の身体を見ないようにして自分の気持ちを伝える。

「あー…ぅん。そうだよね。変に考えさせちゃうよね、私の行動…。」

 美鈴は申し訳無さそうに下を向く。

「私ね?結希くんの部屋にお泊り出来たの嬉しくって。服も貸してくれた時、もっと嬉しくって。結希くんもそうだったらいいなって思って、お泊りセット用意したの。でもシチュエーションによっては確かにそう・・思わせてしまっても仕方ないよね…。彩ちゃんに、考えが足らないってよく言われるの。…今日も足りなかった。ごめんなさい…。」

 つまり、美鈴はそんなつもりで招いたのではなかったのだ。山下の期待はしぼんでしまったが、彼女の純粋な厚意は嬉しかった。

「そ、そんなに謝らないで。俺も嬉しかったよ?専用のパジャマ用意されてるの。それに、初めて美鈴の部屋に来たのだって嬉しい。…その、余計なは出てくるけど(笑)。」

 二人は顔を見合わせ笑った。

「…寝よっか!」

「そだね。俺は脳内で滝に打たれとくよ。」

 山下の言葉に笑いながらベッドに入る美鈴。

「あはは!滝行はデフォルトなの?笑」

「そうだねぇ、清められる感じするし。」

「…前の彼女の時にも滝行してたの?」

 自分もベッドに入ろうとした山下は、彼女の言葉に動きが止まった。

「え?美鈴が初めての彼女だよ。」

「えっ!?」

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