第66話 お揃い
美鈴と山下は同じタクシーに乗り、彼女のアパートに向かっていた。
「あ、次の交差点左に曲がって最初のアパートで降ろしてくださぁい。」
酔っていても自分でしっかりルートを運転手に伝える美鈴に安心した山下だった。
「ーあ、はい。ここで。ありがとうございますぅ。」
料金を払おうとしている美鈴を山下が止める。
「俺このまま乗って帰るからお金はいいよ。」
「え?」
美鈴がきょとんとする。
「泊まらないの?」
「え!?」
お互い見つめ合ったまま固まってしまった。運転手は煮え切らない彼氏に助け舟を渡す。
「さっさと降りるか降りるか降りるか決めて貰えませんかね?」
(降りるしか選択肢ない…。)
タクシーから降り、2人で美鈴の部屋に向かう。
山下は内心穏やかじゃなかった。数日前に自分の性癖がバレ、間違いが起きようとしていた事も知っていて彼女は自分を部屋に招いている。
(これは、
千鳥足の彼女を支えつつ悶々とする山下だったが、そんな彼の思考など美鈴に伝わる訳もなく。呑気に「あがってあがって〜♪」と手招きするのだった。
「…お邪魔します。」
なるべく平静を装って部屋に入るも、彼女の香りで一杯のこの空間に山下は別の意味で酔いそうだった。
(やばい…こんなの冷静になれる訳ない。俺だってアルコール入ってるし理性が…!)
「あ、先シャワーどうぞぉ?着替えも用意しておくよ♡」
そう言って微笑んだ彼女は酔いのせいか頬が赤く、目も潤んでいていつにも増して可愛く見えた。
「あ…ありがとう。お言葉に甘えて行ってきます。」
(シャワー!!!!おいおいおい、本当に?本当に!?)
浴室に入った山下は動揺をかき消すように頭をガシガシ洗った。
(落ち着け。美鈴の事だ、俺がシャワーから戻ったら寝落ちしてて、そのまま朝ってことも考えられる。寧ろそれが1番それっぽい!)
そう思いつつも一応念入りに体を洗う山下だった。
脱衣場に戻ると、タオルと新しい下着、そして男性用のパジャマが用意されていた。
(わざわざ用意してくれた…!?…や、パンツはともかくパジャマは元彼の説あるな。)
美鈴は可愛い。見た目だけじゃなく、仕草も、言動も。モテないわけが無い。過去に付き合っていた事も幾度となくあっただろう。そう考えると、山下は先程まで浮き足立っていた自分が急に惨めに思えて来た。
部屋に戻ると意外にも美鈴は起きており、山下のパジャマ姿を見て喜んだ。
「わぁ、ピッタリ♡買ってよかったぁ♪♪」
「下着までありがとう。…パジャマわざわざ買ってくれたの?」
元彼のお下がりでないことに安心した山下だったが、次に続く美鈴の言葉は想像を超えていた。
「うん!お揃いの…、欲しくて。」
アルコールで赤くなっていた頬を更に赤く染めて彼女は答えた。
「お揃い…?」
「えと、次私シャワー行ってくるね!適当に休んでて〜!」
酔ったまま慌てて移動したからか、テーブルに足をぶつけつつ美鈴は足早に浴室に行ってしまった。
「…お揃いのパジャマ。」
山下は自分のサイズにピッタリの服を見た。そして先程の暗い感情は、杞憂だった事に安心した。
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