第65話 波乱の納涼祭4

(押しの強い女は苦手だ。どう断っても食い下がってくる…。)

 佐藤が困っていると、ツカツカと誰かがこちらに向かってくる。

「おー肉食女子ぃ、頑張ってるぅ〜?」

 酔っ払った彩が勢いよく女性社員に絡む。

「なっ、なんですかあなた!?」

「坂並!?」

「食堂でも声高らかに言ってたもんなぁ〜?将来有望だから狙ってるって♪」

「えっ、ちょっと…」

 いつぞやの会話を聞かれていた事を知り焦る肉食女子。

「そ、それだけじゃないですよ!?佐藤さんのその優しいところとかぁ、」

「あと顔だろぉ〜?顔が良いって言ってたじゃぁん。あんた面食いなんだって?」

「ちょっと!さっきから何なんですかあなたは!?」

 自分に不利なことばかり暴露されて怒る肉食女子だが、佐藤は彩を庇った。

「悪い、こいつ酔うと誰彼構わず絡んじまうんだわ。だからもう帰んな。な?」

「…っ、お疲れさまでしたっ!」

 肉食女子は唇を噛みながら踵を返し、早足で帰っていった。

「…坂並、お前酔ってないだろ。」

「スーパーマンが困ってたんで?余計なことかと思いつつ顔突っ込んでみました。」

 ふいっと佐藤から離れる彩。

「…あとチャラ男の件、ありがとうございました。」

「ん?なんのことだ?」

「…嘘ヘッタクソ。」

 彩がため息を吐いたと同時に、遠くから実行委員が「こっち終わりましたー!」と声をかけてきた。

「ありがとうー!あとやっとくからもう帰っていいぞー!」

 佐藤は実行委員たちに声をかけ、ゴミを運びだした。

「…手伝います。」

 彩もゴミ袋を持って佐藤に着いていった。

「お前も帰れよ。実行委員でも無いのにここまでしてくれなくても良いんだぞ?」

「……。」

「どうした?俺が心配か?さっきみたいに出待ちに絡まれないかって。」 

 冗談のつもりで佐藤は言ったのだが、彩から反応はなかった。

「…今日のお前なんか変だぞ?」

「…話、聞こえてました?」

「は?」

 彩は立ち止まって俯いたまま言い直した。

「チャラ男が話してたこと、聞こえてましたか?」

「…いや?周り煩かったし内容は聞こえてない。でも、お前が困った顔してたか……っ!」

 良いかけて慌てて佐藤は口をつぐんだ。

「い、今のは違う!らしくないお前が見えたからバランス崩して!!」

「ふっ、あんまり意味変わってないですよ。」

「〜〜〜っ。」

 口をへの字にしながらゴミを冊の中に放り投げる佐藤。

「…お前も女なんだから、守ってもらうことに抵抗するなよ。あとわざと強がったりするな。…辛い時は辛いって言え。」

 佐藤は彩に背を向けたままそう言い、暫く黙ってから「帰るぞ!」と一言だけ言って大股で歩いていった。

「…流石スーパーマンは言うことも男前だね。」

「早く来いよ、戸締まりすんぞ!」

 遠くで振り返り、彩を手招きする。彩はきゅっと口を結び、佐藤の元へ駆けていった。

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