第64話 波乱の納涼祭3

「彩ちゃーん!」

 美鈴は先程の席から離れて一人ビールを飲む彩に声をかけた。

「おー。彼氏間に合ったか。」

「はじめまして、美鈴とお付き合いさせてもらってる山下結希と言います。」

 山下は丁寧に挨拶したが、彩は珍しく酔っており適当に返した。

「堅苦しい挨拶はよしなよー。美鈴から聞いてるよ。私は彩。これからも美鈴をよろしく。」

「彩ちゃん、さっき大丈夫だった?」

「何がー?」

 美鈴はさっき見た光景を思い出す。

「男の人にビールぶっかけてたじゃん。何かされたの?」

「ビールぶっかけ…!?」

 美鈴の友達がそういう事する人だということに驚きを隠せない山下だが、それに慣れている素振りを見せる美鈴にも驚いた。

「あぁー、あれ私じゃないよ。佐藤さんがやらかしたの。」

「佐藤さんが?」

「あぁ、山下さんは面識あるんだっけ。佐藤さん、幹事だからおえらいさんにビール運んでたんだとさ。んでたまたま近くでバランス崩してチャラ男にかかったって訳。」

 対して気に留める様子もなく他人事のように語る彩に違和感を覚えたが、山下は話を続けた。

「偶然とはいえ、ラッキーでしたね。その様子だと彩さんはビールかかってないんでしょう?」

「あー…そういえばそうだね。…ほんとだ。」

 今気づいた、と彩は自分の服を見た。

「兎に角彩ちゃんが無事で良かったよぉ〜!」

 自分も怖い目に遭っておきながら心配して抱きしめてくれるうさぎのような親友に癒やされながら、彩は先程の出来事を振り返った。

(…あの人、ほんとおせっかいなんだから。)


 その後は美鈴と山下のお惚気エピソードを肴に彩が大酒を飲んだり、美鈴が彩の武勇伝を山下に語って驚かせたりと楽しい時間を過ごした。

 お開きの時間になり、美鈴は山下に連れられタクシーに乗って帰っていった。彩は二人を見送ると引き返し、片付けをしている実行委員の手伝いをしに戻った。

「あれっ、坂並さん実行委員でしたっけ?」

 椅子を重ねていると、机を畳んでいる社員が首を傾げる。

「いや、ちょっと酔い冷ましにね。楽しませてもらったし、これくらいさせてよ。」

「助かります。何せ今回の納涼祭は悪酔いする輩が多くって。場所関係なく吐き散らしたり喧嘩したりで大変だったんですよ…。」

 飲みの席というのはどうしても数人は潰れるものだ。実行委員も大変だな、と彩は同情した。

「でも佐藤さんが居てくれたお陰で色々早く片付いて。あの人ほんとすごい人ですよ。」

「…ほんとにね。私も今日はあの人に助けられたよ。」

「ほんとですか!?いやー、佐藤さんスーパーマンみたいっすね(笑)。」

 他愛ない会話をしながら片付けをしていると、視界の端に二人の男女が見えた。


「佐藤さん、納涼祭の幹事お疲れさまでした!」

「え、あー、ありがとう。でもまだ片付けが残ってるんだ。」

「今日ずっと見てたんですけど、佐藤さん頑張りすぎです。後は実行委員の方に任せて休みましょうよ。言ったら皆さん分かってくれますって♪」

 佐藤はおそらく話したことの無いであろう女性社員に言い寄られ、どう返したら良いか分からないでいた。

「いや、でも責任者だから最後まではちゃんと居ないとだから…。」

「じゃあ片付けが終わるまで休憩しましょうよ。」

「いやー、それはちょっと…。」

 手を握ってきた女性はおそらくこの後何処かへ行きたいと言うのだろう。佐藤はこの手の女性が苦手だった。

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