第61話 夏、

 梅雨が開けてカラッとした暑さが続く季節に変わり、一二三商事の社員は色めき立っていた。


「そろそろ納涼祭の時期だね〜!」

「今回の幹事って誰だっけ?」

「確か営業一課の佐藤さんじゃなかった?」

「あぁ〜、佐藤さん!あの人ならいい感じにしてくれそう!」

「ねー。それに格好良いしさぁ。将来有望だし、私密かに狙ってるんだよねぇ〜♪」

「まみってば肉食〜。でも佐藤さん確かに素敵な人だよねぇ。爽やかだし。」

「ちょっと、私が狙ってるんだからね?抜け駆けしないでよー?」

「はいはい。ほんとあんた面食いだよねぇ〜(笑)」


 おそらく事務の子であろう子たちがキャッキャはしゃぎながら話している。美鈴は彩と食券を買ってその子達の横を通り抜ける。

「流石佐藤先輩、モテるねぇ〜。」

「そのモテ男をフッたのはあんただけどね?」

「ゔっ…心が痛い…。」

「まぁでも彼氏とうまくいってるみたいで良かったじゃん。呼ぶの?納涼祭。」

「うん、彼氏ってのを引いても大事な取引先だしね。呼んでも不自然じゃないと思う。」

 冷やし中華を受け取りながら美鈴はウキウキしていた。

「はしゃぎすぎてハメ外しすぎないようにね?」

 珍しく美鈴と同じメニューを受け取る彩。

「結希くんが居るからだいじょーぶ♡」

 顔の横で丸を作る美鈴。

(…色めきだってるのは女だけじゃないっての。)

 小さくため息を吐き、彩は背後の男性陣の会話を盗み聞きする。


「今年の夏こそ彼女作る…!」

「お前彼女居ない歴=年齢だもんな。頑張れ。」

「そういうお前はどうなんだよ?」

「俺は彼女居るし。」

「かーっ、非童貞は余裕が違いますなっ!」

「うるせーよ。んで、鈴木お前は?」

「俺?俺は…高田ちゃん狙いかな。」

「はぁ!?お前レベル高すぎだろ。」

「わっかんねーだろ!?ああいうモテる子に限って素朴な男を選んだりするんだよ。」

「あ、自分が素朴だって自覚あるんだな。」


(…ほらね。)

 彩は目だけ移動させて美鈴を見た。

「…あんた、警戒心なさすぎるのどうにかしなさいよ。」

「ふぇ?」

 麺をすすっている途中に言われたものだから、美鈴は思わずそのまま声を出してしまった。

「…可愛すぎ。」

 彩は眉を下げて親友を見た。


***


「今度うちの会社で納涼祭があるんだけど、結希くんも来ない?」

 帰宅後、早速電話をかけて山下を誘った。

『納涼祭か、いいね!でも部外者の俺が行ってもいいの?』

「うん、家族や友達連れてくる人も居るし、それに結希くんは会社にとっては大事な取引先だから全然問題なし!一緒にご飯食べよう〜!」

 電話越しでも楽しみにしている様子が伝わってくる。山下は目を細めて美鈴の誘いを受けた。

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