第59話 すれ違い
がっくりと項垂れる山下とは対象的に、美玲は心臓の鼓動がバクバクと鳴るのを治めるのに必死だった。閉じたばかりのドアに背もたれ、数回深呼吸をする。
(お、落ち着け私…。結希くんは熱でちょっと甘えん坊になってただけだ。…うん、きっとそう。さっきのだって、まだ本調子じゃないからで…。)
納得させるような理由をつけ、最後にふーっと深く息を吐いてから帰路についた。
***
”無事家に着きました☆”
可愛いスタンプ付きで美玲からLINEが送られてきた。
(…何気ない文章なのに距離を感じるのは気のせいだろうか。)
恋愛経験ゼロの山下は、美玲の些細な仕草でも裏があるんじゃないかと勘ぐってしまう。特に今朝の出来事もあるので、余計に彼女の気持ちが分からなくなってしまった。
(謝るべきか…?でもそんなに怒ってなかったような気もするし…。うーん…)
スマホを持ったまま頭を抱えた。
***
送ったLINEに即座に既読が付くも、普段なら返ってくる返事が一向に来ない事が少し心配になり美玲はもう一通送ることにした。
”熱、あれから大丈夫?また倒れてない?”
今回も直ぐに既読が付くが、返事は無い。
(あれ、なんで…?)
LINEを開いたまま倒れている山下を想像してしまった美玲は、慌てて通話ボタンを押した。
ピロリロリロリン♪
数回の呼び出し音の後、彼の声が聞こえた。
『…もしもし。』
「あ、良かったぁ。返事がないからまた熱が出て倒れたのかと思っちゃった。」
『ごめん、ちょっと考え事してて…おかえり。』
「あ、ただいま!元気なら良かった。」
『…怒ってない?』
「え?」
受話器の向こうで少し沈黙し、恐る恐る彼が聞く。
『…美玲が帰ってから、苛めすぎたかなって反省してた。』
「そんなこと…。」
『俺、昨日からおかしかったよね。』
「…うん。」
『その、美玲のことは大切にしたいんだけど、それとは別で…その…泣き顔が見たくなる時があって…。』
「泣き顔!?」
『や、それこそ好きな子を苛めたくなる男子の心理っていうか…。』
「……。」
『…美玲が自分の言動で余裕を無くしてるのを見ると言いようのない悦びが溢れてくるというか…。』
「……。」
『…変態でごめんなさい。』
「ぷふっ」
あまりにも正直すぎる彼氏に、堪えきれず美玲は吹き出してしまった。
『えっ、な、なんで笑ってるの!?』
「自分の性癖をこんなにも誠実に赤裸々にカミングアウトする人初めてだから…可笑しくて…ぷっ、あはははっ」
『せ、性癖…っ!?』
山下は自覚していないようだったので、美玲は更に可笑しくなってしまった。
「結希くんピュアなのか小悪魔なのかどっちかにして〜(笑)。」
『…ピュア。だと思う。』
「あはは。そだね、結希くんはピュアで紳士で、…ちょっと変態(笑)。」
『へっ…!?……そだね、俺変態だわ。』
「認めちゃった〜(笑)」
『だって昨日自分で何もしないって言ったのに何かしようとしてたから。』
「え!?な、何かしようとしてたの…?」
『でもしなかったよ。』
「紳士だから?」
『そう、ピュアで紳士だから。』
「あははっ。変態が勝たなくて良かった〜(笑)。」
『脳内で滝に打たれてたから。』
「滝!(笑)」
先程までの悩みなど嘘のように二人の会話は弾んだ。
(ウジウジするだけ無駄だったな…。正直に話してよかった。)
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