第58話 朝帰り
二人で並んで朝食を食べながら、ふと美玲が気になることを聞いた。
「そういえば、いつから熱があったの?」
「え、いつからだろ…。悪寒は朝からしてたんだけど、熱が出始めたのは多分カフェのときかな…?」
「無理せず言ってくれたら良かったのに。」
美玲は心底心配した、と訴えた。
「ごめん。…初デートだったから、楽しませたくて。熱で途中で帰るのは俺が嫌だったんだ。」
「そっか…。」
「結局倒れて心配かけて…ごめん。」
「いいよ。何とも無くて良かったよ。それに…」
美玲は山下の肩に寄りかかった。
「今もこうして結希くんの傍に居られるし?ちょっと予想外な展開ではあるけどお泊りもしたし?」
少し意地悪くニッと笑う彼女がとてつもなく可愛かった。山下は、吸い込まれるように美玲にキスをした。
「!」
「…ごめん、風邪感染っちゃうかも。」
「昨日も言ったでしょ、その時は結希くんに看病してもらうもん!」
頬を赤らめながら少し反抗する美玲。
「…看病だけじゃ済まないかもよ?」
また苛めたくなった山下は、彼女の耳元で囁く。
「うぅ…昨日から結希くんが結希くんじゃない…。」
「どういうこと?(笑)」
両頬に手を当てながら潤んだ瞳で睨む彼女。
「私のこと苛めてばっかり。」
「男は好きな子を苛めたくなるもんなんですよ。」
ふふん、と大袈裟に腕を組んでみる山下。美玲は悔しいと思いつつ、苛められることに対して嫌じゃない自分が居ることに恥ずかしさを覚えた。
「美玲はイケボがお好きということですから?」
そういって山下は美玲の肩を抱き寄せまた囁く。
「いつでも聞かせてあげるよ、好きなときに、好きな言葉を。」
山下の顔を見ると、満面の笑顔。まさしく好きな女の子を苛めて楽しんでいる男の子の顔だった。
「意地悪!いや、意地悪じゃないけど…ズルい!!」
恥ずかしくて勢いよく立つ美玲。そのまま逃げるように脱衣所に向かう。
(やりすぎた…、でも初めての事だらけで加減がわからない…。)
山下は自分の行動に反省しつつ、美玲の照れている顔を思い浮かべた。
(…やめられないかも。)
美玲の言うように、昨晩から自分はどうかしている。どんどん美玲のいろんな表情を知りたくなる。それも、
(…欲求不満だな。)
軽く頭を振って、滝行を思い浮かべる。
(紳士にならないと。…せっかく好きになってくれたのに、このままだと嫌われるぞ。)
一人瞑想していると、美玲が自分の服に着替えて戻ってきた。
「…おかえり。」
「た、ただいま…。」
少し気まずい沈黙の後、美玲は自分の鞄を肩にかけた。
「…長居してしまったけどそろそろ帰るね。服洗濯してくれてありがとう!借りた服は洗って返すから。結希くんは熱が下がったとはいえ病み上がりなんだから今日はゆっくり寝てね?帰ったらまたLINEするから!」
「あ、うん…ごはんご馳走様、すごく美味しかったよ。」
「えへへ。また一緒に作った御飯食べようね。」
美玲は照れ笑いしながら玄関で手を振り、そのまま出ていってしまった。
「……もう距離取られた…!?」
山下はがっくり項垂れた。
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