第55話 動揺
美玲は山下の好意で先にシャワーを浴びていた。
(結希くん、優しすぎるよ…。)
自分がシャワーを浴びている間にも彼の体は熱でうなされているだろう。
(はっ、私がこうしている間にもしかしたらまた倒れてー!?)
いても立ってもいられずすぐにシャワーを止めて扉を開けた。
「!!」
「あっ、結希くん…!」
扉の向こうには、タオルと着替えを置こうとして驚いている山下がいた。
「失礼しました!!」
慌てて扉を締める美玲。
(は、裸見られた…!いや彼氏だから別にいいんだけどっ…。)
バクバクと心臓が音を立てる。
(まだ心の準備が…。)
動揺していると、扉の向こうから声をかけられた。
「…確認もせずに入ってきてごめんね。着替えとタオル、置いておいたから良かったら使って。服は洗濯かけてるから、もし予定とかなかったら乾燥するまでうちに居るといいよ。」
「ありがとう。その…洗濯も。」
(動揺してるの私だけなのかな…?って結希くんは熱でそれどころじゃないよね。早く上がってシャワー交代しなきゃ。)
山下が脱衣所を出るのを確認した美玲は手早く髪を乾かし、用意された部屋着に着替えた。
(下着をつけずに服を借りるのはなんだか後ろめたいけど…でも嬉しい。)
ブカブカのトレーナーの袖で顔を覆った。
「結希くん、シャワーご馳走様!待たせてごめんね?動ける?」
テーブルに突っ伏していた山下に声をかけると、彼は赤い顔でこちらを見ずに返事をした。
「うん、大丈夫。…シャワーしてくるし、適当に寛いでて。テレビも勝手に見てていいから。」
「え?うん…ありがと。」
(顔真っ赤だった…、大丈夫かな…。)
脱衣所の戸を閉めた山下は深くため息をついた。
(…見てしまった。直で。裸を。その後の彼シャツなんて見たら絶対どうかなりそう…。)
先程見た光景が勝手に頭に再生され、慌てて頭を振った。
(バカバカバカっ!いくら熱があるからって欲望に忠実過ぎだ!)
ぐっしょり濡れた服を乱暴に脱ぎ、熱いシャワーを浴びた。
しっかり温まり浴室から出ると、美味しそうないい匂いが鼻をついた。
(…なんだ?)
そっと脱衣所から顔を出すと、美玲がキッチンに立っていた。
「あ、勝手にキッチン借りちゃった。でも温かいもの飲んだ方がいいと思って。」
山下に気づいた美玲は笑顔を見せてそう答えたかと思うと、ハッとして慌ててこちらに向かってきた。
「駄目だよ、ちゃんと髪乾かさなきゃ!鍋焦がしたりしないから、安心して乾かしてね!」
そう言って戸を閉められた。山下は、熱でぼうっとした頭でキッチンに立つ彼女の姿を思い返した。
(彼シャツにキッチンで料理…。)
弱った体のくせにそういった欲は一丁前に出るんだな、と苦笑しながらドライヤーのスイッチを入れた。
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