第53話 強がり

「…っ」

 ブルっと肩が震え、慌てて飲み物を流し込んだ。

「あれ、美味しくなかった…?」

 眉を下げた美玲に慌てて取り繕った。

「ち、違うんだ。ちょっと、冷たいものが歯に染みて…」

 引きつった笑いで誤魔化すが、体の震えは収まってはくれなかった。

「…まだ顔が赤い。ねぇ、もしかして熱があるんじゃ…。」

 熱を計ろうと手を伸ばす美玲の手を後ずさりで避ける。

「大丈夫だから!!ほ、ほら、せっかくのパフェ溶けちゃうよ?」

「…うん。」

 小さく返事をし、美玲は俯いてパフェを食べた。

(初デートで熱出すだなんて、そんな事あっちゃいけない。…楽しく終わらせないと。)

 山下はマグカップの残りを飲み干し、店員を呼んだ。

「あのっ、これのチョコバージョンホットで。可愛いから他のも見てみたくなりました!」

 わざとらしく満面の笑顔で店員に注文した。美玲はその様子に驚いていたが、やがて吹き出した。

「あははっ、結希くんってば甘党だけじゃなくて可愛いものも好きなの?」

「えへへ。…だから彼女も可愛かったりして?」

 美玲にだけ聞こえるように、後半を小声で囁いた。

「!」

 彼女はまた頬を染めながら慌ててパフェに向き直った。

(これでいい。…熱を悟られないようにしなければ。)

 山下は気づかれないように小さくため息をつき、運ばれてきた飲み物で暖を取った。


 カフェを出る頃には、あんなに天気が良かった空がどんよりと厚い雲に覆われていた。

「あちゃー、なんだか雨が降ってきそうだね。風も少し冷たくなった気がする…。」

 薄着をしてきた美玲が軽く腕を擦った。

「寒い?」

「ちょっとね。でも大丈夫!」

 にっこり笑顔を返した美玲の肩に山下は自分が羽織っていた上着を被せた。

「!でもーー」

「大丈夫。寒くなくなったら返して。」

 不安そうに見上げる美玲を安心させるように微笑み返した山下は、彼女の手を握って次の目的地に向かった。

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