第51話 初デート
山下は約束の時間の1時間も前に着いた。待ち合わせに選んだ場所は、二人が付き合う事になった時の公園。土曜日ということもあり、子供たちが元気よく駆け回っている。
「ふぅー。」
深呼吸をし、高鳴る鼓動を少しでも落ち着かせる。
(大丈夫、予習はした。計画通りに行かなかったら、臨機応変に対応して…。)
がっかりされないようにしなければ。大人らしく、スマートに彼女をリードしよう。山下は繰り返し予習した情報を頭に入れた。
約束の時間の15分前に美鈴は公園に着いたが、そこには既に山下が居た。
「ごめーん!待った?」
美鈴の呼びかけに気づき、山下は慌ててスマホから顔を離した。
「いやっ、さっき来たところ。お互いちょっと早く来ちゃったね。」
「えへ、そうだね。少し早いけど、ゆっくり行こっか♪」
二人は話しながらバスをひと駅分歩くことにした。
「今日は楽しみすぎて早く起きちゃった。子供の頃からこの癖直らないんだよねぇ。」
「あはは。でも健康的でいいじゃない。早起きは三文の徳って言うし。」
「まぁね〜?でも結局その日は早く寝ちゃうから起きてる時間は変わらないんだよね。」
「その日いっぱいはしゃいで疲れるんだね。」
「そうそう(笑)今日も多分夜は早く寝ちゃうかも。」
「いちご狩りでそんなはしゃぐの!?」
「そのつもりだよ〜、いっぱい食べる!」
話している内にバス停に着き、丁度バスが来たのでそのまま乗車していちご園に向かった。
バスを降りて徒歩数分のところにいちご園はあった。
「都会でいちご狩りが出来るなんて、便利な世の中になったよねぇ。」
「ほんとだね。しかも全面ハウスだから天候関係なし。」
山下は受付で予約した旨を伝え、係の人から練乳の入ったカップを貰った。
「練乳はおかわり自由です。完全予約制なので、時間制限も有りません。ゆっくり食べていってくださいね。」
「ありがとうございます。」
いちごの採り方のレクチャーを受け、二人のいちご狩りが始まった。
「時間無制限なんて嬉しいね!」
「他の所だと30分だけとか、短かったから此処にしたんだ。」
「30分は短いよねぇ…。予約してくれてありがとう♡」
「どういたしまして。さ、食べよう!」
「うん!」
美鈴はさっそく近くのいちごを摘んでみた。実は艷やかで、甘い香りを放っている。練乳を付けずにそのまま食べると、爽やかな甘みがじゅわっと口の中に広がった。外から嗅ぐよりもずっと香りは強く鼻を通っていった。
「美味しいぃぃ。」
あまりの美味しさに顔がにやける。山下はそんな美鈴の表情を見てホッとした様子で自分もいちごを摘んだ。
「良かった。それにしても美鈴は美味しそうに食べるねぇ。」
「だってほんとに美味しいんだもん♪あぁ、美味しい…、いくらでも食べられる…。」
食べる度美味しさに悶える美鈴に、山下は予習した情報を伝えた。
「この農園は外でカフェもやっていて、いちごのパフェとかもあるみたいなんだけど、あとで食べる?」
「食べる!!…でももう少しここのいちご食べても良い?」
「勿論。ゆっくり楽しもう。」
「ありがとう!」
ニコニコといちごを頬張る美鈴。山下は目を細めながら彼女の写真を撮った。
「あ!写真撮るなら言ってよー。こんないちごに夢中なところ、なんだか恥ずかしい。」
「いいんだよ、夢中な姿撮りたかったし(笑)。次はポーズとる?」
「とるー!彩ちゃんにもいちご狩りの様子見せたいし、あとで送って♪」
「いいよ。んじゃ撮るよー。」
カシャッ
「ありがと♪次は二人で撮ろう!」
「おっけー。じゃあ撮りまーす!」
二人は思い出の写真をたくさん撮り、いちごも満足いくまで食べてハウスを後にした。
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