第48話 尊い

「そんな事が…。」

 山下は、日課になりつつある電話で美鈴から友人のことを聞いていた。

『うん…。でも、このまま過去の人に囚われたままじゃ幸せにはなれないと思うんだ。大切な人の事は忘れちゃ駄目だけど、辛い思い出を抱えたままじゃ前に進めない…。』

「そうだね…。」

 恋愛経験のない自分がまさか恋愛相談に乗るなんて。山下は、どう返したら良いか分からず歯切れの悪い相槌を打った。

『結希くんがもし、その子の立場だったらどうする?』

 もし、同じ立場だったら。とても困った質問が来た。もし美鈴を失ったらなど、付き合いたてには聞きたくないし想像もしたくない問いかけだ。

「…俺なら、やっぱりその友達と同じ事するかもな。…それよりももっと酷いかも。」

『そっか…。』

「美鈴を亡くすなんて普通に想像したくないし。」

『ごめん。』

「でも、その子に前を進んでほしいって美鈴の気持ちも分かる。…こればっかりは、他所が言っても解決しない問題なんじゃないかな。友達が、自分で変わりたいと思わないと前には進めないと思う。」

『…そうだね。ありがとう。私、ちょっと焦ってたかも。結希くんとの事相談に乗ってもらったおかげで付き合えるようになったし、私もその子の力になれたらって…。』

「そうだったんだ。…てか相談してたの!?」

『え?うん…ごめん、嫌だった?』

「いや…」

 自分のことで悩み、友人に相談するほど想ってくれていた事を知って嬉しかった。

「俺、自分のことチョロい奴だと思ってた。」

『チョロいって(笑)そんな事無いよ。そんな事言ったら私の方がチョロいから!』

「あぁ、イケボに弱いもんね?」

『そうそう(笑)』

「…他のイケボに浮気しないでね?」

『…声優さんは有り?』

「リアルに恋は駄目。」

『それは勿論…!』

「美鈴は可愛いから心配だよ。モテるでしょ?」

『モテないよー。』

「佐藤さんの事があったしその言葉信用ならないー。」

『むぅ…。』

「…浮気されないように俺頑張る。」

『えっ。』

「イケボだけじゃなくて。」

『…頑張らなくたって、そのままで素敵だし大好きだよ。』

「!」

 こんな言葉、言われるのは初めてだ。そのままの自分を受け入れてくれる人、なんて尊い存在。

「…ありがとう。俺も美鈴の事大好きだよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る