第39話 ケジメ

「先輩…!ちょっと、お話良いですかっ。」

 ぎこちなく声をかけてきた高田に、佐藤は笑った。

「なんだその緊張ぶり(笑)。…いいよ、場所変えようか。」


「それで、話っていうのはこの間の事かな。」

「なっ、なんでそれを…」

「いや分かり易すぎだから(笑)。…山下さんに嘘吐いてくれてありがとな。」

「山下さんから聞いたんですか…。」

「あぁ。昨日のクレーム、一緒に謝りに行ってくれてな。そんときに。」

「そうでしたか…。」

 美鈴はますます後ろめたくなった。

「俺の名誉のために嘘ついてくれたんだろ?」

「…でも嘘下手だって言われました。」

「ははっ、お前演技とか嘘へったくそだもんなぁ。そりゃ山下さんもそう言うさ。」

「そんな笑わなくても…。」

「あぁ、悪い。でも正直なお前が好きだよ。」

「先輩…。でも私…」

「皆まで言うな。分かってるよ、山下さんが好きなことくらい。…俺に一切の脈が無いことくらい。」

「…先輩。」

 佐藤は手すりに肘をかけて遠くを見た。

「知っててそれでも諦めたくなかったんだ。…でも駄目だな、山下さんを知れば知るほど良い奴過ぎて。高田が彼を好きになるのも頷ける。」

「ごめんなさい…。」

「謝るなよ、俺が惨めになるじゃないか。…まぁ、押せばなんとかなるんじゃないかって思ってた浅ましい先輩を許してくれ。」

「先輩…。」

「今度から飯の誘いする時は坂並もセットで来い。二人まとめて奢ってやる!」

「…ありがとうございます!」


***


”お疲れさまです。今日の約束ですが、電話だけお願いすることって出来ますか?”


 高田からLINEが来るのは久々だった。約束というのは、週末通話をしながらのゲームをしようと言っていた事だろう。山下はああいった手前、どう接していいか分からずにいたので高田から連絡があったのは有り難かった。

(…確かにゲームって気分でも無いよな。)


”お疲れさまです。はい、大丈夫です。”


(きた…!)

 美鈴は山下からの返信を開いた。

(…やっぱり怒ってるよね。なんとなくいつもより返事が冷たく感じる…。)


”良かった。じゃあ、仕事が終わったらまた連絡しますね。”


(絵文字が無い。…そりゃそうか。)

 山下は高田からの返信を見てため息を吐いた。いつもなら可愛い絵文字が付いたメッセージに癒やされているのだが、今回は自分が撒いた不穏の種のせいで一切絵文字が無かった。

(…せめて友達としてまた仲良くなれないかな。)

 山下にとって美鈴は好きなゲームを語れる数少ない人間だった。恋愛が成就しないにしても、友としての位置づけは失いたくなかった。

(俺から啖呵切っておきながらそれは虫が良すぎるかな…。)

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