第38話 相談

「どうしたのよ、この間から元気ないじゃん。」

 彩が心配そうに美鈴にコーヒーを手渡した。

「ありがとう…。」

「なんかあった?」

「彩ちゃん…私、どうしたら良いんだろう…。」

「どうって…話してくれないと分かんないって。」

「…他に好きな人がいるって山下さんに勘違いされてるの。それで、好きな人いるのに二人きりで食事するとか良くないですよって叱られて…。」

「ほう。それで、あんたはどう答えたの?」

「答える前に山下さん帰っちゃって…。それから気まずくてLINE送れなくて。でも今夜一緒にゲームするって前から約束してて…」

「え、ちょっと待って。一緒にゲームって、まさか家で!?」 

「違うよぉ。LINE通話しながら各自の家でゲーム。家でゲームするほど仲良くないよ…。」

「そ、そうよね。びっくりした…。」

 一度立ち上がった彩はゆっくり座り直してコーヒーを啜った。

「でも約束してるんなら何かしら送らないと。約束キャンセルするなら早めに言った方が良くない?」

「…キャンセルしたくない。」

「なら告白してしまえば?」

「そんな状態で告白してOKもらえると思う!?佐藤先輩と飲みに行くような女が何開き直ってるんだって思われるじゃん…!」

 美鈴は頭を抱えた。

「何も考えずに誘いに乗った私が馬鹿だった…。結果的に先輩にも山下さんにも思わせぶりな態度とって…どうしたら良いの彩ちゃん…。」

「はぁ…。」

 彩はこの手の相談が嫌いだった。自分の考え無しの行動が招いた問題を、深く考えずにこちらに助けを求める所は美鈴の悪い癖だ。

「あんたさ、これからもそうやって自分の問題を他人に解決してもらうつもり?」

「彩ちゃん…。」

「あんたがどう思って佐藤先輩の誘いに乗っていたのか知らないけど、誘ってきた佐藤先輩の気持ち考えたことあった?」

「ただ後輩として飲みに誘ってるのかと…。」

「だとしても男女二人でわざわざ何度も誘ってくるのおかしいと思わない?普通の先輩なら一度は二人きりがあったとしても、その後何人か連れて行ったりするわよ。それを何度も二人っきりで誘われてなんとも思わないってあんた正気?」

「……。」

「いつまでも学生の感覚で居たらあんた痛い目見るわよ?佐藤先輩や山下さんがいい人だから今まで何もないけど、他の男だったらさっさと酔わせて持ち帰るところよ。」

「うぅ…。」

「もうちょっと自分が大人の女だってこと自覚しなさい。」

「…はい。」

 彩はきつく言い過ぎたと反省しながら、次は努めて優しい口調で話した。

「無邪気で無垢なのは美鈴の良いところではあるんだけど、もう少し年相応の考え方をした方が良いよ。今までの恋愛が上手く行かなかった原因でもあると思うし。」

「そうだね…。ありがとう、彩ちゃん。」

「ま、私は佐藤さんを推すけどね!」

「駄目だよ、私は山下さんが好きなの!」

「それならそうと早く言ってしまえば良いのに。」

「だ、だって…。」

「とにかく、佐藤さんには早めにお断りを入れたほうが良いわよ。時間経てばそれだけ傷が深くなるから。」

「…そうだね。そうする。」

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