第37話 いい人
山下は代替品を持って一二三商事に立ち寄った。
「山下さん。本当に申し訳ありません、車まで出していただいて…。」
「そんなに謝らないでください。ほんと、ウチでの破損かもしれないんで。」
「だとしても気づかずに出荷したこちらに責任があります。」
「開けて確認することも出来ない状態でしたから、仕方ありませんよ…。兎に角麒麟スーパーさんへ向かいましょう!さ、乗ってください。」
「誠に申し訳ありませんでした!」
佐藤と山下は揃って頭を下げた。
「いやいや、そんな頭を上げてください。代替品も開店前に届けてくださってますし。ミドリ食品さんまで来ていただいて…。丁寧な対応をしていただいてありがとうございます。」
「麒麟スーパーさんがいい人で良かった…。」
「ほんとですね、全然怒ってなかった。」
「朝からすみませんでした…。一緒に来てくださってありがとうございます。」
「いえ。早く解決できてよかったです。」
「お礼にちょっと早いですけどランチでもどうですか。近くに旨い店あるんですよ。」
「え、いいんですか。…じゃあ、遠慮なく…。」
佐藤のナビに従って山下は車を走らせた。
「いただきます。」
山下は佐藤の奢りで海鮮丼を頂いていた。
「山下さんって、ほんといい人ですよね。」
刺身定食を頬張りながら、佐藤は言った。
「え、そうですか…?」
「はい。今回のこともそうだし、酔ったときに泊めてもくれたし。…数日前のことも。」
「……。俺、何かしましたっけ。」
「声かけないでくれたじゃないですか。」
「あの状態で声かける度胸なんてありませんよ。」
箸を止めて山下はあの日を思い出し俯いた。
「…それに、見たこと高田さんに話しちゃいました。」
「え!?いつの間に…。で、で高田はなんて…?」
「佐藤さんを庇って酔っ払って寄りかかっただけだと言っていました。」
「あいつ…。」
佐藤の反応を見て、山下は余計後ろめたくなった。
「…俺、そんな良いやつじゃないですよ。」
「え?」
「高田さんが困るようなことを言って先に帰ったんです。…あんな言い方しなくても良かったのに。」
佐藤は山下の言っている意味が分からなかったが、目の前の青年を励ますため話題を逸した。
「…そういえば山下さん、髪型随分変えましたね。最近の流行りですか?前髪あげるの。」
「…あぁ、流行りと言うか、そうした方が良いと言われて。」
「へぇ。確かに今の髪型すごく似合ってて良いですね。爽やかさが増してます。」
「…ありがとうございます。」
元気付けるはずが、何故か悲しそうな顔をする山下に佐藤は困惑した。
「えっと…。や、山下さんは休日何して過ごしてるんですか?」
「休日ですか。…大体ゲームして過ごすか食材の買い増しに行くくらいですかね。」
「やっぱり自炊してるんですね。偉いなぁー。俺も若くないし、健康のためにも自炊しなきゃなぁ。」
大げさに頭を掻く佐藤に、山下はくすりと笑った。
「…佐藤さんの方こそ、いい人過ぎますよ。」
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