第30話 夜中のゲーム会

”お疲れさまです。今家に返ってきたのですが、少し疲れてしまって。今日はゲームしませんが、通話だけでもいかがでしょう。”

「おぉぉぉぉ!通話!通話!」

 アルコールも入り、更に夜中ということもあって変なテンションになっていた美鈴は早速電話を駆けた。


ピロリロリロリン♪


「…もしもし。」

「もしもし!こんばんは!お疲れなのに電話ありがとうございます!」

「いえ。高田さん、すごく元気ですね?」

「あはは、お酒飲みながらやってるからかもしれません!今日は飲みたい気分で。」

「お酒ですか。…俺も飲もうかな。」

「あら、山下さんも何かお悩みが?」

「…考えても答えが中々出なくて。」

「奇遇ですね、私もそうなんです。…だからもう嫌になっちゃって飲んじゃいました!」

 明るく言う高田の声に山下は少し元気づけられた。

「思い切りが良くていいですね。俺も見習います。」

「えー、お酒に逃げるのは良くないことですよ!」

「それ高田さんが言います?」

「あははー、突っ込まれちゃった。」

「…高田さんでもお酒に逃げたくなることあるんですね。」

「そりゃありますよー。ニンゲンダモノ。」

「みれを。」

「あはははは!みれを!良いですね!あはは!」

「えっ、そんなに面白かったですか?」

「はい!あー、涙出てきた!」

 ひーひーと遠くでまだ笑っている声がする。もじったとはいえ、初めて高田の下の名前を言ったことに山下はドキドキしていた。同じように美鈴もまた、山下に自分の名前を言われたことにときめいていた。どう反応していいか分からず、電話ということを良いことに笑ってごまかした。

「…私の下の名前、ミスズって読まずにミレイって読んでくれたの山下さんが初めてです。」

「えっ」

「一般的に美鈴って漢字を見たらミスズって読むじゃないですか。名刺にふりがなふってあるのに大体の人ミスズって呼ぶから、一発で読んでもらえたの嬉しいです。」

「俺はふりがなもちゃんと読む派なので。」

「あはは、ありがとうございます、結希さん♪」

 高田美鈴という人はとことん自然な流れで距離を詰めるのが上手い。山下は不意な下読みで大きく心を揺さぶられた。

「…どういたしまして、美鈴さん。」

 なるべく動揺を悟られないように声を低くして返した。

「あぅ、イケボ…」

「え?」

「あ、ごめんなさい…。私、声フェチで…。」

「声フェチ。」

「はい。山下さんの声、かっこいいのであまり真剣に名前を呼ばれるとほんとキュンが止まらなくて…。」

 酔いのせいなのか、夜中テンションのせいなのか、美鈴はペラペラと隠していたことを話してしまった。

「キュン…。」

「ごめんなさいっ、キモいですよね、ほんとすいません…。」

「あ、いえ…。」

 暫く沈黙が続いた。美鈴は口が滑りすぎたことを後悔した。

「…俺の声、かっこいいって言ってくれるんですね。」

「もちろん…!すごく好きです!」

「…ありがとうございます。初めてだ、声を好きって言ってもらえたの。」

「え、ほんとですか!?こんなにいい声なのに…。」

「俺、こんな見た目だし、人見知りで上手く顔見て話せないから気味悪がられることの方が多くて。」

「そうですか?背は高いなって思いますけど。」

「背が高くて猫背だから、幽霊みたいって言われます。」

「え!?ありえない!!山下さんもっと自身持っていいですよー、背が高いってことはイケメン要素の一つですよ?猫背が怖いならそれ直したら良いってことじゃないですか!」

「え、そういうもんかな…。」

「試しに今度胸張ってみてください。周りの反応変わりますよ!」

「…ありがとうございます。」

「どうしたしまして!お礼はイケボで良いですよ?なーんて!」

「…美鈴、ありがとう。」

「!!」

 今までの声の響きとは違い、美鈴のためだけに向けられた声だった。美鈴は心臓が跳ね上がった。

「…ご、ごちそうさまです……。」

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