第26話 鼓動

 美鈴は混乱していた。

(幻聴かな…?それとも付き合ってほしいって、この後何処かに行きたいってこと?そういうことだよね…?)

「えっと…今度は何処連れて行ってくれるんですか?」

 酔った頭で必死に考え、出た返事がそれだった。

「……。」

(ひー、先輩なんか言ってください…!)


「俺じゃ駄目か?」

「えと…」

 混乱しつつも次の答えを考える。

(どう答えるのが正解?俺じゃ駄目ってどういう事!?)

「!!」

 急に佐藤に抱き寄せられた。

「…好きなんだ。ずっと前から。」

「先輩…」

 勝負を急ぎすぎていることは自分でも分かっていたが、佐藤は溢れる気持ちを抑えることが出来なかった。

「お前が他の人を好きなのは知ってる。でも諦められない。…好きなんだ。」

 ギュッと抱く力を強められ、美鈴は更に混乱した。

「せ、先輩、…私……、あの…。」


 どれほどの時間が流れただろう。抱きしめられていた体が、そっと開放された。

「…いきなりごめんな。でも少しだけ考えてみてほしい。俺という選択肢も。」

 そう言って佐藤は背を向けて去っていった。

(…どうしよう。)

 鼓動がバクバクと音を立てていた。

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