第25話 試み

 佐藤はいつになく緊張していた。

「おはよう。」

「佐藤先輩、おはようございます!」

「金曜は大丈夫だったか?」

「はい、なんとかみんなで始発で帰ることが出来ました!」

「始発…。お疲れ様。」

「ありがとうございます♪」

「…なぁ、今日仕事が終わったら付き合ってほしいところがあるんだが、大丈夫かな?」

「付き合ってほしいところ?」

「友達が新しく店をオープンしたんだが、まだ挨拶に行って無くてな。スペイン料理の店なんだけど。」

「スペイン料理!」

 美鈴はスペイン料理が好きだった。そのことは坂並からリサーチ済みで、たまたま知り合いがスペイン料理屋をオープンしたのでいい機会だからと誘ったのだ(挨拶に行っていない、というのは嘘だった)。

「喜んで♪私、スペイン料理大好きなんですよ!」

「そうか、良かった(ごめん、知ってるんだ…)。」


 退勤後、二人は約束していた店にやってきた。

「Bienvenido!」

「ほぁ!?」

「はは、スペイン語でいらっしゃいませって意味です。こちらの席へどうぞ。」

 陽気な店員が予約されていた席へと案内してくれた。

「ようこそ。こちらがメニューとなってます。おすすめは鶏ときのこのカルドソ、あとロブスターをトマトで煮込んだカルデレータ・デ・ランゴスタです!」

「カルデレータって、フィリピン料理にもありますね。」

「そうですね。でもスペインのメノルカ島の郷土料理にもあるんですよ。フィリピンのカルデレータはビーフシチューに近いですが、スペインのカルデレータは主にトマト・ニンニク・パプリカで煮込むのでチリンドロンに近い味です。」

「へぇ、美味しそう!先輩、頼んでもいいですか?」

「あ、あぁ。いいよ。」

 高度な会話に佐藤はついていけず、ただ相槌を打つしか無かった。

(料理が得意とは聞いていたが、ここまで高田が料理に詳しいとは…。チリンドロンってなんだよ…。)

 改めて高田のスペックの高さを感じた佐藤だった。


「どうぞ、イカ墨のパエリアとカルデレータ・デ・ランゴスタです!」

 前菜を食べ、いよいよメイン料理が運ばれてきた。美鈴は程よく酔っており、普段よりもややテンション高めで反応した。

「わぁ!美味しそう〜♪」

 はしゃいで喜ぶ高田を佐藤は目を細めて見ていた。

「先輩、食べましょう!」

「あぁ。食べよう。」


「ありがとうございましたー!雄二、また来いよ!」

「おう、またな!」

 友に『グッドラック』とサインを貰って、佐藤は気合を入れた。

「先輩、ごちそうさまでした♪」

「いえいえ。」

「先輩優しいですねー。私、先輩の後輩で良かったです♪」

 美鈴は酔いもあってご機嫌だ。

「…後輩以上は駄目か?」

「え?」

「付き合ってほしい。」

「!」

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