第23話 花金

 山下はなるべく平静を装いつつ家路を急いだ。それは早くゲームをしたいという気持ちと、スキップしたいこの衝動を隠すためだ。

(高田さんの連絡先を貰えるなんて…!)

 しかもまさか向こうから切り出してくれるとは思っていなかった。彼女にとっては些細なやり取りだろうが、山下にとっては大事件である。人生でこんなシチュエーションは初めてだった。

(白昼夢じゃないよな、見直したら連絡先ないとかないよな…。)

 先程の出来事を半信半疑に思いつつスマホを見た。LINEにしっかり記録されている『高田美鈴』の文字が、山下を安堵させた。

(あるぅぅぅ!よかったぁぁぁ!)


 家についてからもまだ信じられず、再びLINEを開いて眺めていた。彼女のアイコンの写真は後ろ姿を写しており、肩まで伸ばした髪が風に揺れている様子が映し出されていた。

(…いい匂いだったなぁ。)

 山下は彼女の香りを思い出して赤面した。

(って変態か俺は!!いや変態か、ここまで来たら…。)

 高田と出会ってからというもの、山下は自分の欲求がどんどん膨れ上がるのを感じていた。

(最初はまた会えたら良いなって思うだけだったのに…。)

 ぼうっと高田のことを考えながら買ったばかりのフェアリーハンターの封を切った。

(…一緒に通話しながらゲーム。)

 いつか出来たら良いなと思いつつ、そんな事出来る日が来るのかとつっこみ山下の夜は更けていった。

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