第21話 残業

「今日はいよいよフェアリーハンターの発売日♪楽しみだなぁ。」

 フェアリーハンターというのは、各地にひっそり隠れているという妖精をハントしながら悪の組織に立ち向かうというアドベンチャーゲームである。このゲームに出てくるキャラクターの声を担当している声優が好きなため、美鈴は予約していたのである。

「仕事をちゃちゃっと終わらせて今日はゲーム三昧だあ!」


「高田さん、ちょっといいかな。」

 王子ボイスの木田係長に声をかけられた。

「はい!どうしました?」

「いやぁ、一課が手詰まり起こしててね?僕らだけでは間に合わないから高田さんにも手伝ってほしいんだ。」

「それは大変ですね…。私にできることがあれば何でも言ってください!」

「本当?助かるよ!高田さんは救いの女神だね。」

「いやぁ〜、そんな女神なだなんて…」

「じゃ、これ今日中に頼むよ。もちろん手が空き次第僕らもするからね。」

 そういって木田係長は爽やかにごっつい書類の束を美玲に手渡した。

(げっ、思ってるより多い…。)


 一課の仕事は想像以上に難航しており、ヘルプで入った美鈴までもが残業するはめになってしまった。

(とほほ、やっぱりですか…。あぁ、ゲーム三昧の予定がぁ。)

「おつかれ。」

 佐藤が美玲にコーヒーを差し入れしてくれた。

「ありがとうございます!」

「大丈夫か?俺も残ろうか。」

「いえ、引き受けたのは私ですし。それに先輩には二課の仕事全部やってもらいましたし、加えて一緒に残業までしてもらうのは申し訳ないです。」

「真面目だな。」

「真面目だけが取り柄ですから?」

「うそつけ(笑)。…まぁ、分かった。無理するなよ?」

「ありがとうございます。」

「んじゃ、お先。」

「お疲れさまです!」

 佐藤は一課の人間にも挨拶をして帰っていった。

「よし!」

 美鈴は差し入れのコーヒを飲み、両頬をぱちんと叩いて気合を入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る