第16話 それぞれの月曜

「おはようございます!」

「おはよう。金曜はすまんかった!」

 挨拶するなり佐藤は美鈴に謝った。

「あはは、謝るなら山下さんにお願いします。彼、先輩おぶってタクシー待ってたんですから。」

「そうなのか…泊めてもらっただけじゃなく俺は自分で歩きもしなかったのか…。」

「え、泊めてもらった!?」

 なんて羨ましい、と思いながらも山下の優し過ぎる人柄にも驚いた。

「あぁ。朝まで目覚めず爆睡だったらしい…。恥ずかしいよ全く。」

 頭を抱えて佐藤は首を振った。

「じゃあ私も先輩も今から謝罪メールですね。」

「え、『私も』…?」

「さー、謝罪謝罪!」

 気になる。自分が寝ている間に一体何があったのか。佐藤はそう思いつつ自分のデスクに着いた。


”山下さん、おはようございます。先週は大変ご迷惑をかけてしまって申し訳ありません…。今後こう言った粗相のないよう気を付けて参りますので、これからもよろしくお願いいたします。―高田―”

「…そんな気使わなくてもいいのに。」

 高田からの謝罪メールを見て思わず呟いた。そう、謝らなければいけないのは自分の方だ。酔った相手をいい事に、やましい気持ちを抱いてしまったのだから。かといって事実を話せばドン引きされるに決まっているので当たり障りない文章を送った。


”高田さん、おはようございます。本当にお気になさらず。無事に帰られたようで安心しました。こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします。―山下―”

「優しすぎるぅぅ…。」

 美鈴は小さく悶え、山下の優しさに感謝した。


 佐藤は後輩の様子を首を伸ばして確認し、心を暗くした。

(やっぱり高田は山下さんの事を…。)

 嫉妬より、相手の性格の良さを知ってしまった今は落ち込みの方が強かった。沈んだ気持ちで山下にメールを送った。


”山下さん、おはようございます。先週は本当にお世話になり、ありがとうございました。高田も世話になったと聞きました。二人そろってご迷惑をおかけして申し訳ありません。―佐藤―”

(高田さん、どこまで話したんだろう…)

 先週の事を鮮明に思い出す。

”「暫くこのままでもいいですか…?」”

 潤んだ瞳、酔って桜色に染まった頬。熱い身体…。

(駄目だ駄目だ!!!朝っぱらから何考えてんだ。)

頭をぶんぶん振り出した山下を、周囲の人間は気味悪そうに見ていた。


”佐藤さん、おはようございます。あれから体調の方は大丈夫でしたでしょうか。食事会、楽しかったのでまた一緒に行きましょう。今度は、お酒は程ほどに(笑)。―山下―”

「くそぉ…いい奴過ぎる。」

 もっと性格の悪い奴だったら良かったのに、と思う佐藤だった。

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