第13話 酔い
「……。」
どれほどこのままの体勢でいただろう。永遠とも思える時間が山下の中で流れていた。
(これは夢なんだろうか。美人が自分に体を預けたまま寝息を立てている…。)
こんなおいしいシーン、これから一生訪れないだろう。そう思って山下は割り切って彼女のぬくもりと香りを堪能しようと決めた。
「すみません、そろそろ閉店時間となりますのでお仕度よろしくお願いします。」
「は、はい!すいません!すぐ準備します!」
邪な考えを𠮟るようなタイミングで店員がクローズを告げに襖を開けた。山下は飛び跳ね瞬間的に高田を自身から放した。
「た、高田さん。起きてください、閉店時間です。」
優しく揺すると、美鈴は直ぐに目を覚ました。
「あ、すいません…、いつの間にか眠ってしまって…。」
まだ酔いが残っているが何とか動けるようだ。山下は佐藤も揺り起こそうとするが、彼は爆睡しているようで目を覚まさなかった。
「先輩こんなになるなんて珍しい。すみません、二人そろってご迷惑をかけてしまって…。」
「いえ、接待で相手に飲ませようとして潰れてしまうってこと多分よくあることなんで気にしないでください。俺、会計済ましてくるんで佐藤さん起こしてもらっでもいいですか?」
罪悪感から山下はそそくさと部屋を出てしまった。美鈴は意識を失う前の事を思い出しまたドキドキした。
(やっちゃったなぁ…。)
「先輩、佐藤先輩!起きてください、もう帰りますよ!」
乱暴に揺するが彼はビクともしなかった。
「…どうですか、帰れそうですか?」
会計を終えた山下が戻ってくるも、佐藤は寝たままだった。
「「……。」」
「俺担いで行くんで、店出ましょう。」
そう言って山下は佐藤を背負った。泥酔した人間ほど重いものはないが、そこそこ身長のあった山下は重さに耐えられた。
「何から何まですみません…。」
心の壁を崩すどころか迷惑ばかりかけてしまったことに美鈴は心を痛めた。
「気にしないでください。楽しかったですよ、嘘抜きで。」
それは本心だった。生まれて初めてのいい経験もした。心配も杞憂で終わった。
「…山下さん、良い人過ぎます。」
美鈴は増々彼の事が好きになった。
「あ、タクシー来ましたよ。高田さん先使ってください、佐藤さんまだ目覚めそうにないし。」
そう言って自然とレディーファーストをしてくれる山下に心底美鈴は感謝した。
「本当に、今日はありがとうございます…!じゃあ、おやすみなさい。」
「どういたしまして。おやすみなさい、気を付けて帰ってくださいね。」
「それにしても…」
佐藤はおんぶの状態が寝心地がいいのか、益々寝息を深く立てている。タクシーを拾って後部座席に乗せたというのに、それでもビクともしない。
「佐藤さん、帰りますよ。住所言えますか?」
「くかー。」
「…はぁ。すいません、青木までお願いします。」
どうにも起きないので、仕方なく自宅に連れていくことにした。
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