第9話 メール

”山下さん、お疲れ様です。先日はありがとうございました。急ではありますが、次回の打ち合わせが終わった後もしご都合がよろしければ三人で一緒にお食事などいかがでしょうか。―高田―”

 山下はメールを開いて驚いた。

(食事の誘いだ…!)

 営業をして数年経つが、こちらから接待で誘うことはあっても先方から食事の誘いが来るなんてことは生まれてこの方初めてだった。

(取引先から良く思われてるなら嬉しいけど、価格交渉とかだったらどうしよう…。)

 契約した後の価格交渉となると厄介だ。人見知りの彼にとって、そういう話程苦手なものはなかった。

 佐藤からの連絡ならまだしも、部下の高田からの連絡となると少し裏があるのではないかと勘繰かんぐってしまう。だからといって、打ち合わせが始まったばかりの相手に断りを入れるのも気が重かった。

(…はぁ。)

”お疲れ様です。こちらこそ先日はありがとうございました。お食事の件、喜んで行かせていただきます。―山下―”

 山下は高田に再び会えるのを少し喜びつつも、心配が現実にならないことを祈ってメールを送信した。

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