第5話 打ち合わせ
「B案が良いと思いますが、ここは明朝よりもゴシックの方が親しみが出ますし色をもう少し明るい色にした方が集客がいいと思うんです。」
山下は人見知りではあるが、一度仕事に集中してしまえばある程度意見を言える人間だった。上の人間は、そう言った彼の長所を見込んで営業に配属させたのだろう。
「なるほど。確かに明朝だと硬いイメージになってしまうな…。広報担当にそれも踏まえて作り直すよう伝えておきます。」
「ありがとうございます。それで~の件なんですが…」
山下の低く爽やかな声を耳にしながら美鈴はうっとりしながら広報に伝えるメモを取っていた。
「高田は何か意見あるか?」
「いえ、山下さんの案が一番良いかと思います。」
「そうか。では今回の意見を合わせて改めて弊社の方で資料を作ります。次の打ち合わせの日取りなんですが次の金曜はいかがでしょうか。」
「はい、大丈夫です。よろしくお願いいたします。」
もう打ち合わせが終わってしまった。仕事の早い者同士だとサクサク進むが、あっという間過ぎて物足りない。もっと山下の声を聴きたかった美鈴だが、仕方がない。
「入口までご案内いたします!」
せめて建物を出るまでは一緒に居たい。社会人であれば当たり前であるが、美鈴は心から彼を丁寧に見送りたかった。
「ありがとうございます。では、佐藤さん、また金曜日よろしくお願いいたします。」
「えぇ。よろしくお願いいたします。」
帰りのエレベーターは人が何人か乗っていたので会話で間を繋ぐ必要はなかったが、その分彼女との距離が近くなってしまった。
(くっ、さっきより匂いが近い…)
山下が好きな香りはフローラルやバニラと言った甘い匂いなのだが、美鈴はドンピシャな香りを放っていた。
(美人で良い香りするとか、完璧すぎる…)
ドキドキしながら山下は俯いた。きっと顔は真っ赤だろう。耳も頬も熱かった。
「本日はありがとうございました。」
「こちらこそ、こちらまでお越しいただきましてありがとうございます。また金曜日、よろしくお願いしますね!」
美鈴は寂しい気持ちを抑え、とっておきの笑顔で見送った。
山下は、彼女の美しい笑顔にまたドキドキしながら自分の会社に戻っていった。
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