第6話 「もう、しばらく恋愛はいいや」

あれから数日経った休日、俺と雅は勇樹くんと旭ヶ丘麓のハンバーガーショップで昼食を取っていた。


今頃あの東屋では愛菜ちゃんと優美ちゃんが直接話ているのだろう、終わるまでここで時間を潰していろとの指示だった。


「はい、勇樹くんポテトどうぞ」


「あ、ありがとうございます」


勇樹くんを挟んで窓際のカウンターに座る俺達、嬉しそうに勇樹くんに構う雅を見て溜息をついて続ける。


「お前、マジでショタコンだったんだな。全然知らなかった」


「うっさいな、いいでしょ別に。勇樹くんこんな可愛いんだから……それより、アンタ大丈夫なんでしょうね」


「何が?」


「何がって、あの愛菜って子に全部解決して貰おうって本気で思ってるんじゃないでしょうね?最後はアンタがちゃんと謝るのよ?」


確かに状況としてはかなりおかしいだろう。事の元凶とも言える小学生の少女に仲介を頼んでいるのだ。


「当然だろ……ただ……なんて謝ればいいんだ?」


「そりゃ……うぅ」


雅は唸り声をあげて俯いてしまった。


そう、あの時起こった出来事でなんと謝ったら許してくれるのか俺はまだ見出せずにいた。


まさか、射精してごめんなさい。と言う訳にもいかないだろう。


「と、とにかく謝るの!謝ればきっと優美も許してくれるから!ねっ、勇樹くん」


「……は、はい」


「勇樹くん、正直に言ってくれよ。なんとかなると思う?」


「お姉ちゃん、潔癖な所があって……だから僕も愛菜ちゃんとの事ちゃんと説明出来なかった所があるので」


「そっか……お金はもうお母さんに返したんだよね?」


あの後、勇樹くんは愛菜ちゃんからお金を返して貰いお母さんにお金を返していたらしい。


優美ちゃんや雅には理解して貰えないだろうが、俺はどうしても愛菜ちゃんを嫌いになる事が出来なかった。


「はい、お母さんにはどうしても欲しいゲームがあって貯めてたって誤魔化しました……まだ怒ってるみたいですけど」


「ゆ、勇樹くんはさ……あの愛菜って子がそんなに好きなの?」


悪びれる様子がない勇樹くんを見て雅は恐る恐る質問している。どうやらかなりガチのショタコンのようだ。


「……僕は愛菜ちゃんと一緒に居たい。それだけですよ」






「やっと来た。待たせすぎよお姉さん」


「……どういうつもりなの。何がしたいの貴方は」


例の東屋、そこであの日以来の対面となった二人。待ちくたびれたと言わんばかりに愛菜は椅子から立ち上がった。


「面倒だけど、お姉さんがあのお兄さんシカトしてるって言うからさ……それは流石にないんじゃないって思って」


「貴方があんな事したからでしょ……あんな……あと画像を消してください!約束でしょう!?」


当初、優美はもう愛菜と会いたくないと突っぱねたのだが、画像の事で揺さぶられ消す事を条件にここまで来ていた。


「分かった分かった……お姉さんが来たくないとか駄々こねるから言っただけよまったく……はい、確認して」


「……っ、か、彼のも消してください!」


スマホの画像フォルダを見せて貰う優美、確かに自分の画像は無くなっていたが俊哉のモノはそのまま残っていた。


「それとこれは別、んで?何が嫌なのお姉さん。もうあのお兄さん嫌いになったの?」


「嫌いではないですけど……彼の顔を見るとどうしても思い出してしまうんです。あの時の事」


「貴方の弟君を助けようと思ってやった事でしょ?それを責めるのは酷なんじゃなぁい?」


どうにも、お互いの発言が互いに鼻につく。相当に相性が悪い二人のようだった。


「っ、貴方が勇樹からお金を取っていたから、こんな事になっているんでしょう?」


「愛菜も親のお金取ってこいなんて言ってないもん……それについては悪かったわ。ワンちゃんの事しっかり躾ておくね」


「そうじゃなく、なんでまだ勇樹や俊哉くんと一緒にいるんですか?もう関わらないでください!」


「……あーやっぱ、大っ嫌いだわお姉さん」


「奇遇ですね。私もです」


優美も、もう引くことはなかった。こいつは理解し会えない。互いにそう感じあっているのだった。


「私とお姉さんが死ぬ程相性悪いのは分かった。もう呼び出したりしない……でも、お兄さんをシカトするのは辞めなさい、嫌なら嫌ってハッキリと伝えて……ここに呼ぶから二人で話なさい」


「……分かりました、私も向き合わなきゃって思っていた所です」


まさに水と油の関係と言える二人、もう互いの顔も見ずに自体は進行して行くのだった。




「愛菜ちゃん!」


「来たわね。東屋にお姉さん居るから、後はお兄さん次第よ」


「サンキュー!」


愛菜ちゃんから連絡があり、俺は全力で旭ヶ丘を駆け上がった。


雅や勇樹くんが追いつてくる前に俺は愛菜ちゃんにお礼を言って東屋に向かった。


「……久しぶり」


そこには、数日振りに会話する優美ちゃんが居た。俺の顔を見ると恥ずかしそうに顔を逸らした。


「隣、座るね」


俺はそう言って彼女の隣に座った。いざこうやって対面すると何処か恥ずかしい物がある。


「まず……ごめんね優美ちゃん、こんな事になっちゃって」


「謝らないでください……でも、私分からないんです」


「分からない?」


「……どうして、こんな事になってしまったのか。なんであんな事があったのに勇樹や俊哉くんはあの子と普通に話ていられるのか……どうして俊哉くんはあの時……だしちゃったのか。私には分からない事だらけなんです」


「……俺の事、嫌いになった?」


「嫌いにはなってません……でも……」


「ハッキリ言っていいよ。気持ち悪いって思った?」


優美ちゃんは、力なく、コクリと頷いた。


それはそうだろう。


小学生相手に痴態を見せ自分の下着で射精したのだ、気持ち悪いと思わない方がおかしいだろう。


「……そうだよね、分かった」


薄々、分かっていた。クラスの皆にも散々言われた言葉が頭に思い返される。


 ――お前、優美ちゃんと釣り合ってないよ


結局、俺は優美ちゃんと釣り合えるだけの男ではなかったのだろう。


まだ、優美ちゃんの事は大好きだ。


でも、これ以上嫌われてしまう前に区切りを付けた方がいいのかもしれない。


優美ちゃんの顔を見て、ずっと迷っていた事の決心が付いた。


「優美ちゃんの事大好きだけど。俺と居ると優美ちゃん嫌だろうから」


涙が溢れそうになる、それでも言わなくてはいけない。俺が告白して、彼女が付き合ってくれたのだ。彼女に振らせる訳にはいかない。


「別れよう……この一ヶ月凄い楽しかった」


俺はそう伝えて、後ろを向いた。もう、涙を我慢出来そうになかったから。


愛菜ちゃんは小さく頷いたように感じた、少なくとも彼女から別れを止める言葉は出てこなかった。


俺は、ゆっくりと東屋から出ていった。


「ちょ、ちょっと俊哉!」


東屋から離れた所に三人は居た、出て来た俺の顔を見て雅はなんと声を掛けてよいか分からなくなってしまったのだろう。


「……もう、しばらく恋愛はいいや」


雅は俺と東屋の方を何度も見てから、混乱したように東屋の方に走って行った。


精一杯、本当に今出来る精一杯の軽口を残して、俺は旭ヶ丘を後にした。





「……優美、泣いてるの?」


「雅ちゃん……そっか、雅ちゃんにも心配掛けちゃったよね」


私は、ぐちゃぐちゃの感情で、気がついたら優美の所に行っていた。優美は涙を流して東屋に座っていた。彼女が振った訳ではないのだろうか。


「……ごめん。元々、私がアイツを紹介したから」


「私、最低です……言えなかった、俊哉くんは悪くない、私はまだ俊哉くんが好きって……その気持ちもあるのに、あの時の事がフラッシュバックして……どうしても言えなかったんです」


どうしたら、どうしたらいいのだろう。優美の事、俊哉の事



……私の事







「……愛菜ちゃん」


「……分かってるわよ。あのお兄さん、馬鹿だけど」


僕はそれぞれが困惑しているその場所で見守る事しか出来なかった。


これからどうなるかは分からない、でも、愛菜ちゃんが何を考えているかは僕が一番よく知っている。


愛菜ちゃんは自分の頭をソっと触った、大和田さんは、爛れた関係の僕達を拒絶しなかった。受け入れてくれた……撫でてくれた。


「終わらせる訳ないでしょ。こんな事で」


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