第3話 「それでも、僕は愛菜ちゃんと居たいから」
あの時間は夢だったのだろうか。
気がつけば部屋で寝ていた俺は寝ぼけ眼でスマホを手に取る。
LINEの通知が何件か入っていたので確認すると見慣れないトークが出来ている事に気がつく。
『愛菜様と可愛いペット達♡』
頭が痛くなって来そうなトークに入ると愛菜ちゃんからまた遊ぼうね、というメッセージと何枚かの写真が載っていた。
いつの間に撮ったのか、俺の萎えた小さいあそこと勇樹くんのあそこの画像。
同じ位だね♡という腹立たしいメッセージとそして……修正されスタンプで隠された優美ちゃんのアソコらしき画像。
下着を剥いだ時に撮ったのであろう、多少ブレているが陰毛が透けて見えるそれは恐らく優美ちゃんの物なのだろう。
――みたい。見たい!
心臓をバクバクさせながらやり取りを追う。元の写真は愛菜が持ってるから今後の身の振り方よーく考えてね♡というメッセージを最後にやり取りは終わっていた。
メンバーは俺と優美ちゃんと勇樹くんと愛菜ちゃん。既読は人数分ついていた。
見ている、優美ちゃんも見ている。
その事実だけで下半身に血が集まって来るが、ふとスマホの時刻が目に入る。
「やべぇ!学校じゃん!」
間もなく一時間目が始まる時刻で遅刻は確定だ。俺は大急ぎで通学の準備に入るのだった。
「……愛菜ちゃん」
「なーに?私眠いんだけどぉ」
お昼休み、不自然に孤立した愛菜ちゃんの机の隣に座って問い掛ける。昨日あんな事があったとは思えない態度の愛菜ちゃんだった。
「お姉ちゃんと大和田さんの事なんだけど」
「ああ、新しいおもちゃ達ね……あの後どうなったのよ。あの処女お姉さんは」
「絶対にもうあの子と関わるなって叫んで部屋に閉じこもちゃって……今日はなんとか学校行ったみたいだけど」
あんなお姉ちゃんは見た事がなかった。凄い剣幕で言い放ったかと思うと物凄い勢いで部屋に入って行ってしまった。
「面倒くさいわねぇ……んで?大好きなお姉ちゃんの言いつけを早速破ってるけどいいの?」
「それでも、僕は愛菜ちゃんと居たいから」
今更お姉ちゃんにバレようが、僕の気持ちは変わらなかった。クラスの女子は遠巻きから僕と愛菜ちゃんを見てひそひそ話をしている。いつもの事だ。
「本当変わってるわねワンちゃんは……クラスの人気者だった美少年勇樹くんも今やビッチ小学生と共にクラスで浮きまくってる訳よね」
「……そんな事」
「まっ、今は平和なもんよ。因縁つけられまくる去年よりシカトされる今年の方がよっぽど楽ね」
そう、実際今は平和だった。激動とも言える去年。クラスの人気者だった僕と愛菜ちゃんが転落して眉をひそめられる存在になった一年に比べたら本当に気が楽だった。
「そうだね……僕はこれくらい静かな方がいいな」
「あんた、あのお姉さんの弟とは思えない程どっしりしてるわ……性癖はバグってるけど」
愛菜ちゃんは呆れたように呟く。去年まではお昼休みは男女問わず愛菜ちゃんの周りに多くの人が溢れ、校庭や体育館で遊んでいたが今はクラスの端っこが僕達の定位置だ。
「……愛菜ちゃんがバグらせたんでしょ」
「はぁ?口答えするの?」
「……ごめんなさい」
基本的に、僕は愛菜ちゃんの言いなりだ。それで良いと思ってるしそれが心地良い。
昨日大和田さんが愛菜ちゃんにイジメられているの見て……少し嫉妬してしまった。
だが、大和田さんも僕の事を思ってやっているのだからと納得した。
「あ、そうだ。はいこれ」
「お金……なんで?」
愛菜ちゃんは僕が渡したクシャクシャの1000円を5枚僕に手渡す。不思議そうに愛菜ちゃんを見ると彼女は机に突っ伏して続けた。
「誰が人のお金取ってこいなんて言ったのよ。ワンちゃんのお小遣いで愛菜に貢なさいって言ったでしょ」
「……小学生のお小遣いじゃ5000円貯めるのに何か月もかかっちゃうよ」
「そうなんだ。うちお小遣いないから相場知らないし……んじゃ何か月か後にいらっしゃいお客さん♡」
「……」
「……本当、男の子って可愛いわね」
泣きそうな顔をしている僕を見て愛菜ちゃんは吐き捨てるようにそう言った。
誰がなんと言おうと愛菜ちゃんは優しいと僕は思っている
「おい!」
「あら、お兄さんいらっしゃーい」
あれから数日が経った、何が起こるのかとビクビクしていた俺の想いとは裏腹に。特に事態が動く事はなかった。ただ一つの事実を除いては。
「いらっしゃーいじゃねぇ!愛菜ちゃんのせいで……優美ちゃんに嫌われちゃったじゃねぇか!」
当然とも言えるが、優美ちゃんはあれから一言も口をきいてくれていない。俺と目が合うとそそくさとその場を離れてしまいLINEも既読スルーの状態だった。
「んー愛菜のせいかなぁ?あれくらいの事でヒビが入る関係だったって事でしょう?」
「……この前のをあれくらいって言えるのは愛菜ちゃんくらいだよ」
例の東屋に居る筈だと訪ねて見るとまたこの2人はそこで遊んでいた。
愛菜ちゃんの太股に挟まれながら勇樹くんは冷静にそう突っ込んでいる。
ある意味俺や優美ちゃんより場慣れしているのかもしれない。
「うるさいわねぇワンちゃん。絞め落とされたいのかな?」
「……勇樹くん、俺は君を助けようとああいう事をした訳だっただけど……余計なお世話だった?」
彼女の弟を助ける為、という大義名分の元行動していた筈なのだが、当の本人はノリノリで彼女の太股に挟まって幸せそうな顔をしている。
小学生なのに大した物である。
「いえ……大和田さんの気持ちは嬉しいんですが……ごめんなさい」
「あはは、気にしなくていいのよワンちゃん。彼女にいい所見せようとして女子小学生に返り討ちにあっただけの人なんだから……お兄さん的には負けてないんだっけ?」
「……やっぱり、あれがまずかったのかな」
先日最後のやり取りを思い出す。あれが決定打となって優美ちゃんと疎遠になってしまったのは間違いなかった。
「そりゃそうでしょ。最高に面白かったけど処女お姉さんに取っては死にたいくらい恥ずかしかったでしょうね……んで?今日はなんのごよう?」
「……元はといえば愛菜ちゃんのせいなんだから。責任持って、俺と優美ちゃんの間を取り持ってくれよ!」
女子小学生にこんな事を言っているのは我ながら最低だと思うが、他に方法など思いつかなかった。無視に既読スルーでは取り付く島もない状況なのだから。
「なっさけない。恥も外聞もなくよくもまぁ……でも、お兄さんの欲求に真っ直ぐな所あの処女お姉さんよりマシかな」
虫けらを見るように俺を見下しながらも、少しは気に入ってくれているようだ。そして異様な程優美ちゃんを嫌っているのも見て取れる。
「……なんで、そんなに優美ちゃんを嫌がるんだよ」
「なんでって……ああいう感じの子達に汚物のように扱われているからよ。ねぇワンちゃん?」
「僕は……お姉ちゃんと愛菜ちゃんが仲良くなって欲しいし……大和田さんとお姉ちゃんも仲直りして欲しいし」
とても、小学生がするような表現ではない。そもそもこの2人の関係も異様なのだ。俺はまずこの2人の事を知りたくなってしまった。
「はぁ……面倒くさいなぁ……あの手の女って根に持つのよねぇ……愛菜ダルーい」
「……一体、何があったって言うんだよ。勇樹くんの愛菜ちゃんに対する気持ちは……なんでこんな歪な関係に」
俺の問いに、2人は何処か遠くを見るように、とても小学生がするような表情とは思えない悲しい顔を一瞬浮かべてから話始めるのだった。
「んふ……童貞君には少し刺激の強い話かもしれないけど……ちょっと昔話でもしよっか」
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